61.雷銀
気付けば10万超えて11万PVに達した他、評価点も四桁に至り感謝の極みです。
それを燃料に、良い物を書き続けて行けたらなぁ……なんて、思っています。
デュエルの最中ではあったが動きを止めたアリスは、ナインの腰に下げられている長銃を凝視する。
クルミの銃床とハンドガードのついた青黒く長い鉄の筒。
それはこの世界に有りはするものの……プレイヤーが手にするまでには相当苦労するであろう代物。
「姉さん、それは……なぜ、そのような物が……」
「なぜ?マージーとスプークに少し無理をして貰ったんだ」
「だとしても、だからと言って……」
「単発中折れ式『アンコール』……私が私で在る為にも、必要だったからね」
妹へ向きながら銃床を撫でるナインの笑みは寂しそうで懐かしそうな表情をしていた。
そして手慣れた様子で抜き放ち手の中で回し、手の甲を経由させバトンの様に振り回した後――
――キィン
「……それも火薬じゃなく魔力式だから、少し勝手は違うけれど一先ずは十分」
ナインが長銃を突き出したと思えば、途中から折れてシンプルな内部機構を晒す。
続いて淀み無い動作で鈍い金属光沢の目立つ弾頭を装填し、手首の動きだけで元の状態へと長銃を振り上げる。
何度も、何十度も、何百もの数をこなした事と判る彼女の動きがアリスの前に振る舞われた。
「これを手にして初めて、最低限『雷銀』として名乗って戦える。剣で戦うのも良いけれど、結局はコレの延長線だし、ね」
「では姉さんとして……『ナイン』としては、戦って貰えないと?」
「それは違うな」
本人にとって懐かしい名前を語る姉に、その意味の欠片を知る妹は冷や汗を垂らしながら問う。
その問いに首を横に振る彼女は申し訳なさそうに呟き返す。
「私の剣じゃアリスには到底及ばない、と今の打ち合いで解った」
「そんな事、戦い続けて見なければ――」
「最初はよくともいずれ押し切られるよ。だから私は『雷銀』の亡霊として、名無しとして戦う」
「…………姉さんのよわむし」
「そう言われても仕方ないね。私はコレが無いと戦えないんだから」
思わずと漏れ出したアリスの言葉に、ナインは困った様で泣きそうな笑顔を作る事しか出来なかった。
□
VRMMOFPS『Freedom War Frontier』
その世界における『雷銀』とは、大規模クランで一癖も二癖もあるメンバーを纏め上げた実力者に送られた二つ名であった。
敵には冷酷で残虐で苛烈な攻撃性をもってひたすらに恐怖という弾丸を叩き込むプレイヤー。
知り及ぶ範囲でのアリスの知識の中で『雷銀』とはそういう存在。
そんな相手が今、仕切り直しにとばかりに小瓶を真上に投げる。
くるくると宙を舞うきらめきをアリスは目線の高さまでは眼で追い、そこから下へ落ちた後は神経を集中して耳を澄ませば――
――パリン
先程アリスが吹き飛ばして剥き出しになった地面へと、瓶は吸い込まれるように落ちて割れた音が響く。
直後、真正面へと突っ込む彼女の頬を、高速の弾丸が擦過し紅い筋を残していった。
僅かな痛みを無視して突き進み続ければ、抜き打ちの姿勢から長銃の装填を行うナインの元へ数歩で辿り着けた。
そして正確に、今現在出来る最高の動きで姉の右肩へとレイピアを突き込むも……それは半身になる事で躱されてしまう。
負けじとすぐに腕を引き戻し、連続した刺突を切り払いも織り交ぜて繰り出した。
「はッ、あぁぁァァ!!」
「……ッ」
「くぅっ?!」
仮想の分身の利き腕が軋み僅かに痛む程の連撃。それを泣き笑う表情のナインは細かいステップと身体捌きで避けていきながら長銃を構える。
