10:休日の釣り
「はーい!今朝は余ったので、お代わり自由です!」
全員に食事が行き渡り、余りが出ると争奪戦となる。
一度目は大盛りは不可で、少な目は可のルールのため時々余るんだ。
で、余るとお代わりという形で食べ足りない方たちに分ける。
声を掛けると、待ってましたとばかりにお代わりの列が出来上がる。
この国で人気のない、だが体に良いとされているメイン料理。それを少な目にする人が多くて余ったんだが、食べてみて美味しかったらしくお代わり希望者がとても多い。
アク抜き方法を変えてみたらえぐ味がなくなって、それがお代わり希望が多い理由だろうな。
「ニホンショクじゃなくても、こんなに美味くなるもんなんだな」
「ああ!これなら文句ないな!」
調査行軍に出て四日目。私もこの生活になれ始めた。
で、手隙の時は料理だったり洗濯だったりの手伝える事の手伝いを始めたよ。
洗濯は洗濯機が導入されているのと、水分分離乾燥法が浸透しててかなり楽になっているそうだ。
その一方で料理は携帯コンロが導入されていて楽になった面もあるが、やはり短時間で大人数分を作るのが凄く大変なのは変わらないって。
ただ、ピーラーを見かけた事がなかったのでピーラーを錬成して提供した。これはとても重宝がられたな。
軍にはトレンチコートを提供した。トレンチ、訳すと塹壕だ。地球で塹壕戦が展開されるようになり取り入れられたコートだから、軍で使うのにたぶん使い勝手が良いのだろうと思ったんだ。
まだ雪も残っているので温かい加工の裏地付。暑くなったら裏地を外せる。するとレインコートとして使える仕様にしてある。
「お代わり終了です!」
色んな事を考えながら配給していると、あっという間に余っていた料理はなくなった。
「ええー?!」
「少な目にするんじゃなかった!」
ブーブー言っている方もいらっしゃるが、今日は休みだ。どうしてもなら、狩りや漁へ行って腹拵えされるだろう。
◇
「クー、ルー、シルバー、ユリシーズさん。行こう」
〘行こう行こう!〙
〘いっぱい捕るのー!〙
〘狩りなら任せろ〙
「ああ」
朝ごはんの片付けまで終えた私達は将軍さまの許可を頂き、釣りへ向かう。
「それにしてもシルバー…。本当について来るの?」
魔物馬のアイルより一回り大きな成体のフェンリル、シルバーに問いかける。
〘うん。テリトリーにはまだ餌が少ないからね。季節が二回巡る頃には、ちょっとは餌が増えてると思うからさ。それまで旅も良いと思うんだ〙
「そっか、分かった。自由気ままにはできないけど、それはゆっくりで良いから理解してね」
シルバーとは以前知り合い、それ以降王都にも旧王都にもたまに会いに来られていた。そんな訳で、人間社会では自由気ままに過ごせない事はなんとなく理解している。
ついでに言うと、今朝、シルバーがひょっこり陣営に姿を現しても極端な混乱は起きなかったのは幸いだった。みんな王都で実際に見た事があったり、噂を聞いたりしていたからだ。
◇
「さーて、ここで魚を捕ろうか」
肉類はクーとルーが旅をしながら狩りをして、せっせと無限収納に貯めてくれているそうだ。カーニバルも肉は提供して下さるというので、肉には困らないだろう。
なので、私は魚を狙う。毎日肉料理は無理。魚も食べたい。自分の無限収納に海魚を入れてきているが、流石に二年分もない。
なにせ狼も魚を食べる。カナダの海辺の狼とか、蝦夷狼の標本を調べると魚も結構な量を食べている事が分かったそうだ。
クーとルーは初めは食べ慣れなくて魚を嫌っていたが、食べ慣れてからはよく食べている。が、お風呂は好きだが自ら水に入ってまで捕らないらしく、私が餌としてあげた時しか食べてないらしい。あげればかなり食べる。
よって確保できる時には確保しないと、後々困る事になる。
用意が整うと、私とユリシーズさんは釣り糸を垂らす。
「何が釣れるかな?」
「あー…、一つ下流の橋までなら時々凄い大きいのが捕れるけど、この辺りはヤマメとかイワナとかが捕れるよ」
馴染みのある魚で良かったあ。そんな事を思いつつゆっくり糸を垂らして十数分後。
「ぎゃーっ?!へび?!」
川魚と思えないアタリにも驚いたが、見えた尻尾に飛び上がるほど驚いた!!
「わっ、竿を離すな!たぶん高級魚のオオウナギだよ」
「ムリムリムリーっ!!どう見てもへびだもんっ」
へびが大の苦手の私は、もう半泣きだ。
「分かった、代わるよ」
私のへびの苦手さ加減を知っているユリシーズさんは、釣り上げるのを代わってくれた。そして格闘する事十分ほどで1・5メートルくらいあるオオウナギを釣り上げてしまったよ。
「と、鳥肌が収まらない…」
「すぐ無限収納へ入れるよ」
ユリシーズさんは苦笑いしつつオオウナギを〆、すぐさま無限収納へしまって私の目に映らないようにしてくれた。ユリシーズさん、ありがとう。
その後、ユリシーズさんはヤマメやイワナといった魚を釣り上げている。私はオオウナギ以降アタリすらない。
またポイントを変えようかと考えた時だった。
「ヒット!だけど、また川魚とは思えないアタリなんだけど!!」
「あ、ノコギリが見えた。…ノコギリエイかも!ノコギリエイならオオウナギより高級な魚だよ」
「タンマっ!私の腕力じゃあげられない…っ」
もう竿を持って行かれそうッ。
世の中には淡水エイもいるが、今釣れなくてもなどと考える余裕もない。
これもユリシーズさんが代わって釣り上げてくれた。これは2メートル超えてそうで、おかげでもう腕がじんじんしてるわ…。
「普通にイワナとかヤマメ釣りたい…」
前におじいちゃん達とキャンプした時の釣りでは、普通の魚を釣ってたぞ。今日はなぜ普通の魚が釣れないんだ?
「俺はオオウナギもノコギリエイも嬉しいよ。たぶんカーニバルの面々もだよ」
…まあ喜んでくれる人がいるなら良いか…。釣りたくないけど。
◇
「結局、普通の魚は一匹も釣れなかった…」
本日の釣果はオオウナギ二匹、ノコギリエイも二匹、オオナマズ三匹にイトウっぽい魚一匹だった。
お昼からは電気ショッカーみたいな魔道具を錬成し、サクサク対処して釣り上げた。…もちろんユリシーズさんがね。
だってさ。電気ショッカーで気絶させても、大きくて重くて引き上げられないんだもん。
「今日はきっと、たまたまこんなのばっかり掛かったんだよ」
ユリシーズさんがフォローしてくれるが、精神的にとても疲れたのは否めない。
〘クーのあげるから、元気だして〙
〘ルーのもあげる〙
〘俺もやろう〙
私を元気づけようと三匹が出してくれたのは立派な鮭。気持ちは嬉しいが、余計に凹んだかも…。
凹んだが、三匹の気持にお礼を言う。
「クー、ルー、シルバー、ありがとう」
こうして釣りを終え、陣営に戻って私の釣った魚は軍の食料に加えて頂いた。ユリシーズさんとカーニバルのために少し冊を分けて頂いたけど、とても喜ばれたよ。
次に釣りができたら、普通の魚を釣るぞと闘志を漲らせたのはナイショだ。
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