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60.余韻

予約投稿したつもりがされていませんでした、申し訳ありません。



 闘技大会が滞りなく閉幕した土曜日の夜。

 夕食や入浴を済ませたゲーム内のアルゲンルイム、その城門からアリスが一面雪の平原へと繰り出していく。


 他の三人……ヒューイはベスト8止まりが悔しかったようでフェンブルグへと修行へ向かっていった。

 マージーとスプークは妥当と思い納得したらしく、特に変わらずに生産と戦闘の両立の計画を立て始めたらしい。

 そんな中で、アリスは姉に呼び出された地点へと向かっていた。


「(……姉さんは一体何を考えているのでしょう。皆さんに話せない内密な話なら現実(リアル))ですればいいのに」


 アリスの頭の中には疑問符が大量に浮かび上がり、思考を重ねていくが答えは出ない。

 多少の事には頭が回っても、あの()の考えは想像する選択肢だけでも多い故に、彼女は困惑しながら待ち合わせの場所へと辿り着く。

 アルゲンルイムから数km離れた街道から多少逸れた雪原にて、軽装に色褪せた外套を身に纏ってナインは佇んでいた。



「ん、来たね。アリス」

「姉さん。こんな所でどうしたんですか?」

「あれ、言わなければ判らないかな」

「……」


 妹を視界に捉えれば昏い笑みを浮かべた彼女は朗らかに語りかけるが、当のアリスは姉の纏う不穏な空気に冷や汗を垂らしていた。

 その様子を訳が判らないとばかりに普段と同じ仕草で首を傾ける様子が、とても怖いものに見える。

 怒っているような時とはまた別の違う仕草。


 アリスは直接怒りをぶつけられた事は無いが、兄のその一面を垣間見た事が有るとはいえ……それとは異質な感覚に恐怖を抱いた。。


「じゃあ単刀直入に言おうか、アリス。」

「……はい、姉さん」

「戦って貰うよ。全力で、貴女の本気を見せて欲しい」

「ぇ、姉さ――」

「闘技大会じゃ出来なかったからね」


 一度迷っていた事で彷徨っていた視線を姉へと向ければ、思いがけない言葉に声が詰まってしまう。

 仮にも大舞台のプレッシャー等に負けてしまってベスト8止まりの我が身。

 しかも当の姉は楽しみながらでベスト2……故にまだまだ遠く及ばないと理解した矢先、かけられた言葉が理解出来なかった。


 それでも時間と姉は待ってくれないらしく、アリスの目の前に決闘(デュエル)の申請が送られたと示すウィンドウが開かれる。


「拒否権は、事実上ないようなものだよ?」

「です、よ……ね」

「うん。出来れば今日中……引き伸ばしても明日一杯まで、かな」

「一応の猶予は……くれるんですね」

「まあ、ね。もちろん」


 若干の猶予が与えられている事に安堵の溜息を漏らしてしまう中でアリスは思う。

 確かに今の精神状態は最悪のコンディションに近いだろう。

 しかし現実でもゲームでも、理不尽なものは待ってくれることはない。


 そうであるならば私が取るべき選択肢は――





 我ながら理不尽な選択を突き付けたとナインは思う。

 しかしこの程度の理不尽は乗り越えて貰わねば、彼女としても楽しみ甲斐がない。


 もしかしたら逆境を乗り越えることで化けてくれるのかもしれない。

 そう考えていれば、小さな電子音と共に決闘の要請を相手が承認したと表示されたウィンドウを見て驚かされる。


「ん、準備や心の整理はいいのかな?」

「……ええ」

「……そっか」


 驚きに眉を動かしてしまいながら問い掛ければ、当然とばかりに無理矢理な笑みを浮かべるアリスの頷きが返された。

 そして二人の間で進むカウントダウンの表示を眺めながら、理不尽に対する妹の姿勢に笑みを零してしまう。

 白を基調とした軽装鎧を身に纏い細剣を抜く彼女の纏う、まだ殺気としては温くとも十分な闘志にはナインも嬉しいからだ。


 そうこう感慨に耽っている間にも、決闘の開始のカウントダウンは目減りしていき彼女がサーベルに手をかければ――


「《アイシクルエッジ》!《アクアヴェール》!」

