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8.地下墓所 ①



 ダンジョンの中へと足を踏み入れれば、若干の湿り気を帯びた冷たい空気が出迎えをしてくれた。

 通路は程々に――と言うよりも、馬車が中へ入ることが出来そうな程には広く、等間隔で火のついた松明が揺れる灯りを落している。

 ダンジョンだから、ゲームだから。などと言ってしまえばそれまでと言うものだが、どういった原理か気になるものだ。


 とはいえ、気にしていても始まらないのでヒューイとパーティを組み、奥へと進み始めた。



「それにしても、此処って元々四人以上の推奨だったけれど……」

「意外と余裕、と思うだろ?」


 襲い掛かるゾンビを斬り飛ばしスケルトンを殴り砕きながら、ふとそこまで強くないと思える敵の様子に後ろで弓を構えるヒューイへと声をかける。

 どうもダンジョンの推奨レベルが15からとなっている割には、敵の動きが遅く脆い為に弱すぎる印象を受けたためだ。


「普通は見た目とかで腰が引けるし、意外と物理耐性が高いから苦戦するんだよ。本来は」

「打撃耐性と斬撃耐性でしょ?これならまだオオカミの方が怖いよ」

「それを言ったらなぁ……」


 剣による斬撃にしろ盾や蹴りでの打撃にしろ、今のナインの攻撃ではオオカミやゴブリンは倒すために二撃必要だ。

 しかしこのダンジョンに居るゾンビとスケルトンは、耐性が無い方の属性で攻撃すると一撃であった。

 故に軍用犬以下のオオカミ以下。そう脳内でランク付けしながらヒューイを連れて進む。


「まあ二階に行けば判るんじゃないの」

「意味深な事を言うね、まったく……ッ」


 バットを打ち抜いた後で肩を竦めて見せるヒューイへ振り向いては、呆れて眉を下げる。

 ……しかし曲がり角から飛び出し背後から襲い掛かるゾンビに、一拍遅れながら振り向きざまに切り伏せる。

 一瞬の気の迷いで判断が遅れた事に若干動揺してしまいながらも、剣勢が胸元で止まってしまったので舌打ち蹴り剥がし、ふと思案してしまう。


 彼らアンデッドは明確な殺意や敵意に乏しい、故に反応しきれていないのか、と。

 少し戦場から離れただけで、こうも勘や感覚が鈍ってしまうものなのか、と。

 そのどちらか、もしくは両方なのかと緩やかに思考しながら進んでいると、ヒューイが肩に手をかけて声をかけてくる。

 ふと彼の背後に浮かぶ光球を見て、後でアーカイブを見させて貰おうと思いながら、思った事が口から漏れ出す。


「どったの、大丈夫か?」

「まだ、集中できてないし迷ってるんだなって」

「あんだけ動けてるのに?」

「うん。まだ、まだ……」


 まだ生温い。

 ストイックに銃を握っていた|あの電子の世界《Freedom War Frontier》に居た頃に比べれば、まだ足りない。

 身を灼く熱が、焦がれる程の熱、が――



――がこん


「「え?」」


 ぐるぐると思考が渦巻いている中で無意識に進み始めたナインを、追いかけようと足を踏み出したヒューイのその足元が僅かにへこみ、重々しい音を立てる。

 そして足元の床が抜け、固まるヒューイと傍の光球が振り向くナインの視界から消える。


「――ッ、あぁあぁぁぁあぁぁぁぁ…………!?」

「うっそだろおいぃぃぃぃぃ!?」


 一瞬の浮遊の後、背筋に走る悪寒と共にナインの身体が頭を抱えるヒューイと光球を残し暗闇へと呑まれて行った。



……

………



「――――かはッ!?」


 目の前は真っ暗となり数瞬、もしくは数秒。延々と続くかと思われた浮遊感と悪寒が止むと同時、背中へと強い衝撃が加わった。

 見開いたナインの目に映るのは半分以上削れた自身のHPゲージと、僅かに見える松明と思しき灯りのみ。

 失調してしまっている感覚が戻るまで朦朧と、耳鳴りに襲われながらその揺らめきを眺めていることしか出来なかった。



「ぅぐ、ひどい目に遭った……」


 落とし穴に落ちて数分、ようやく感覚が正常へと戻れば自身の身体や装備を確かめ、次いで周囲を見渡してみる。

 落ちた所は先程までと同じダンジョンの見た目の小部屋のようで、落とされたであろう真上を仰いでも暗闇しか目に入りそうになかった。


 HPの半分ほどと装備の耐久値が減っていること以外には特に異常は見受けられないので、ポーションでHPだけは回復しておく。

 PTの表示は……明度と彩度が下がったようで、どうやら情報の共有が出来ていないようだ。



