【-α】
「はぁ全く……一瞬でも気を抜けないわ……」
木の幹の壁。枝と葉の天井。整ってはいるが凸凹根の床。輝く宝石の薄暗い照明と、窓から差し込む木漏れ日。その窓に寄り添うように設置された作業机の上で、人がコンコンと爪を立ててリズムを刻んでいた。
「なんで急にこんなことしなくちゃいけないのよ~」
「不眠くらい朝飯前だろ」
「私も君も一応人間ですよねぇ~?」
奥の部屋からまた歩いてきた人と、話している。その人は黒い日除け帽子にまるで本当に生きて留まっているかのような青い蝶の飾りがついていて、ノースリーブの上は黒、下は白薔薇の模様の入った黒地のワンピースを着ている。その傍に、杖のように暗い青色の傘を保持している。瞳は真っ黒だ。
「だって君できます?こいつらの管理」
「……四日ぐらいなら」
「こちとら一週間以上じゃぼけぇ!……気が狂ってないだけマシか」
机に向かって座って爪を鳴らしていた人は、そういいつつも目の下に隈はない。むしろその相手の方が隈がある。黒いシャツに鼈甲のイヤリング、灰色チェックのロングスカート。靴は真っ黒なショートブーツで爪が真っ黒に塗られていた。瞳は上が黒で下が真っ赤。瞳孔は真っ青だった。
「そんなに起きてたのか」
「現実は数日しか経ってないもんね、そりゃそうだよ」
大きくため息をついて仰向けに伸びをした。「んん~」と唸った。人はさっきまで突っ伏していたのだが、その下にタブレットが画面点きっぱなしで下敷きになっていたらしい。
「画面見てると永遠と目の疲れがとれないわね」
目を擦って椅子から立ち上がろうとする。が、そのまま膝を撃たれたかのように座り込んでしまった。
「……どうした」
「久しぶりに立ち上がったから……足、痺れちゃった……あでででで……」
「え、ずっと座ってたの」
「座ってた……」
「馬鹿」
「でもそろそろ訪問しよっかなーって思って、衣装作ってたんだよ?」
「そのまま行かないのかよ」
「どうせバレるけどさぁ、一瞬だけ別人で見てみたいのよねぇ。弟子には絶対すぐバレる~」
そういって、その机の下に畳んであった洋服を引っ張り出した。
「……趣味全開じゃん」
「だって楽しくなっちゃって、そろそろいきますわ~」
ゆっくりと立ち上がって「じゃぁね~」と奥の部屋に入っていた。
「仮想県立二次元高等学校ねぇ、また変なことを考えたな母さん」
タブレットには授業真っ最中の創造科の教室が映像で鮮明に写っていた……。