その銃口が自身に向けられたと知覚した瞬間に、破裂音と共にアリスの腹部へと衝撃と鈍痛が走った。
尾を引くも痛みも、そのピークは一瞬。
薄い水の膜が身を捩る彼女を守り、銃弾を斜めに逸らす事で致命傷を逃れることが出来ていた。
「まだまだッ!」
「それは私の台詞っ」
「なんのぉ!」
「っへえ」
顔を顰めながらも反撃にアリスがレイピアを構え直すも……今度はナインの方から逆襲が始まった。
射撃の反動で跳ね上がる右腕の動きに合わせる様に後方へと一回転、それも顎を狙うサマーソルトの動作の合間に短剣が左右へと投擲される
その追撃も回避も封じる反撃に対しアリスは僅かに下がりながら回転し逃れ、勢いを利用してより強力な突きを姉へと見舞う。
爪先の強襲を躱され短剣を弾かれ、更に反撃を一連の動作でこなした妹へとナインは笑う。
歓心の笑みを浮かべ関心した声を漏らすも、しっかりと反撃の突きを左手で逆手に握る短剣で火花を散らしながらもその軌道を逸らさせた。
しかしその目は飛び散る火花では無く、微細な氷の欠片で歪み片目が閉じられる。
「そこですっ!」
「ぐっ、う……!?」
仮想現実であるゲーム内では部位欠損はもちろんの事、失明などが現実へと影響を及ぼす事はない。
それでも人間の反射として自然と目が閉じてしまう事は勿論ある事だ。
しかしそれを慣れる事で、克服するゲーマーという者も勿論存在する。
銃弾や砲弾飛び交う戦場に慣れたナインもその一人で、火花など恐れる物でもない。
それでもレイピアの纏う氷が飛び散るのを見て、つい身体が眼球を保護しようと瞼を閉じさせてしまった。
そんな一瞬の隙を突いたアリスの横薙ぎの一撃を、ナインは必死に折り曲げた左腕で庇う事で防ぐ。
「ぁ、ふっ……ふー、ぅ……ッ」
ナインにとって想定外の一撃によって、力無く垂らされ深々と紅い線の走る左腕から紅いポリゴンが溢れ出していく。
視界の端でHPゲージが減っていき遅れて痛覚が脳を揺らすが、目の前で追撃を放つ妹の所作を見切る方が優先される。
一撃を受けて動きの鈍った左腕の方向からの重点的な連撃。
セオリー通り対戦相手にして欲しくない様な行動を取っていくアリスの周到さに、嬉しさからつい口元が緩んでしまう。
「……シッ!」
「ぅあっ!?」
怪訝な表情を見せるアリスの踏み込んだ爪先を、ナインは予兆無く思い切り踏みつける。
まさか戦闘中の速い足捌きを彼女は邪魔されると思わなかったのか、刺突の姿勢でバランスを崩し隙を見せてしまう。
その無防備な鳩尾へと左の肘を、ナインは骨が歪み肉が捩じれる感覚を無視して叩き込んだ。
そうして戦闘が始まって二度目の静寂が二人の間に流れた。
片や斬撃と無理な反撃で痛む左腕を抑え、片や雪原に転がされ痛みによって呼吸を乱されながら立ち上がる。
それでも双方、共に自らの獲物を手放そうとはしなかった。
「だから、敵わないんだよ、もう……ッ」
「そう、言う割にはっ、強いじゃ、ないですかっ」
「自衛の範疇、なら……ね?」
「……よく言ってくれますよ」
漏れ出るナインの言葉に呆れた様子のアリスの吐露が返され、苦笑が漏れると余計に重みを増した呆れの溜息が響き渡る。
吐き出される妹の溜息に若干の苛立ちや怒りを感じ取れば、姉の顔は獰猛さを帯びた。
そしてアリスはより強い冷気を刃に纏わせ吶喊する。
「《フロストエッジ》ィ!」
「そうこなくっちゃァね!」
その猛突を、ナインは嬉々として迎え撃つ構えを見せた。





