1話 夢なら覚めてくれー!
とある田舎の高校。
暑い夏の日差し、うるさい蝉達の声、キャッキャキャッキャとプールで遊ぶスク水姿の女子高生。
そして、それをひっそりと日陰で水着姿で座りこんで見ている1人の男子高校生がいた。
「う〜ん夏だね〜スク水最高ですな!」
そんなエロ発言をする少年の名は、冴島葉。
青春真っ盛り中の高校二年生の17才。
髪は短髪の黒髪で、身長は日本人の平均並み。
顔立ちは、カッコよくなければ、カッコ悪くもない、どこにでもいそうな普通の少年である。
「しっかし、アイツ遅いな〜とっくに約束の時間すぎてるぞ!」
夏休みに入り、学校のプール開放日にプールで友人と遊ぶ約束をしてしまった少年は、約束の時間になっても現れない友人にイライラしていた。
「アイツ、忘れてんのか?連絡もしないし!何だよ!ちょっくら電話すっか!」
プールの更衣室のロッカーに携帯を取りに行く事にした葉は、おもむろに立ち上がった。
その瞬間、何か違和感を感じる。
さっきまで、うるさかった蝉の鳴き声が聞こえない。
スク水姿の女子高生もいない。
自分以外誰も居ない・・・
辺りは静寂になり、だんだん空気も冷たくなってきた。
そして汗は冷や汗へと変わり始める・・
「何だ?いったい・・何が起こってるんだ?」
葉が不思議がっていると、どこからか不気味な笑い声?が聞こえた・・
「女の笑い声?・・これってもしかして・・」
葉は、ある事を思い出した、学校の七不思議の一つである「プールに出る幽霊」の事を・・
「確か・・その幽霊に会うと死ぬんだっけか?いやいやいや、噂を信じちゃいけねー!よし!帰ろう!
きっと今のは、風の音だな!うん!うん!」
と、身震いをしながら心の中で帰る決心をした。
だが、足が動かない・・!
「動け!動け!何で動かないんだよ!クソ!」
「アハハ・・」また笑い声が聞こえる。
その時、足が突然動いた。
「お!動いた!よっしゃ!今だ!逃げるぞ!」
だが、逃げようとした時、足は動いたが自分の意思とは関係なくプールの方へ足が勝手に動き始めた。
「いやいやいや何で?何で?ええー!そっち行ったら落ちるから!そっち行ったら落ちるから!」
葉は、焦りまくった。そして・・
「うわぁぁぁぁ!」
バシャーン!!葉は、落ちた。
「うおっく・・苦しい・・息が・・早く上へ・・・」ブクブク・・
空気を吸いに上へ必死に泳いだ。
ザパァーン!!
水面から顔を出し、大きく息を吸い込んだ。
「プハァァァー!死ぬかと思った!・・
ん?・・ここはどこだ??」
葉は、目が点になっていた。
辺りは、森の中。
葉は、学校のプールではなく、森の池から顔を出していた。
「え〜と・・俺は、学校のプールに落ちたんだよな?
何で、森の池にいるんだ?
まさか・・俺、落ちたショックで死んだ・・
て事は、つまりここは、あの世!」
顔が一瞬で青ざめる。
「いや、でもまてまて、こん場所があの世な訳ねぇし・・俺のあの世のイメージは、もっとこう明るい感じだ。いやそれは、天国のイメージだった!
まさか・・地獄に落ちたんか!
だから、こんなジメジメしたっぽい所なんか!
いや、でも、犯罪なんかしてねぇし!悪い事何もやってねぇよ!!
あ!でも思い返せば・・
女子の胸元をこっそり見たり、落ちてたエロ本を持ち帰ったり、自販機のお釣りがあるかどうかたまに調べたり・・・でも、こんなの犯罪じゃねぇよ!
皆んなやってる事じゃんか!
ん?いや皆んなな訳ねぇか・・はは・・
いや!でもこんな事で地獄に落ちるんなら、ほとんどの人が地獄行きだわ!」
彼は、自分の過去の行いを振り返りながら、ここがあの世でも地獄では無い事を一生懸命願った。
「あ!そうだ!色々と考えたが、もしかして夢って事もあるかも知れないぞ!
