46.ノフス鉱山 地下②
短めです。
結局、目の前に広がっていた紅い海は溶岩蛇に対岸まで運んでもらう事で切り抜けることが出来た。
また遊びに来いと言われたので、ナインは苦笑いを浮かべながら了承した。
正直な所、この灼熱の世界に居るのはとても辛い。マグマへの転落の危機もあり、そう長居したいものではないのだ。
そう思いながら陸地へと辿り着いたナインは手早く視界に入る建物へと急いだ。
近づいてよく見るとその建造物はどうやら神殿のようだった。
大理石の様な石を使い、それも表面に微細な細工を施している事から相当なお値段なのだろう。
とはいえ壊れる時は壊れる、などと思いながら入り口から中へと入ると、ごく薄い膜の様なものを通過した。
「……うん?涼しい……?」
直後、纏わりつくような熱気が消え失せ冷気がナインの身を擽る。
……否、通常の地上の気温に領域は保たれていたようだ。
若干湯冷めにも近い感覚に頭を振りながら中を歩いていくと、不思議と外とは真逆でこの通路などの内側には装飾が全くない。
その不自然さを数分味わっていると、行き止まりに比較的大きめの両開きの扉があった。
「開けろ、って事だよね。よいしょ、っと……」
肩を使ってようやく開く扉の先は大きな、コロシアムの様な広い空間だった。
そしてその中央には、黒い鎧の……騎士だろうか。
直立不動の体勢であったが、ナインが中央へと歩み寄っていくと視線が彼女へと向けられる。
「よく来…………いや待て。なぜその力量で此処へ至った」
「すみません、迷子です」
黒騎士が頭痛を覚えたように頭を抱えているのを、ナインは苦笑して居るしかなかった。
「それで貴様は、自己研鑽をしていた挙句に此処に来たと」
「その通りです。面目ない……」
一通りお互いに落ち着いたところで、状況の確認をしてみればこうだ。
本来ここはレベル80~90のダンジョンらしい、だが正規のルートを通らなかったために途中の魔物が発生しなかったようだ。
唯一、NPCでもあるらしい溶岩蛇としか道中で出会わなかったことも、それで納得がいく。
「これでは試練にならないではないか」
「すみません、帰った方がいいですか?」
「待て、どうせ来たのだ。少し話し相手になれ」
「えぇ……」
迷惑であるなら死に戻り、此処の事を忘れようとナインが切腹のモーションを取っていると黒騎士が止めにかかる。
だがその理由に再度サーベルを振りかぶる彼女に、心底嫌そうな声がかけられる。
「ずっとここで待つのは暇なのだよ。礼も少しはしよう」
「……」
「そんな目で見るな……」
ナインが憐みの視線を送れば、今度はあちらの苦笑が聞こえる。
ならばと、こちらの世界の話題は少ない故に、あちらの世界での話でも聞かせてみようと思う。
□
黒騎士にナインが話を聞かせていたのは一時間程だろうか。
途中で彼の知らない単語や武器、装備などの説明を挟んでいたらそれ位の時間になってしまっていた。
鉄と硝煙、銃器による戦争の世界での話はどうやらいい刺激になったらしい。
やれその銃弾を切るだのと生き生きとし始めたあたり、武人というよりは闘いが好きなのだろう。
そんな彼に灼熱の砂漠での長距離狙撃戦や吹雪く極寒の氷の上の戦場、ヘリや戦闘機などの空中戦に海の中を潜る水中戦など、思い出せる限りの戦場の様子をナインは語って聞かせた。
「なるほどな。かのような世界も有るのだな」
「ええ。私は今でこそこうして剣を握ってはいるけれど」
「ふむ……なら、その銃とやらを手にしていれば我といい勝負が出来るか?」
「それは……なんとも。そもそも格が倍近くですし」
肩を竦めながらナインは自嘲する。
それもその筈、この黒騎士は――
《剣闘王・ザガン Lv90》
「まず、基礎的な能力が足りませんし」
「むむう……」
どうやらこの黒騎士、戦いたくてしょうがないようだ。
だが……レベル90等、あと何か月かかるのだろうか。
アリスたちの話では、レベル50までは比較的レベルアップはしやすいようだが、それは最初の事で50を超えたレベルは上がり辛かったらしい。
正式版の今が15刻みでレベルキャップが解放されている事から、そうなるのはレベル45か60か。
どちらにせよ、今の彼にナインが挑もうとも適うビジョンは溶岩蛇同様に全く見えることはなかった。
「また遊びに来ますから、それで手を打ってくれませんか?」
「……いや、剣を抜け!お前も戦士の端くれだろう!戦え!」
「駄目だこの人、脳筋だ!?」
どうあがいても勝ちようが無い相手が対峙し自棄のように剣を構えた上、背後の扉が閉まってしまったので、ナインも否応なしに戦うしかなくなった。
「最悪だなぁ!」
「ゆくぞッ!」





