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 姉なんてものは損だ、と常々私は思っている。『お姉ちゃんなんだから』というだけで責任や優秀さや勤勉さを押し付けられ、何事も出来て当たり前。出来なければ努力不足を詰られ、嘆かれ、蔑ろにされる。お姉ちゃんなんだから我慢しなさい、お姉ちゃんなんだから頑張りなさい、お姉ちゃんなんだから譲ってあげなさい。そんな理不尽がまかり通る。好きで先に生まれた訳でもないというのに。


 それでもまだ5歳違い、せめて年子であれば耐えられたかもしれない。だが妹と私は双子なのだ。たった数時間の差がこれだけの扱いの差に繋がるなんて、理不尽を通り越して理解不能だ。


 私は目の前でイチャイチャする妹のスノウと、私の婚約者であるはずのキール王子を無表情に眺めながら、そんな事を考えていた。


 隣国の王子であるキールと、この国の第一王女である私の婚約は、隣国からの強い希望で調ったというのに。キール王子は初対面の時から妹のスノウがお気に入りで、事あるごとにスノウを引き合いに出して私をこき下ろす。


「ノエリア、お前は相変わらず愛想が無いな。スノウはこんなにも愛らしいのに」


 それはスノウが隣国の淑女教育を受けていないからだ。キール王子の国では、淑女は表情筋を殺さなくてはならないのだ。私が無表情でいるのは、お前の国のしきたりに則しているからだよ!文句は自分の国に言え!


「全く、どうしてノエリアなんかがボクの婚約者なんだ。スノウが婚約者なら良かったのに」


 それもお前の国の事情だろ!

 私がキール王子の婚約者になったのは、キール王子の国の宮廷占い師だかが『隣国の一の姫を王家に迎えれば国は栄え、それ以外を迎えれば国が衰退する』などという託宣を下したからだ。


 キール王子の国は広いので、隣国なんてウチ以外にも沢山あるのに、何故か私が婚約者に選ばれた。文句を言うなら自分の両親に言え!私だって、結婚前から妹とイチャイチャするような奴と結婚したくないわ!


 私は何度も両親に、私ではなくスノウを嫁に出すよう訴えた。なんならスノウとキール王子のイチャコラを魔導具で録画して見せたりもした。せめてスノウに態度を改めるよう、苦言を呈してくれればと期待して。

 けれど、何度両親に願っても、私とキール王子との婚約は覆らなかった。それどころか、お前に可愛げが無いのが悪いとか言われるし。何それ?姉の婚約者に色目を使うのは、お咎め無しなの?


 分かってる、両親に期待した私が馬鹿だった。両親にとって私は政治の駒、妹は可愛い娘なのだ。可愛い可愛いスノウを国外へやるなんてとんでも無い。それが国王と側妃の本心だ。


「あーもうっ、姉なんてやってられるかー!!」


 1人になった私は芝生に寝転んで、心の内を叫んだ。侍女が咎めるような目で睨んでくるが無視だ。この程度の事で目くじらを立てるなら、キール王子と城下町デートに行ったスノウも諌めろよ。微笑ましげに見送ってたの知ってるんだぞ。


 国王と側妃がスノウに甘いので、仕える者達も自然とスノウに甘くなる。私とスノウを平等に扱ってくれるのは、王妃様と王太子様──王妃様の息子である義兄くらいだ。


「またキール殿はスノウと出掛けたのかい?ノエリアを置いて」


 その義兄が、側近である公爵家の令息と共にやって来た。私は慌てて立ち上がり、淑女の礼をする。


「オレ達の前では畏まらなくて良いって言ってるだろ?」


 義兄は私の手を取って、テーブル席へと導く。公爵令息のウィリアムが椅子を引いて待ってくれている。2人共キール王子とは大違い、純然たる紳士だ。ささくれ立っていた私の心が、穏やかに癒やされる。

 礼を言うと、義兄はにっこり笑って私の頭をぽんと撫で、ウィリアムは黙礼して目を逸らした。社交的な義兄と寡黙なウィリアムは、正反対の性格のように見えるのに何故かウマが合うらしい。私が会うときはいつも一緒だ。


「大丈夫かい、ノエリア?本当に長男長女はいつも割を食うよねえ」


 席についた義兄が同情するような声で言う。さっきのを聞かれていたようだ。なんて恥ずかしい。


「お耳汚しを」

「またそんな言葉を遣う。さっきのみたいに気楽に話してよ。心からの叫びって感じで、すごく良かったからさ」

「……お義兄様は意地悪です」

「そうかなあ?ウィル、どう思う?」

「俺に振らないでください」


 ウィリアムにまた目を逸らされた。彼は私達の幼馴染みで元々大人しい子どもだったが、成長するにつれ無口に拍車がかかっている。しかも口を開くと厳しい事を言う。スノウとの縁談が上がったこともあるほど優秀な男だが、スノウに


「あんな口煩いだけの面白味のない男なんて絶対に嫌!」

 

 と拒否された、ちょっと残念な奴だ。


「まあ、ノエリア様に構って欲しい殿下のお気持ちも理解できます。最近特にお忙しいですから」

「そうなんだよ。父上が面倒な案件を丸投げしてきてさ。オレも兄なんてやってられるかーって叫ぼうかな」

「俺も叫びたいです。長男なんてやってられません」


 義兄とウィリアムも長男として責務を負っているので、私達3人はよく集まって愚痴を言い合っていた。弟妹には分からない苦労も、この2人ならば共感してくれる。それに、次期国王と次期公爵である2人の大変さに比べれば、私なんてまだまだ気楽なものだ。


 義兄とウィリアムが頑張っているのだ、私も頑張ろう。この日もそう自分に活を入れた。義兄が王位を継いだとき役に立てるよう、キール王子とも良好な関係を築けるよう努力しよう。そう思っていたのだが。


「スノウ、其方が第一王女だった。ノエリアは第二王女だ」


 父である国王陛下に呼び出され、言い渡された真実とやらに私は混乱した。え、本当は私が妹でスノウがお姉ちゃん?どうなってんの?


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