仮想県立二次元高等学校へようこそ!
【3月某日】⇒とある校内…合格者発表掲示板 及び 入学届出受付前
黒スーツに青いネクタイ、胸に青色の校章の飾りが付いたペンをさしている、三日月先生は生徒用玄関内の掲示板に集まる中学生たちを眺めていた。セーラー、学ラン、ブレザー…はたまた個性的な私服でこの場所は混雑していた。
ここは「仮想県立二次元高等学校」、地下2階から屋上の11階までの、都会有数の広い広い学校だ。今年新設された科を入れた8学科を兼ね揃え、国家一の設備が揃い、企業からのオファーや採用も多い。様々なコンクールでは常にこの学校名が最優秀賞を埋め尽くす、天才が集まる「創造のキャンパス」だ。
そんな学校の、新学期前の入学試験結果発表の日だ。この学校は毎年、倍率が他の工業高校とは比べ物にならないほどに跳ね上がるほどの人気高校。今年も、肩を落として玄関の外へ帰っていく生徒と、目をキラキラさせて大喜びしながら事務所へ歩いていく生徒と別れていく。中には印鑑を忘れて走って取りに帰る生徒も例年一定数は居る。
「ほっほっほっ、貴方が新任の先生ですかな?」
「あっ……えっと、工芸科の、一二三先生」
「ほほう、よくわかりましたな」
「そりゃぁ一二三先生の名前は有名で、よく聞きますから」
エレベーターから着物を羽織ったご老体、一二三先生が杖をついて歩いてきた。糸目で小柄な彼は微笑んで、掲示板の方に顔を向けた。
「またこの時期が来ましたねぇ…ここのところ、生徒の顔と名前が一致しなくて」
「私も覚えられるか心配です……」
「大丈夫その若さなら。今年からでしょう、自信をもって」
「えぇ」
「ふむ、今年は一風変わった生徒が居ますねぇ」
嬉しそうに一二三先生はまた微笑んで事務所のほうを見ていた。
人間の生徒の中に紛れて、ちらほら変わった生徒が見受けられる。
「(そういえば朝っぱら、一番乗りで来た子が居たっけ)」
淡い深緑の襟のたった上着を羽織り、背中に銀の箱から半透明の炎のようなものが噴出している、緑チェックのネックで顔を鼻まで隠した、黒髪の男の子。機械人形のような少女や幼げな少女など、数人連れて誰もいない朝一に現れた。
「(学校に行ったことないとかなんとか…聞こえてた気がする)」
次に気になったのは、もう3月も中旬なのに厚手の赤チェックのマフラーを巻いて、広がった白袖と青のフリルスカート、大きめの丸眼鏡をかけた、水色髪に赤桃色のメッシュのツインテールの女の子。腰辺りの飾りの紐が尻尾のように動いていた。
「(活気のある子だったなぁ…)」
今目の前に居るのは、凄く小さな妖精のような姿で、薄紫髪のさらさらロングで、菫の花弁のような翼を持った女の子。届かないかもと思って見ていたら、ふんわりと浮かんで書類を提供している。
「……まるで物語のような姿の生徒ですなぁ」
「そうですね……」
「(うっ、他の科を見学して覚悟はしていたけど、生徒が人外っぽい時点で予想を遥かに越えた……)」
今日生徒の資料が揃う。今年教師になったばかりなのでクラスの担任ではないが、ほぼこれから毎日顔を合わせることになる。
そして今日、自宅で資料を読んで椅子からひっくり返った先生なのであった。
「たぁー……怒らせたら怖いなぁこの子達……」
さぁ顔を合わせるのはまた下旬。
これから紡がれるのは、この創造科に入学した生徒たちの物語。
種族を問わないこの場所に揃った、多種多様な登場人物たち。そしてこの場所で起こる不思議な出来事。体育祭も文化祭も、行事も沢山目白押し。
さぁ新しい生活が始まります。
「(いいえ、和子、怖じ気付いちゃけいないわ、しっかりと向き合わなきゃ。)」
そうして資料を読み続け、次の日寝坊する三日月先生なのであった……。