48.祭りの前日にて
評価人数が10人を超えたり、総合評価点が400を超えていたりと、本当にありがとうございます。
余談ですが、息抜きに別作品を投稿し始めました。
こちらよりも更に更新の頻度は低いと思いますが、よろしくお願いします。
3/4 誤字修正。
「それで、頼んでいた物は出来てるかな?」
木曜日の夜。
ナインはゴルスクを発ってアルゲンルイムへと向かうスプークとマージーを見送りつつ、注文したものを受け取りに来ていた。
そんな彼女に、馬車に荷物を積み込む二人は苦笑と微笑を浮かべて返す。
「ん、ばっちり」
「実は昨日出来上がってたんですけどねぃ」
「そっか、まあそれは私のせいかな」
「とりあえず総長のステに合わせて、防御特化と敏捷特化。その二着は用意出来たっすよ」
「後、武器も。貰った素材、全部使った……」
自嘲しているナインが二人から包みを受け取れば、その重みにニヤリと悪い笑みを浮かべる。
その顔に見覚えがあるのか、スプークは呆れたような声を上げた。
「ほんと、ファンタジー世界で作るの、大変だったっすよ」
「でも無いわけじゃない、なら作れるって事さ。現に二人は作り上げたじゃない」
「それもそうなんっすけどねぃ」
悪い声音で嗤い合いながら肩を竦めあい、叩き合う。
その様子をマージーが瞳に若干の感情を乗せて見ているが、ナインにはまだそれがどのような色か判らない。
なので労いと感謝を籠めて、しゃがんで彼女を抱きしめる。
「マージーも、ありがとね」
「どう、いたしまして」
「よっし。じゃあ私は早速慣らしをしてくるよ」
「その後は、またボス……?」
「ああ、そのつもり」
ぱたぱたと彼女にしては珍しく感情を表す様に手足が振られるので、笑いながら離せばじっとりとした視線が向けられる。
流石に失礼だったか、もしくは嫌だったかな?と考えていると投げかけられた質問に、ナインは口の端を引き絞って答えた。
その様子に、至近で見えたマージーの瞳に浮かんで見えたのは苦笑と羨望、だろうか。
などと気にかけていれば、彼女の口から思いがけない言葉が聞かされた。
「……私も、イベント、出るから……ね?」
「マージーも?でも準備とかは……」
「大丈夫。皆の装備、それと、並行した、から」
自慢げにふんすと胸を張る彼女にナインは最初は驚き、次に喜んだ。
「そっか、じゃあ勝負する時はよろしくね」
「無論、叩き潰す、よ」
その言葉が悪感情では無い事に安心していれば、どうやら二人の準備は整ったようだ。
「それじゃ、健闘を祈ってますよぅ。総長」
「右に、同じ」
「うん、任せて」
苦笑を送り合う挨拶が終われば、二人が飛び乗った馬車はゆっくりと街道へと向かい出す。
それを見送り終えれば、ナインは踵を返しいくつかの雑貨を買い求めた後、坑道へと向かった。
□
十数分後。地面の一部が崩落している坑道の広場では、控えめにナインが新しい装備の慣らしをしていた。
最初に慣らすのは今迄の灰色の鎧よりも更に重厚感が増した、黒を基調とした赤や銀の装飾が入れられた鎧。
胴体こそ胸当ての様に軽装だが、肩甲には昔懐かしい狼の装飾と二本線に二つ星。
また籠手と具足はがっちりとした重装備のものだ。
合わせるのは、上半身程度は覆える程に大きく作って貰った小型のタワーシールド、そして刃を更に厚くしたサーベル。
注文通りの仕事に満足する彼女が剣や盾を持った動作の重さを確認しつつ、一つ苦笑する点がある。
「黒船って名前はどーなのさ。マージー……」
サーベルから海賊でも連想したのだろうか、その装備一式の名は『KR-kuro hune』とされていた。
海賊はカットラスの方ではなどと思いつつも、まあどちらでもいいだろうと身体を動かしていく。
シャドーボクシングの様に、相手を仮定して、想像して。
躱す、往なす、避ける、弾く、捌く。
一連の動作を確認したナインは荒い呼吸を整えつつ、装備を一旦解除する。
そしていくつかの長さの違う短剣を手に、手ごろな岩を斬り付け始めた。
横薙ぎに、唐竹割るに、袈裟斬り、逆袈裟斬りに。
丁寧にその軌跡と重量の変化を確認し、逆手持ちでもその流れをなぞっていく。
最後に遠隔攻撃の確認として、全ての短剣を離れた岩へと投げ付けて、割る。割り続ける。
手元が空になれば無残な岩の元へと歩み寄り、投げた短剣を回収しては遠目の岩へと魔法で練り上げた槍を投げつける。
炎の槍を投げた岩は溶解した風穴を開けられ、風の槍を投げた岩は風穴の周囲が滅茶苦茶になっていた。
一通り今の自分が行える動作を確認し終えたナインは、最後にもう二つの手段で――風穴の空いた岩を砕き、その破片を一つ残らず打ち砕けば満足した笑みを浮かべていた。
そして万が一に他のプレイヤーに痕跡を見られないように、ジュースの缶のようなものを放り投げる。
すると数秒後。缶のようなものは爆発しナインが練習で刻み穿った岩は別の岩の下敷きとなった。
「……うん、これで私は大丈夫。二人ともいい仕事をしてくれたね」
普段浮かべているような笑みよりも若干の昏さを帯びた笑顔の彼女は、早速床の穴から溶岩に囲まれた地下神殿へと向かった。