俺は、まだ学校のプールに居て、友を待ってる間に寝ちゃったかも知れんよな!
だとしたら、あのプールの出来事も夢!急にこんな所に居るのも夢!な〜んだ、夢じゃないか!」
ポジティブ思考に考えるようになった葉は、夢の世界だと信じるようにした。
「まずは、池から上がって夢の世界でも満喫しますかね!夢の中は、俺の世界な訳だから、エロカワイイ子がでて来たら、一緒に、ムフフな事でも・・」
エロイ事を考えながら、池の岸まで泳いだ。
そして岸に上がり、薄暗い森の中を歩きだした。
「ハックション!うぅ〜さびぃ〜、そういやほぼ裸じゃんか俺。所有物は水着だけって・・どんな夢だよ、たく・・靴も無ぇから足裏が痛ぇし・・あれ?そういや、夢って痛みや寒気ってするんだっけか?」
少し夢に疑問を感じ始めた葉。
そして歩いて行くと、光が見えた。
森の出口に行き着いたのだ。
森を抜けるとそこには、広い草原、遠くには山々が見え、綺麗な青空が広がっていた。
「おぉ〜何とも綺麗な光景だな!さすが俺の夢!
後は、エロカワイイ子でもいね〜かな〜」
ワクワクしながら、草原を歩いていると、少し遠くに人の姿を発見した。
背が少し高く、黒髪のロングヘアーで、白いワンピースを着て、後ろ姿で草原に1人で立っていた。
「女の子だ!後ろ姿だから顔がわからんが、間違いなくカワイイ子だ!背が少し高いからお姉さんかな?」
などと思い、女の子に近づいた。
「やぁやぁお姉さん。何をしているんですか?もし、お暇なら、この僕と草原のおデイトなんかどうでしょうか?」ニヤッ
とカッコ良くキザセリフを半裸で言った。
葉は今までナンパもした事が無ければ、ほぼ女の子と喋った事がない少年である。
葉が、こんなにも自信有り気にナンパできるのも、自分の夢だと思っているからであった。
女の子は、その呼び声に気づき、こちらを振り向いた。
そして葉から、笑顔が消えた・・
その女の子の顔は、この世のものでない顔をしていた。白目で所々皮膚が裂け、口からは、血が出ていた。
「何だ、この女は・・!?」ゴクリ・・
あまりの女の顔に、背筋が凍った。
葉は、後ずさりしながら逃げようとしたその時、女が突然両腕を振りかざし襲ってきた!!
「わあぁぁぁぁ!」
葉はビックリし、倒れこんでしまった。
女は、倒れこんだ葉の両肩を掴み、顔を噛みつこうとしてきた!
必死に葉は、噛みつかれないように左右に首を振り、何とか回避する。
「うわああああー!た、助けてくれぇ誰かあああああー!てか、夢なら覚めてくれええー!ホラーな夢は望んでねぇんだよおおおおー!」
必死に叫び、抵抗する葉だった。
ガブリ・・・
「え⁉︎」
「いっっってえええええええええー!!」
抵抗は、虚しく葉は、とうとう噛まれてしまった。
葉の首筋から血が吹き出る。
「ゆ、夢じゃねぇのかよ・・痛えよ・・誰・か・・」
意識がもうろうとし始めた。
女は、もう一度噛みつこうとし、葉に襲い掛かかる。
葉は、終わった・・と思い何も力が入らない状態で、ただただ、女が襲って来るのを見ていた。
その時だった。
「⁉︎」
女の頭に矢が飛んできて突き刺ささった!
そして女は、そのまま倒れ込む。
それは、一瞬の出来事だった。
意識がもうろうとしながらも、横に顔を向けた。
少し離れた場所からピンクの髪で黒いローブを纏った女の子が弓矢らしき道具を持って、こちらを見ていた。
そして、葉は、そのまま意識が遠のいた。