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62.狼と氷

いつもの如く短めです。

前話と統合してしまおうかとも思いましたが、上手く馴染まないために分割扱いです。



 アリスの目にに銃口の黒い窩が自らへと向けられる様子が映る。

 持ち得る全力で突撃する彼女にはそれが何処へ向けられているのかは判らないが、何処を狙っているのかは判別できた。


「――ッ」


 注視すべきは姉の目線。否、その瞳。

 自身の刺突の様に鋭利な殺意として搾り、見つめ合うようにアリスへと向けられるのはその数センチ上。

 つまりは眉間、頭部への銃撃(ヘッドショット)による即死狙い。


 ならば回避は最小限に留め、勢いを余すことなく姉へと叩き込む。

 自分ならそう出来ると確信を抱いた彼女は、踏み込む足に力を込めて加速を続けた。

 そしてすぐに分水嶺は訪れる。



――ッパァン


 引き伸ばされたように緩やかに感じる視界の隅で、僅かにナインの指が動いた。

 直後アンコールの銃口から破裂音と共に炎が溢れ、押し出される銃弾がアリスへと向かう。


 その()を合図に、アリスは射線上から頭を振って避ける事は――出来なかった。


「…………え?」


――ドパンッ


 呆けた声を上げるアリスには、誤算が二つ有った。

 一つは注視しているからそこを狙っているという誤解。

 もう一つは弾丸が一種類しかないという思い込み。

 二つの要因は必然的にアリスを追い詰めた。


 銃口から飛び出た弾丸の先端は今までの銀色では無く青色。

 飛翔する先はアリスが構えるレイピアの切っ先。

 気流と冷気を纏う刃の鋭い先端に弾かれた弾丸は、刀身と平行に僅かに軌道を逸らされ起爆した。


「な、あ!?」

「よっと」


 目の前で唐突に起こる爆発の炎にアリスが怯んだ直後、ナインはリロードの動作と共に前へと駆けて距離を詰める。

 そして弾丸の込められたアンコールの銃身でレイピアの刀身を思い切り横薙ぎに殴りつけ、その射線上にアリスの額が通り過ぎた瞬間に引き金を引いた。


 アリスが最後に目にしたのは、自らの眉間に飛び込む先端の黒い銃弾だった。





 決闘(デュエル)の終了の宣言を示すウィンドウが表示され、雪原に静寂が訪れる。

 その数秒後、白い息を深く大きく吐きながら構えを解いたナインの目の前で眉間に風穴を開けられた筈のアリスが起き上がり、叫ぶ。


「いッたぁぁぁぁぁああい!?」

「そりゃそうだろうね、眉間ブチ抜いたし」

「そうだろうね?じゃありませんよ姉さん!」


 可愛らしく額を抑える妹を見て、からからと愉快そうに姉は笑う。

 そんな理不尽なナインに対してアリスは憤りながら立ち上がり、掴みかかっては彼女を前後へと揺さぶった。


「なんで視線と狙いがズレてたんですか!?」

「え?それ位出来るでしょ?」

「はあ…………」


 ぐらぐらと揺さぶられる姉に質問をぶつければ、当たり前に返された単純な回答にアリスも呆れ動きを止めるしかない。

 それ位には、目の前の理不尽(ナイン)は出鱈目なのだから。


 そしてやんわりと己を掴むアリスの指を解いたナインは、逆に問い掛ける。


「それを言うならなんでアリスは魔法や飛び道具を使わなかったのかな?」

「え?だって……姉さんなら躱してしまうでしょう?」

「うん」

「即答ですか……」


 一遍の迷いも淀みも無く発せられた言葉に、アリスは更に肩を落とす。

 そんな泣いてしまいそうな妹を抱き締め、頭と背中を撫で擦るナインは耳元に意地悪く囁く。


「でもアリスもよく最後の見切りとか上手く出来てたよ。狙いを見誤ったこと以外は」

「あぅ……だって……」

「ふふ、こんなんじゃ私がこっち(StOn)にもっと慣れたら……勝てなくなっちゃうね?」

「そうは、なりませんよ。いえ、私の方がもっとこっち(VRゲーム)に慣れるので、させません」

「どうだろうね?」

「さあ、どうでしょう」

「……あは」

「ふふ、ふ」


 至近距離で見つめ合う姉妹の顔には獰猛な笑みが浮かぶものの、それらは次第に柔和に解け両者ともに屈託なく笑い合い始める。

 先程までの暗さと昏さの無い、純粋な姉妹だからこそのじゃれ合い。

 そんな傍目には微笑ましい様子で手を繋ぎ、二人は他の仲間の待つアルゲンルイムへと帰路へと付いた。



「そういえば姉さん」

「なあに、アリス」

「今回の決闘。どれ位本気で相手してくれました?」

「んー……アリスは?」

「私より姉さんの方が先です」

「じゃあ。そりゃもう全力で――ふぎゃ」

「はあ……」


 イベントが終わった土曜日の夜。

 呆れた妹とそれをからかい鼻頭を叩かれる姉が、とても久しぶりに楽しく喧嘩を終えたのであった。




《アンコール》


 原理的には魔力式サーマルガンとも言える長銃身拳銃。

 薬莢を始めとした消耗品となる工業製品の大量製造や精密加工の目途が立っていないために作られた試作型であり、外見はモデルとなったコンテンダーに酷似する。


 ぶっちゃけ筆者が王道もイロモノも銃器好きですからね、どうしても出しちゃうんです。

 許してください。

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