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7.ヒューイ

もう三話ほども一緒に投稿する予定でしたが、予定が未定で狂った為に二話投稿となります。


12/16 誤字修正、加筆



 ログアウトして母親と愛梨の昼食を作って済ませ、軽い雑談をしながら夕食の仕込みをしてからの午後のログイン。

 この辺り『Stranger Online』はよく出来ているのか、現実の24時間で大体ゲーム内時間の四日に相当するようでこういった大多数の人の食事の時間がゲームの中での真夜中にあたる風に出来ている。

 などとのんびりと考えごとをしながら、先程出来なかった素材の換金や装備の更新を古都を回って雑事を済ませていく。


――ぴろん


 装備のチェックをしていると聞こえるメールの着信音に、顔を上げてウィンドウを開く。

 どうやら圭は古都中央の噴水から少し離れた所にいるようだ。その確認が取れれば、其方へ向かいつつフレンドの登録を済ませておく。



 程々に早足でナインが噴水周辺の広場へと足を向ければ、紅く光る球の前で何か話している様子の剣士が目についた。髪が蒼みを帯びてはいるが、その顔つきには見覚えがある。

 そして、通話しているかのように光球の前で話をしている様子は……思い至る所が有る。


 ならば一つ脅かしてみよう――

 狼が、獲物(おもちゃ)を見つけた。





 《 Huheeey (ヒューイ)》こと早坂圭は動画配信者だ。配信サイトにて動画、生放送問わずプレイして居る様子や解説動画などを作り積極的に活動している。

 整った顔つきと、検証の積み重ねによる知識と経験をもって多数のファンを持つ彼も、この『Stranger Online』で生放送をやっているようだった。

 そんな彼の背後から深くローブを纏い、わざとらしくゆっくりと歩み寄る。


 きっとコメントの流れるウィンドウに『後ろ!後ろ!』などと言う注意喚起が目につくだろうから嫌でも判る、が……

 こちらを振り向こうとした瞬間に死角へと入るように斜め下、彼の足元を通り抜けて立ち上がってその首へ手を伸ばし――


「うん、流石トップス。良い反応」

「いきなりは止めてくれないか、驚いたじゃないの」


 首を掴み引き倒す、もしくは腕を巻き付けて締め上げる。それを狙った手首を後ろ手に掴まれた。

 驚きながらも呆れ安堵した表情を見せる彼へと、腕や勘が鈍っていない様子を確かめられて笑みを浮かべて向ける。


「これ位挨拶だと思うのだけれど」

「お前がそれを言うと、シャレにならないんだっての」

「言えてる。それで配信中?」

「そゆこと、大丈夫だよな」

「構わないよ。あ、ヒューイの彼女のナインでーs」

「お前ーッ!」

「あっはは、冗談冗談」


 紅い円錐の底面がこちらを向いている光球へと悪い顔をしてナインが手を振れば、目を見開いたヒューイが掴みかかってくる。

 こういった顔も出来るのか、などと考えながら揺さぶられたまま誤解は払拭しておく。


「あ、リアルでの悪友と言うだけだから、女性のリスナーさんは安心して――」

「そういう冗談はほんっとやめt」

ヒューイ(コイツ)の彼女を狙ってね」

「お前はァー!!」


 けらけらと笑いながら更にからかえば、面白いように茹で上がったヒューイが揺さぶりを強める。

 しかし彼も満更でもない様で、半ば笑い合って居れば自然と落ち着きを取り戻した二人であった。





 顔合わせを終え、ダンジョンである《ワーズ墓所》へと向かう道すがら、光球を携えたまま二人は雑談していた。

 最初は装備やアイテムの流通の話題から始まり、今はお互いのレベルなどに話題は変わっていった。

 なお(陽臣)彼女(ナイン)となって居る経緯と理由は、多少の羞恥心の為にメールで伝えている。


「そういや、ナインは今レベルどれ位まで行った?」

「んー、さっき16を超えた所」

「……昨日12って言ってなかった?」

「ちょっと追いかけっこを少々……」

「うわ……」


 そういう彼はレベル19。余裕で20は超えてる物かと思ったが、そこまで廃人ではないと怒られてしまった。

 そして聞いた話、ある程度の深さの森よりも今向かってるダンジョンの周囲の方が、経験値の効率は良いという情報にナインは肩を落していた。


「妹ちゃんの方は?」

「たしか今は11。朝はのんびりしてるからね、あの子は」

「まあすぐにでも追いついて来るでしょ」

「だね。……どこでMMORPGに慣れたのか、知らないけれど」


 ふと生放送のカメラである光球を弄り音声だけを切ったヒューイの問いかけに、フレンドリストを眺めながらそう答えるナインの視界には、アリスのレベルが上がった所を示す数字を見ながら思う。

 今まさにその効率のいい狩場でレベル上げに勤しむ愛梨が、ゲームをやっていたという記憶は無い。

 そして詮索していない以上細かいプレイ時間は判らないものの……この『Stranger Online』の情報を多く持っている事には幾度も首を傾げさせられた。


 疑問への答えとしてベータテストに参加していた、と考えれば納得がいく。しかし同時にゲームに疎い彼女へ誰が勧めたのかという疑問も浮上した。

 その新しい疑問も、スプークが勧めたという答えは薄い。彼もまたFPS寄りの人種だから、となれば……十中八九、この苦笑いを浮かべている優男の仕業だろう。


「ま、いいよ。きっかけとしては感謝してる」

「おう。なら良かったと思うぜ」

「それで、ここでいいのかな?」

「話してれば早いな。ここ、ここ」


 苦笑に冷や汗が混じり始めたヒューイに気にしていない事を述べつつ、視界に入る丘に目が移る。

 苔や蔦にまみれ古びた石造りの入り口が無ければ、ただの地形と勘違いしてしまいそうなそこがダンジョン《ワーズ墓所》だった。



「じゃあ、パーティで行くとして……ナインが前で良いの?」

「獲物が剣と盾だからね。ヒューイは?」

「弓も使える。だから今回はサポートにでも回りますよっと」

r()

「あとマップは一応有るけど、ベータのだからあんまし頼りにならないぞ」

「そこは柔軟に行けばいいよ。それよりも誤射しないでね?」

「先に謝っておくわ、ごめん」


 ダンジョンに入る前に軽く打ち合わせたうえで、今回はナインの慣らしという事もあって盾役(タンク)として前衛に立ち、ヒューイは弓も使え射程が長い為に中衛のアタッカーと相成った。

 そして中は暗いだろうから、手元が狂って背中を射らないでと言われて頭を下げるヒューイに笑みを誘われる。

 なお、カメラとなる光球には光源になる機能は無いらしい。


 そういったとても穏やかな雰囲気の二人による、薄ら寒さを感じる空気が満ちている墓所(ダンジョン)の攻略が始まった。



ヒューイのスペルの「e」が多いのは名前被り対策のアレです。

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