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To create on CAMPUS  作者: 紫晶 朔実
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ワンドロ用番外編 黒いキャンパス

 いつから何も感じなくなったのか、覚えてない。物心ついた時にはもう何もなかった。その時はまだ一人で、自分がいま何処にいて、まず「地面」というものを感じることすら一切出来なかった。誰かが居ないと何もできない体。どうして生きているのか、高校生になれた今でもわからないままだ。

 少し前まで私たちは孤児院にいた。何処にでもありそうな小さな場所で、子供もほとんどいなかった。訪れる人も珍しい。

 そこで私たち十五人は、出会ってからずっとお互いを守るように一緒にいたらしい。私は何もわからなくて、ある日急に「音」が聞こえるようになった。その後暫くして、それが「補聴器」って分かったんだけど。

 小学校に上がるぐらいに今の家の主さんが孤児院を訪れた。おっとりした人で、言葉がとても優しかった。それまでは私たちは番号で呼ばれていて、回りの誰かと話すことも殆どなかったから、とても嬉しかったの。その人は

「広い家で一人、使用人たちも暇を持て余している。寂しいもんだから子供が欲しい。」

といっていたらしい。とにかく、その人、お父さんは私たちと出会った。最初は一人二人でと考えていたらしいんだけど、あまりにも私たちが離れないものだから、思いきって十五人全員貰っていってしまった。この白記って名前は、皆でお父さんと一緒に考えて自分達でつけた。皆で「記」って最後につけるって「お揃い」にして。「漢字」はお父さんに沢山書いてもらっていたらしくて、好きな「漢字」を選んだって、後から黒に聞いた。私の名前はアルビノで「真っ白」だから「白記」。ちなみに黒は、ずっと私と居て、私とは真反対で、「黒い服」ばっかり着るらしいから白の反対で「黒記」。後々血液検査したら「双子」だって分かった。元々聞いていたけど、お父さんが本当か分からないからって私の検査ついでに調べてくれた。

 みんな血は繋がってない。双子の私たちも明らかに違いすぎて、メイドさんに何回も聞かれた。記憶が曖昧だから、答えられなかったけど。

 皆がいるお陰で、手伝ってくれるメイドさんがいるお陰で、孤児院に居たときよりもすごく快適に過ごしていた。沢山色々な種類の「洋服」を着せて貰えて沢山誉めてもらった。でもやっぱり中学校では何も出来なくて……クラスメイトにバカにされたとき、また自分の体のこと自覚してしまった。


白「……私、高校行くのやめる……」

黒「え……?」

覚「急になんでさ?」

 中学三年の夏、豪華な夕食中に私はそうお父さんに伝えた。回りから急に「食器」がぶつかる音が聞こえなくなって、しん……となったのは少し怖かった。

白「だって学校で一人じゃ何も出来ないんだもん、高校行っても無駄だよ、皆別々の所に行ってやりたいことがあるし、メイドさんに迷惑かけたくないし……」

 この時にはもう、目が見えなくても少しばかり周りの状況がわかるようになっていた。皆が私の顔をしっかり見ている。お父さんは何も言わなかった。ただ黙って話を聞いてた。

 乱は情報系に進んでプログラマーになりたいって言ってた。宝は声優になりたいって言ってたし、皆それぞれ夢がある。私は……そもそも合う学校がいまだ「特別学校」以外見つかってなかった。でも行くのが怖くて、悩んだ末にこう言い出した。

