5.初日を終えた夜
ちょっと短めのリアルサイドです。
意識が醒めると、目の前に電源を切る準備をしている表示が眼に映る。
まだぼんやりとする頭でVRギアを外しては、こわ張っている身体を伸ばした。
久しぶりの長時間のプレイに、懐かしい感慨にふけりながら身体を解し終えれば一度リビングへと向かう。
若干の微睡みと身体を動かしていなかった為に寝起きのような足取りでキッチンへと辿り着けば、適当にインスタントコーヒーを淹れて一息つきながら今日のプレイを思い出す。
久しぶりの数人での騒ぎながらのゲームプレイに、物足りなかったとはいえ感じた戦いの空気。それらを啜る苦さと共に反芻して居ればぺたぺたと若干覚束ない足音が聞こえた。
「こちらに居たのですね、兄さん」
「流石にそのまま眠れはしないからね。愛梨こそ大丈夫?酔ってない?」
「実を言うと、まだ少しふわふわしてます」
脳の信号を遮断し電子の世界を感じるが為に、VRのコンテンツには特有の酔いが有る……慣れて居なさそうな妹にはそれが少々辛いもののように見える。
ARの補助の元でもふらついているのを見るに、慣れるまではちゃんと休憩がこまめに必要かもしれない。
「愛梨も、コーヒー飲む?」
「ください。濃い目でお願いします」
「了解、と」
キッチンにもたれかかる彼女の分のコーヒーを淹れ、手を取っては握らせる。
そうすれば両手でマグカップを包み、冷まそうと息をふきかけてちびちびと飲み始めた。
「ゲームで開いた空虚な穴をゲームで埋めようとするなんて、意外と愛梨は強引なんだね」
「な、なにを……」
「いやいいんだ。ユウと私を心配して、きっと相談でもして決めたのだろう?ありがとう」
「……どういたしましてです、兄さん」
自分のマグカップが半分ほど空になった頃、何処となく虚空を眺めながら思ったままの言葉が愛梨に向けて漏れ出していた。
その言葉を聞いて慌てる妹の仕草に笑みを漏らせば、余計に頬が膨れて拗ねてしまったので髪が崩れない程度に頭をわしゃわしゃと撫でる。
途端に静かになったのでのんびりとした夜の静かな時間を楽しんでいると、不意に愛梨が口を開いた。
「兄さんは……楽しめそうでしたか?」
「どうだろうな。まだ初日だ、何とも言えないけれど……」
「けれど……?」
「すぐ放るようなゲームでは無いね。それに観光なんかするのもいいかもしれない」
「観光って……あれ、一応RPGですよ?」
「楽しみ方は人それぞれ。そうだろう?」
不安そうな口ぶりでこちらを見ない愛梨の問いかけが向けられる。
正直に言えば、続けたいかと言えばYesだ。せっかく始めたという事もあれば、今日は物足りないと感じた感触も後々に満たされていくかも知れない。
なんて事を思えば、早々に斬り捨てるのは安直と言うものでもあるし、二人分の好意を無下にしてしまう事にも繋がる。
なのでどうしようもなく失望させられるような事が無ければ、『Stranger Online』はしばらく続けて行くつもりだ。
暗にそう答えれば安堵した溜息を吐く愛梨に、おどけて冗談を言えば可愛らしく呆れられる。
そうは言っても、楽しいのは本当だから冗談でもないのだが。
□
使った食器を片付け部屋へ妹を送った後、事前の情報収集不足を痛感させられた為に陽臣はベッドに寝転がりながらAR端末から『Stranger Online』の事を調べ始めた。
公式サイトへとアクセスして驚いたのが、ジャンルの詳細はダークファンタジーとされていた事だ。
制作しているのは新興のゲーム開発会社。しかしながらグラフィックやシナリオに関しては大手会社に負けないほど、小粒ながら高評価を受けている会社の様だ。
そして製作するものは若干王道から外れたような軽度から重度のマイナー作品が多い。『Stranger Online』はまだ軽度の部類らしい。
これはまたクセが強いのかと笑みを引き攣らせてみていればそうでもなく、多少の好き嫌いは有れど老若男女がプレイ出来るようにと開発したらしい。
公式サイトを読み進めていけば、スキルについての説明なども見受けられた。ざっと目を通して行くうちに、10分でもプレイする前にこれを見ておけばなと後悔し始めたが、まあ失敗もまた良いスパイスと思い今後に生かすことにする。
そして忘れない内に圭へとメールを送る。
紆余曲折あって『Stranger Online』を始めたこと。今レベル10である事、そして予定が空けば顔合わせだけでもしておこうと簡潔に内容を纏め送信する。
ひとまずの用事を片付けて一息ついてから、攻略サイトや有志の掲示板などを見てみるのは情報が纏まり始める明日でも良いかとも考えれば、23時を回っていた時計を横目にとりあえず今日の所は寝てしまう事にした。
□
――♪
意識が泥濘に半ば埋もれ始めた時、AR端末にメールの着信音が届いた音が聞こえる。
顔を顰めて確認してみれば送り主は圭。内容はRPGの世界への歓迎の言葉に加え、明日土曜日の昼頃から顔合わせとダンジョンへの誘いが添えられていた。
メールを横目に検索してみれば、どうやらレベル20が適正のダンジョンが古都の近くにあるようだ。圭が言っているのはそこの事だろう。
「て事は、あいつもうそんなところまで……」
もしくは明日の昼にはダンジョンの適正レベルのレベル20に達する予定なのか。
どちらにせよ呆れのような称賛の念が浮かぶが、彼ならば当然だとも思えるところが恐ろしい。
そしてそういう事であれば明日、レベル15あたりに少しでも近づけた状態で彼と顔合わせしダンジョンの中を見てみたいなとも思う。
未知への高揚感を楽しみにしているも、次第に眠気には抗う事が出来ずに布団に身体を沈ませてしまった。
以下、参考までに本編中のナインの現在ステータスです。
数値を覚えている意味や必要性は全くありませんが、フレーバーがお好きと言う方が居ると思いましたので。
意見によってはあとがきでは無く、本編に織り込んだりという方針もアリかと思っています。
name:Nein
Lv:10
種族:人間
職業:
所持金:4790シルブ
・ステータス
HP:220
MP:70
STR:25
VIT:12
DEX:23+1
AGI:24+2
INT:11
MND:12
LUK:13
・装備
右手:ブロンズソード
左手:ブロンズシールド
胴:革の胸当て
腕:青銅の籠手
脚:革ズボン
靴:青銅板入りグリーブ
・熟練度
《片手剣》Lv.6
《片手盾》Lv.7
《短剣》Lv.2
《投擲》Lv.3
・スキル
《投擲》《射撃》《剣術》《盾術》
《身体強化》《スタミナ強化》《魔法耐性》
《偽装》《看破》《探知》
《歩行術》
《装備変更》





