40.アイスウルフ戦②
「がっ、は、ぉ……ぇ゛……」
オーラを纏ったアイスウルフの突進に吹き飛ばされたナインは数メートル程、雪の上を転がされていた。
回転する地面が止まった頃には、血を吐きながらもなんとか起き上がる。
「グルルゥォ!」
それと同時に、突っ込んできた雪狼に対し盾と剣、双方を交差させるようにして防御する。
ガンッとも、ゴッとも聞き取れる酷い音と共に視界の端で体力が削られるのを見つつ、追撃は堪らないと痺れる腕を振りかぶり牽制しながらナインは立ち上がった。
「いっつ……」
鈍痛と痺れに怯みながらも体勢を立て直すと、気付けば狼達の外縁に達していたらしく慌てて退いていくのが見えた。
しかし若干の和む時間すら無く、雪狼が噛みついて来るので慌てて身を捩って躱す。
間近ですれ違えば、蒼天に満たされた瞳がナインを睨め付ける。
「厳しいな、もう」
苦笑しつつも、ナインは盾を短剣へと持ち替えた。
□
それから30分。飽きずに延々と二つの影は交差し続けていた。
片やオーラを纏い、HPが残り二割ほどとなったアイスウルフ。
片や全身を傷だらけにし、回復薬で自らを癒し続けるナイン。
お互いに状況が逆になったものの、ナインの目に焦りはなかった。
「そろそろ、かな?」
そう呟けば、雪狼が馬鹿げた速度で飛び掛かってくる。
ナインの眼からして、おそらく倍かそれ以上の速さ。それに――
――ガキンッ
「あっぶな」
繰り出される氷の槍も、一回り太く鋭いものとなっていた。
おそらくはHPが半分からの発狂モード。それも狼の特性を生かす速度の向上と、魔法威力の増加。
その事実に内心で苦笑いしながらも、切り裂こうと繰り出される爪をサーベルで払い、槍を短剣で受け流した。
現状、段々と加速された雪狼の速度にもナインの目は慣れてきた。
故に、此処からは守りでは無く攻めの手を切らせて貰うとする。
「よいしょ、っと!」
サーベルと短剣の構え方を変えれば、怪訝に思っているだろう雪狼の攻撃を躱す、すると――
「グルゥア!?」
躱された雪狼の肩を回避の動作の一環で振られた剣が傷つける。
防御や回避の後の攻撃の隙や時間が無いのであれば、同時に行う事にしたのだ。
「うん、こっちの方がカウンターっぽいね」
などと頷きながら、敵そのものではなく敵の動作へとカウンターを繰り出していく。
そうすれば、減り続けていたナインのHPは減らなくなり、減らなくなっていた雪狼のHPはどんどんと削られていった。
「……ぐほっ、ぁ」
明確なカウンターを続ける事、幾度か。
逆襲を受け続けることに業を煮やした雪狼の放つ氷の槍が、ナインの脇腹を貫いた。
その衝撃に倒れまいと足を踏みしめると、好機と見て飛び掛かる雪狼をサーベルが撃墜する。
貫かれた脇と、口から大量の血が溢れるが回復薬を使っている暇はない。
すぐに起き上がった雪狼が、距離を取り攻め時を窺っているからだ。
「……来なよ」
「グォウッ!」
疑似的な痛覚に顔を顰めながらも、一時的にそれを無視して微笑めば、最後とばかりに雪狼が吼える。
どちらもお互いの攻撃一撃で相手を倒せる圏内だ。
次が最後の一撃、そうなれば相手の手を予測し、勝つための最適の動きを考え巡らせていく。
流れ出す血の量が増える程、心拍の上昇を感じ取れば、どちらともなく動き始める。
極限まで搾り抜いた力を爆発させ、雪狼が己の渾身の速度で砲弾の如く発射される。
それに対し、ナインは静かに短剣を握る左手を前に出し、サーベルを握る右手は楽に構えた。
「……あぁぁァッ!」
「……!?」
勝負は一瞬では決まらなかった。
猛烈な速度で突撃した雪狼の突進を、ナインはその口腔へ左手を突き出し喉奥を殴るようにして止める。
突き込まれた腕をかみ砕くよりも、困惑と体内に走る激痛で動くことが出来なかった。
一方ナインも、瀕死の状態で耐えることは出来たが……既に出血とダメージで意識が朦朧としてしまっている。
そこへ――
「《ワイルドエッジ》ィ!」
ナインが右の手で握るサーベルに光を宿し、振り下ろす事で雪狼の背を深く切り裂いた。
《片手剣》術技――《ワイルドエッジ》
使用者のHPが減っていればいる程に攻撃力が増加する反撃の刃。
アーツをあまり好まないナインが、使ってもいいと思ったものの一つだ。
その技が、動きを止められた雪狼のHPを消し飛ばした。
□
《レベル33になりました》
《レベル34になりました》
《称号:ネームドキラーを獲得しました》
《称号:ダイハードを獲得しました》
《スキル:ラストスタンドを獲得しました》
《スキル:ダブルタイムを獲得しました》
《アイスウルフ初討伐報酬によって、SPが5ポイント獲得されます》
「はー……はっ、ぁ……ふ、う」
戦闘が終わり、視界が明滅する中でいくつかのアナウンスがうるさく鳴り響く。
それをナインは呆けて機器ながら、だらりと血塗れの左手を下ろし雪原に崩れ落ちる。
ぼんやりとしながらうつ伏せの体勢から仰向けへとなれば、自分へと降り積もる雪の冷たさが心地よかった。
そうして白い息を吐きながら左腕と脇腹からの出血によるデスを待っていると、ふとナインの傍に周囲を囲んでいた狼達が近寄ってくる。
「ああ、敵討ちか。それもまた……って、ひゃ、やめろ、ね、止めっぐふ…………」
残り少ない死に戻りまでの時間ですら、襲われるのかと遠い目で見つめていた狼達は、ナインを襲った。
主に、頬や無事な手を舐め回す事で。
その仕打ちに、堪えきれず笑った事で咳き込んで、ナインはアルゲンルイムへと死に戻った。
じつは実話です(倒れてる所を顔舐められて笑って咳き込んだ所)