愛「……んん……」

 沈黙が続いて、乱がその空気を破り捨てるように急に鶴の一声をあげた。

乱「え、じゃぁ皆一緒のところにいけば良いじゃん、一人がダメなら一緒にいれば良いじゃん。」

白「だからそれは……」

乱「ぶっちゃけ僕嫌なんだよね、いままで一緒の学校だったのにさ急にバラバラになるの」

 椅子をガタッと鳴らして、頭の後ろで手を組んで背もたれに寄っ掛かった。

乱「だから別にこっそり探してたんだ、皆の夢も潰さねぇし、一緒に通えて、白も居やすい場所!」

 乱がそう宣言すると、兄弟全員が「まじかよ」と声を揃えた。

乱「ふふん、俺お姉ちゃんだもん。ちゃんと見つけてるし。」

 まだ幼い真記と現記は別だが、私たちに年の差はないが、孤児時代に呼ばれていた番号の若い順に並んでいる。私は十二番目だから妹の方だが、彼女は一番だったので一番上の皆の姉だ。そう決まった時大喜びして、それ以来ずっと「僕お姉ちゃんだし」が口癖になっている。

夢「ドコドコ!?」

宝「……ほんとに……?」

刃「またこの前みたいに嘘だったら怒るぞ」

乱「まぁまぁ落ち着けって、なぁ親父、もういい?」

「まぁ良いだろう。そろそろ受験も本腰入れなきゃ遅いし、提案してみなさい。」

乱「っしゃー、お前ら全員夕食終わり次第私の部屋集合な!」


 乱の部屋は一人だけ広くて、訳あって一人部屋だ。だから兄弟で何かするときは、乱の部屋が遊び場になる。そこで見せられたのは

「「「二次元高等学校????」」」

乱「聞いて驚くんじゃじゃねぇぞ?皆の夢に繋がる学科があって、進路も多くて、就職先も多くて……なんとバリアフリー!車椅子も乗れるエレベーター、所々手すりつき、障害があっても満足に通えるって評価の高い高校だぜ!どうだ?どうだ?」

 興奮ぎみに乱が鼻息を荒くしてすらすらと説明する。いつもはお馬鹿さんなのにこういうときは回転が速い。

天「とはいっても……これ何処にはいれば良いの……?」

 パンフレットを拾って、天は眼鏡をかけ直して困り顔をする。話を聞けば、五個以上の科がある。らしい。多くない?

乱「……好きなとこ」

黒「うっそぉーん」

咲「そこは考えてなかったのね」

乱「だってよぉ~そこは個人ジャーン?」

点「最後の最後に人任せ……」

再「いつもと変わりませんでした……」

愛「で、でも確かに、楽しそう!まだ見学あるかな?」

乱「今週末あるぜ!夏休みは体験入学で作品作れるんだって、予約制で人気らしいから早くどこ行くか決めちゃおうぜ」

 全く私の意見は聞かず、盛り上がった勢いでどんどん話は進んでいく。でも皆と一緒なら大丈夫かも。もしかしたらこの年して、離れる寂しさでわがままを言ってたのかもしれない。

黒「私白と一緒のところ入る!」

白「え!?黒貴方画家になりたいって……」

黒「いいよ才能無いもん。これだって絵画科の作品……私じゃ浮いちゃう」

 黒の声は少し悲しそうだから、きっと諦めきれてないんだろうけれど。

黒「でも白が楽しいなら私それで良いもん。絵を描くことならどこでも出来るよ」

 飛びっきりの笑顔でイヤリングを揺らして。

黒「だって私、白の目になるって昔約束したでしょ?」

白「そうね、なら宜しくね」

黒「うん!」


 結局、どこの科も皆が先にとっちゃって、新しく作られるって言う「創造科」に入ることになった。

 まだ私は知らない。感じたことのない何かを体験することになるのを……。







「貴方のお子さんの検査結果ですが……酷いですね、どうやってもこんなピンポイントに損傷はしません。」

父「やはり脳が……?」

「いいえ、脳はとても健康的です。ただ、()()()()()()()()まるで人為的に切り取られたかのように……こんな手術が可能なはずがない……!」

 医者は机をドンッと叩いた。歯を食い縛り、涙を堪えていた。

「他の子達もひどい有り様でしたが……この子は特に酷い……なんてことを……他の子より余命は短いでしょう」

父「そうですか……」

 老人はそっと立ち上がり、医者にお辞儀をして立ち去った。

「生きていることすらおかしい……何をしたんだ……!」


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