「《フレイムエッジ》《ヘイスティウィンド》」


 カウントがゼロとなり、二人は自身への支援(バフ)をかける。

 それと同時にアリスは細剣を構え駆け出し始め、ナインはサーベルを鞘に納めたまま迎え撃つ。


 アリスが使ったのは水属性のダメージ軽減魔法に加え、武器による攻撃に氷属性の追加ダメージを重ねる魔法。

 一方でナインが使うのは火属性ダメージを追加するものと、敏捷力強化の支援魔法。

 属性だけで言えばナインの方が不利では有った。


 しかし彼女はアリスの氷を纏ったレイピアの刺突を、鞘の口から火の粉を漏らすサーベルでもって受け流す。

 一撃で終わる事の無い、二度三度と繰り返される突きをナインは、苦も無く自らの急所を狙う刃に鞘を押し当てて捌いていく。

 その応酬の中で、アリスは更に食い下がった。



「そこッ!貰います!《シャンジェバッテ》!」

「おっと……!」

「っ!?」


 途中まで刺突を捌くために振るわれて居たサーベルの鞘を、アリスのレイピアが交差し、叩き落とした。

 その衝撃でナインは体勢を崩し……その勢いを加速し身体を回転させてカウンターの蹴りを繰り出す。

 緩やかに見えて鋭い速さで繰り出される踵を何とか仰け反って躱したアリスへは、下から掬い上げる様な斬撃が襲い掛かる。


「お返しッ!」

「ッ……と」

「ありゃ、躱されちゃった。逃がさないけれど、ね!」


 くるりとその場で回る際、アリスから見て死角で抜かれたサーベルが逆袈裟に斬り上げるも躱される。

 仰け反り無防備な胴を狙ったつもりが、躱されたナインは肩を竦めながらも離れようとした彼女を追う。


 攻守が入れ替われば、ナインは大振り気味にサーベルを振るい比較的重い一撃を狙いつつ、その隙を鞘による打突で埋めていく。

 その斬撃のうち躱し切れないものはレイピアで弾いていくも、徐々にアリスは力負けし後退させられていってしまう。



「ほら、アリス。何か迷ってるの、かなッ!」

「く、ええ!どう切り替えした、ものかと、ですっ!」

「なら早くしないと、食い破っちゃうよ!」

「それはどうでしょう!」

「ッ!?」


 攻めあぐねる様に防戦に回る妹へナインは斬撃と共に言葉を送る。

 まさかこのまま終わるのではないだろうか。

 そんな無様を晒すのであれば、トーナメントでのあの戦いは妥当だったという事だろう。


 などと邪推してしまっている彼女の視界の中、ふとアリスの口元が僅かに笑みを形作りつつあるのが見える。

 それをナインが理解し背筋に興奮と寒気が流れた次の瞬間から、彼女の反撃は始まった。


「《フリジットブラスト》!」

「っとぉ!?」


 剣戟の最中に彼女の聞き取れない呟きの直後、斬り結ぶ足元に空色に輝く魔法陣が現れる。

 押し込んでいた為にその中央へ誘導されたとナインが気付けば飛び退いた。


 直後足元が爆発したかのように爆ぜ、氷の礫が打ち上げられる。

 直撃こそ避けたものの冷や汗をかきながらナインはサーベルを構え直すが――


「――はぁぁあッ!」

「うわっ、と。っはは、ハッ!」


 巻き上げられる土くれと雪と氷の欠片を突っ切って、今まで以上の猛烈な突きをアリスは繰り出す。

 流石にナインも回避直後で対応が遅れた為に、連続した攻撃に対して左腕を盾代わりにして致命傷を避けた。

 そして連撃を受けながらもナインは笑って見せる。


「なにが、おかしいん、ですか!」

「おかしいんじゃない、楽しいんだ」

「……?」

「こうして、死合えることが、さ」


 息が続く限りの連撃を終えたアリスは肩で息をしながら跳び退いて距離を取る。

 ナインはそんな彼女を追う事も無くサーベルを鞘へと納めた。


 その彼女の動作にアリスは眉を顰めるも警戒する素振りを解かず、故にナインは上機嫌で――



「だから、死ぬ気で食い下がってよ。アリス」


 サーベルと入れ替わりに手にした長銃を腰に下げ、獰猛に笑った。




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