ソウゾウのカタチ
「ツッキー、頼む、戻ろうって、先生に知られたらやばいって」
創造科一年の学校案内中、乱入してきた片割れのヨネクラは肩をすぼめてそう声を漏らした。
「京極せんせーが居たら全力で逃げるところだったけど?」
「そういうことじゃなくてさぁ…」
「先輩、えむ科ってなんですか?」
赤い上着を羽織った男子がヨネクラに話し掛ける。
「んえ?知らないんだ、Machine科さ。君、何て名前?」
「……ゆー、です」
「優?」
ヨネクラが空に優、と漢字を指で描いた。しかしそれにYOUは間髪いれずに
「いいえ、Y、O、Uです」
「ほう、不思議な名前だなまあまいいや」
そこにツキガセが割り込んでくる。
「俺らM科は六階にあるのだ!」
どうだ!と言わんばかりの表情でヨネクラの肩に手を置いてもたれ掛かってそう言う。ヨネクラ自身はピクリとも表情が変わっていないが、重さでか少し傾いていた。
「しかし君たち、この学校に入学する予定なんだろう?ここのことなにも知らないのかい?」
一年生たちは顔を見合わせて困った顔をしたりして、キョトンとするものもいた。
「りじちょー、絶対かき集めただけだよねこれ……」
「はぁ……しょうがない、一階に降りるがてら説明しよう。」
→一階 生徒玄関前
「あ、ここ入ってきた場所だ」
「そうなのですよそこのネックウォーマーの男子?……男子だよね?」
ヨネクラがビシッと決めたくてポーズをとり、五本指を揃えて彼を指すが、どうやら性別判定に自信がない様子。
「ここは生徒玄関口、とはいってもここを通る生徒は少ないかな。すぐ横に花畑があるんだ。」
そう説明していると、また後ろから肩にツキガセが寄りかかってくる。
「そういやー聞いたかオヨネ?花畑、今年から立ち入り禁止らしいぜ。」
「っえ?まじ?」
「いいえ、特定の生徒は入れますよ。」
後ろの方からついてきていた三日月先生が、生徒の中からカオを出して付け加えた。
「どーゆことっすか?せんせー」
「そこは今年から創造科の校門になったの、いわゆるワープゾーンね。他の科の生徒が入って、もしもワープに巻き込まれたら……ってことで、貴方たちは立ち入り禁止よ。」
「えー!!あそこ一番の昼寝スポットだったのにー……」
ヨネクラがしょんぼりして、肩を落としていた。
「じゃぁ私達はここを通ることが多そう!」
イトが興味津々な様子で扉のガラス張りを眺めている。そこからは視界の右端に、綺麗な花畑が見えるだろう。
「んで向こうが事務室でー、こっちとこっちがエレベーター!4つあるけど、たまに点検で止まる。で、こっちの廊下をいった途中に視聴覚室があって、その奥は会議室がまた4つ。はい一階おわりー」
「待て待て待て」
「(この先輩、滅茶苦茶適当!?)」
黒は驚きのあまり口が閉じなかった。他の生徒も少し引いている。
「えーだってよぉオヨネ、この学校このペースじゃ一日あっても回りきらねぇよ。」
「それはそうなんだけどさぁ!幾らなんでも早口すぎるぜ?」
「俺ら初日に走り回ったから覚えたけど、最初は説明しても迷うぜ?」
「そ、そんなに迷うのか?」
「君ヘッドホンの音漏れ凄いね?聞こえてる?」
「聞こえてるっすよ」
「(聞こえてるんだ……)うん、部屋が多いのと、階数が多いのが相まって」
「懐かしいなぁーよく授業前に走って迷って着く頃には遅刻とか」
「うちも早く覚えないと……」
そう左目を隠した黒と青の少女が、エレベーターのアナウンスに混じって小さく呟いていた。




