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50.闘技大会・序



 祝日である金曜日の昼前。


 愛梨は普段の休日通りに陽が登り切る手前で目を覚まし、普段着に着替えてからなにか目覚ましにとリビングへと向かう。

 すると、これまた日常の様に漂い鼻を擽る珈琲の香りに頬を緩ませた。


「おはようございます、兄さん」

「おはよう、愛梨」


 キッチンで何やら調理している兄の方へと向かえば、片手間に牛乳入ったマグを差し出される。

 なので受け取って口を付ければ、身体が欲していたとばかりに寝起きにも拘らずあっさりと飲み干してしまった。

 心地良い冷たさが喉を流れ落ちて行けば、口元も頭もさっぱりしたように感じられます。


「兄さん、これ……」

「少しミントを混ぜてみた。丁度良かったかな?」

「はい、スッキリして良い感じです」


 どうやらキッチンを見るに、兄自身も微睡みを醒ます為に色々としていたようで。

 そしてトーストを差し出されたので、受け取りマーガリンを塗っていただくことにしました。


「ん……いよいよですね?」

「? ああ……闘技大会の事か」

「ええ、全力で当たっていきますので、兄さんも……」

「ぁー、昨日全力燃焼してしまったしなぁ」

「は?」


 指に着いたパン屑やマーガリンを拭って、遅い朝食を終えては珈琲片手の兄に眼を、言葉を向けるが……返される言葉に間の抜けた声が出る。

 聞けば、昨日ようやく坑道の地下に居るボスと聞いた相手に、一泡吹かせる事に成功したらしい。


 倒した。ではない所を見ると、仕留めてはいないのだろう。

 多少のレベル差などPSでひっくり返す兄が、そこまで言う相手とはと背筋を冷やすが……


「兄さん。まさか出ない、などとは言いませんよね?」

「ん、どうだろう」

「……」

「痛い、痛い。無言で脛を蹴らないでくれ」


 茶化されるので、遠慮無く膝から下を丁寧に、執拗に爪先で小突く。

 そうすれば困った様な顔で兄は降参します。


「大丈夫だよ、昨日の内に参加申請はしてきたから」

「なら、良いのですが……」

「本当は、こっそり出るつもりだったんだけどね」

「……サプライズに?」

「サプライズに」


 笑顔で冗談を言う兄の腹に正拳を突き込み、少々早いですがゲームへとログインする為に部屋へと戻る事にしました。





 ログインしたアリスはアルゲンルイムの宿から出て、軽く吹雪く街を散歩しながらイベントの為に配置されたNPCを探し始めた。

 以外にもあっさりと広場の片隅に立っていたので、一度フレンドリストを開くも……ログインしていないか既にイベントMAPへと向かっているようなので、話しかけて移動させて貰う。


 確認が終わった所で、目の前にゲートのようなものが開いたのでアリスは歩み入るが――


「……ぅ」


 聴覚も平衡感覚も失われ、VRを始めた時のような酔いを一瞬感じ……油断して居て吐いてしまいそうになる。

 ようやく落ち着いてから見回せば、周囲の様子は雪国の街から小さい闘技場の入り口に立っていた。

 どうやら各街との移動はこの移動方法によるものらしく、慣れるしかないらしい。


 その事実に辟易しながらも、多数のプレイヤーが群がる掲示板のような場所までアリスは向かい内容を確かめる。



 内容としては、告知があった通りに今日と明日の二日間に明後日の予備日で構成されているみたいだ。

 そして、大会の決勝や本選はトーナメントだと判っていたが、どうやら予選はブロックに分けられるようだった。

 今日の予選はランダムな相手と試合を八回こなし、その勝利数によって本選へ出場する八人を選び出すという。


 ……表示されている参加人数はおよそ1500人。

 AからHのブロックがある為、一ブロック200人程の中から勝ち抜いた一人が本選へ出れるという事らしい。

 また本選へと勝ち残ったプレイヤーの内、誰が優勝するかという賭博も有るらしいけれども私はそれよりも気になる事がありまして。


「それはまた後の事として……」


 アリスは最後の優勝賞金を見ると、100万(1m)シルブと書かれている。

 物品の褒賞は無いのかぁ、と苦笑を浮かべていると、ちょいちょいと背中をつつかれたので振り返ると――


「よ、妹ちゃん」

「やっほ、っす」

「ヒューイ、それにスプーク。先に来ていたんですか?」

「ああ。五時のメンテ後に軽く、な」

「うちはさっきっすよぃ」


 見慣れた二人が視界に入るのでアリスは表情を崩しながら辺りを見回し、適当に空いている壁際へと退避しました。

 こうしてみると、参加するわけではないが観戦や商売出来ているプレイヤーも多く見受けられるように思えます。


「ナインとマージーは?」

「マージーはもうすぐ来るそうっすよ?」

「姉さんはもう少しかかるかも、ですかね」

「そっかい、そういや俺らってブロック別れたのか?俺はHだった」

「私はAブロックですね」

「うちはDっす」


 見事にバラバラ。

 もしかしたら参加申請の時間とかで括られているのだろうか?なんて考えていれば、見覚えのある人影が違和感のある高さで告知板の方へと向かい、辺りを見回した後にこちらへと向かってきました。


「ん」

「三人とも来てたのか、遅れたみたいだね」

「いえ、まだ余裕の有る時間ですし」

「あっは、なんか親子見たいっすねぃ」

「言えてるわ、お似合いじゃないの」


 姉さんがなぜかマージーさんを肩車しています。

 羨ましい……いえ、落ち着け私。


 茶化されて恥ずかしくなったのか、彼女が姉さんの上から降りては余計な口を聞いた二人をどつき回すのを微笑ましく見守る事にします。


「そう言えば姉さん、ブロックはどれでした?」

「ああ、予選の?Cだよ」

「彼女のほうは……」

「マージーならDらしい」

「という事は、スプークと被りますね」

「へぇ?」


 どうやらブロックが被った事に苦笑を浮かべると、姉さんの方も困ったように笑うので他のブロックの話も告げておきます。

 すると、私とヒューイのブロックに思案する顔を見せました。


「という事は……当たるとすればアリスとは準決勝、ヒューイとは決勝になるのか」

「順当なトーナメントであれば、そうですね」

「どうせなら、ヒューイで慣らした後にアリスとやりたかったな」

「聞こえてるってーの!」

「……はは」

「ふふ」


 二人纏めてマージーさんの良いようにされていた筈の片方から不満が聞こえましたが、私達には何ら関係がありません。

 あーあー聞こえません。という奴です。




ここからようやく二章の本番です。

そして句切りな50回目、何かある訳ではありませんが、これからもよろしくお願い致します。

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