45.ノフス鉱山 地下①
ノフス鉱山。
それはゴルスクの街が半ば埋まっている山の名前となる。
成層火山らしい円錐の先端が切り落とされたような形をしている火山で、同時に無数の鉱山を有している鉱山だ。
街とおおよそ同じ程の深度では、無数の坑道が存在するが……その下には、勿論天然の洞窟などがある。
そんな洞窟へと、ナインはスキルの試し打ちで坑道を崩落させて落ちてしまっていた。
「いっつぅ……」
きぃん。と耳鳴りが酷い中、いくつか落ちてきた小石がナインの意識を取り戻させる。
よろめきながら立ち上がれば……周囲は瓦礫だらけであった。
辺りを見回せばどうやら表面はごつごつととしているが、いくつか淡く光る鉱石があって歩くのには不自由のない洞窟のようだが――
「うん、まあ判ってた」
ナインが真上を見上げれば、遠くに坑道の物と思われる灯りが小さく見える。
そして、チャットがフレンドに送ることが出来ないエリアのようだった。
黙っていても仕方がなく死に戻りも芸が無い為に、彼女はとりあえず探索することにした。
ナインが進む洞窟の通路は時に複雑にうねり、それでも数メートルほどに幅の広い為に歩くには苦労しない。
しかし、ただただ薄暗い洞窟を進んでいく事に、ナインがストレスと疲れを感じ始めてきた頃、始めて通路に変化があった。
「……困ったね。どうしようか、これは」
彼女の目の前には、二つに分岐した分かれ道がある。
片方は上に向かって傾いているもの、もう片方はその逆で下へと向かう道。
本来であれば脱出の為に上を目指すべきなのだが……。
「……うん、下へ行こうか。きっとそれが面白い」
いざとなれば死に戻りだ。
そう考えたナインは更に深くへと洞窟を潜る事にした。
□
更に深く洞窟を進んで一時間程だろうか。
気軽な気持ちで進んでいたナインは、後悔と共に汗を垂らしながら進んでいた。
その汗は疲労の為では無く、茹だる様な熱さによるものだ。
最初は段々と暑くなってきた程度だったものが、サウナの様にあっと言う間に洞窟内の温度は爆増していった。
だが、簡単には退くまいと意地を張った彼女は、インベントリにしまっていた飲料を極力節約しながら進んでいく。
「なんかこんな様相、昔のゲームにあったなー……」
そして、彼女の前には溶岩の海に浮かぶありばが点在する通路が拡がっていた。
赤熱したマグマが湖の様に足元で泡立ち、しかも所々で火柱が上がっているように見える。
背中に放水できるガジェットでも欲しいななどと考えながら、吹き上がる火炎や熱風に煽られつつもナインは慎重に飛び石を伝い進んでいく。
すると、大河に流されるように所々にある岩石の足場を伝った先には、文字通り溶岩の海が彼女の前に広がっていた。
「……どうやってこれ、あそこまで行くの?」
溶岩の海の中央にはなにやら建物があるように見える陸地が今いる足場から100メートルほどの距離の先にある。
蜃気楼の様に空気が熱せられて景色が歪められているもあって、それ以上あるかもしれない。
空を飛ぶスキルか数段ジャンプでも出来ないと無理だろうと呆れ返っていると、突然マグマの一部が飛沫を散らしながら盛り上がった
「グゥルオォォォォ……」
「……うわあ」
腹の底を響かせる重く低い咆哮と共に、全身にマグマを纏った頭の無い蛇の様な生き物が顔を出し、再びマグマの中へと没していく。
悠々と溶岩の海を泳ぐそれは太さが数メートルあるだろうか、それが数匹も集団で……時にそれぞれ自由にその身を出入りさせている。
溶岩蛇(仮称)の様子に、彼らへ《鑑定》や《看破》を行う事も忘れ、ただただナインがその様子を眺めているとその内の一匹が彼女に気付く。
「ッ!?」
「ォォォ……?」
こちらを向き、ゆったりと近づいてくる溶岩蛇に驚くナインだが、今から足場を跳ぼうとも逃げられないだろう。
故にここまでかと覚悟を決めて、身体を強張らせながら《看破》を放ってみると――
《ラヴァワーム Lv 87》
敵いそうもない見た目も有るが、ステータスでも圧倒的に勝てる気がしない。
そう思いながらも、ナインは倒すとすればどうすればいいかを考えていた。
安直に言えばレールガン、その弾速でマグマも硬い外皮も貫けばいい。
グレネードでマグマを剥がした後、成形炸薬弾でも打ち込むか。
少なくとも小口径の銃器では相手にならないだろう。
などと考えていれば、目の前で溶岩蛇は止まり動きを止める。
まるでこちらの様子を窺う様に鎌首をもたげ――
『……sェォ°√レ←・@シ?』
「……?」
『スマナイ、にんげんニハコウダッタカ』
「喋れ……いや念の、類……?」
音として鼓膜を叩き震わせる声では無く、頭に直接響かせるような音に顔を顰めれば、それは声に収束していった。
そういった事態に驚いていると、何やら《念話》というスキルを覚えたがそれどころではない。
『ソレデさいどとオウ。にんげんガコンナところデドウシタ?』
「え、ああ……。迷い込んだようなものかな、それで……あれは何だろう、どういったら行けるんだろうと考えていて」
『ソウカ……あれハわれらデモワカラナイ。ダガ、オまえナライイダロウ。のレ』
「……申し訳ないんだけれど、貴女に乗ったら私は焼け死んじゃうかな」
なぜかは知らないが、この溶岩蛇からは好感を得ているようだった。
だが提案は嬉しいが……今のナインの火属性耐性では、この溶岩蛇に乗ればまる焼けになってしまう。
その言葉に、初めて気づいたように彼――彼?が衝撃を受ければ、次にナインが乗っている足場へと噛みついてへし折る。
『ナラバ、コウスレバいイナ』
「うわ、わっ、と、と」
急に足場を持ち上げられれば、倒れてしまいそうになってしがみつく彼女を溶岩蛇は気にせずに灼熱をものともせずに紅い海を渡っていく。
ナインにとってその間は、恐ろしくも何処か楽しい体験であった。
この溶岩蛇は、マスクステータスの一部が低いほど友好的になってくれます。
そしてもう18年も前なんですね、サンシャイン……。