「登るのは……流石に無理だよね」


――ぴろん


 途方に暮れているとつい最近に聞き覚えのある着信音と共に、視界の端にメールのアイコンが現れる。

 送り主は当然ヒューイのようで、あちらはあちらで急いで合流を目指しているようだった。


 ざっと現状の報告を送っておき、小部屋から唯一続く通路へと歩き出せば……

 左右に分かれた丁字路が目の前に現れその先へと首を振れば分岐が、その逆にも分岐が見える。


「うっそぉ……」


 どうやら落とし穴の先は迷路の一角へと繋がっていたらしい。



 それから迷路へと入り込んでから約一時間程経過しただろうか。

 死んだように虚ろな目をしながら歩み続けていたナインの元へ通話がかかってくる。


「兄さん、もとい姉さん。今どうですか?」

「…………」

「姉さん?」

「ああ。アリスかぁ……もう何年も会っていないような」

「お昼に会いましたよね!?何が有ったんです?」


 久しぶりに思える会話に、つい冗談に聞こえない冗談が漏れてしまう。それ位にはこの迷路がキツいのだ。

 元々ナインが探索などが得意ではないのもある。しかも判別のし辛い苔と蔦以外に目印が無い通路を延々と歩いていれば、ふっとアンデッドが襲い掛かってくる。

 チープなホラー映画やパニック映画よろしく、着々とナインの精神は削られていっていた。


「お墓でね、落とし穴に落ち、今迷路」

「ワーズ墓所で、です?そんな罠無かったような……」

「……私ナイン、今お墓で迷っているの……」

「が、頑張って……ください」

「うん……」


 労いの言葉を胸に妹からの通話が切れれば、げっそりと項垂れるナイン。

 若干涙目のノンハイライトアイになりながら、襲い掛かってくるゾンビを斬り伏せている彼女は……見る人によってはこれはこれで若干のホラーでもあった。





 妹からの通話から、もう一時間程の間迷路を彷徨っていた。

 途中から気付きメモとして開いたウィンドウには今迄通った通路を書き込み、マッピングは順調に終わりへと近づいている。

 それでも定期的に送られるヒューイのメールに、『大丈夫』としか送り返せない程に見飽きた通路の光景にナインは滅入っていた


「あれ……?」


 しかしながら、ようやく出口と思わしきところへと辿り着くことが出来ていた。

 扉を開けて無防備に中へと入ってみれば、最初に落ちてきたのと同じ小部屋のようで奥にはもう一つ扉が有る。


「……やっと……抜け出せた、ぁ」


 安堵の一息をつきながら扉を開ける前に、ふと追い詰められ過ぎたからでも無警戒過ぎたと手が止まる。

 深呼吸を二つとり、まずはヒューイへと『たぶん、もうすぐ合流できるかも』とメールを送っておく。

 二呼吸を挟みそうしていれば、心に余裕が戻ってきた。


 ふと辺りの壁を見てみれば、一階の色合いとも落下した小部屋の色合いとも違う。

 よくよく観察すると……ごく普通の石材の様に見えた一階や青い深みを増した二階のものよりもなお、濃い蒼の石材。


「もしかして、迷ってるうちにもう一階降りてしまった?うん……?」


 首を傾げながら壁際を当てのない考えを巡らせながら歩いていると、ナインの爪先になにかが当たった感覚がする。

 石片でも蹴飛ばしたかと視線を下げれば、程々に大きいものが見えて瓦礫の小山かと思った、が……。


「――しまった」


 薄暗い中で目を凝らしてみれば、朽ちかけた亡骸のようにも見える。

 これは不味いと反射的に飛びのいてしまったが、何度見ても人型の亡骸にしかナインの眼には映らない。


 迷路(こんな所)で果てている以上、自分と同じで落とし穴に落ちて迷い、此処で力尽きてしまったのだろう。

 申し訳なさから蹴ってしまった手の骨を元の位置へと戻し、手を合わせて冥福を祈っておく。


「……いや、合掌でいいのかな?」


 黙祷しながら合掌をして、ふとファンタジーなこの世界の礼としてはどうなのだろうかと心の中で首を捻る。

 宗教上の問題は無いかもしれないけれど、などと考えていれば――


『哀悼を示してくれたのだ、方法など問題は有るまい』

「ひぃぃあぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

『ぬぅぉわぁぁぁぁぁぁぁっ!?』



なんか化けて(お化けが)出た。




どうも、CoCのシナリオでもよくボッシュートするGMです。


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