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4.剣と盾

12/9 一部加筆


 三つの集団が居た。

 四匹の狼と三体のゴブリン、そして三人の冒険者。


 睨み合っていた狼とゴブリンに出くわした冒険者がお互い顔を見合わせていると、警戒し合っていた七つの視線が示し合わせたように乱入者へと襲い掛かる。

 それを見た冒険者の一人が声を上げると狼の方へ向かい、残った二人がゴブリンへと対峙する。



 わざわざ戦力を減らした獲物に対しても狼は気を抜かず、正面から二匹が飛び掛かりもう二匹は左右へと別れ追撃や警戒にあたる。

 彼らにとっての鉄壁の布陣は想像通りに冒険者を討ち取るに至る事は、無かった。


 冒険者は避けるのではなく腕を左右へ振り抜き、飛び掛かったために無防備な空中に居る狼の頭の横っ面を、それぞれの腕で持つ盾と剣で叩き落とす。

 盾で殴られた狼は左に待機していた別の狼へと吹き飛ばされて悲鳴を上げながら折り重なり、頭の付け根を深々と刺し貫かれた狼はその自重で血と共に地面へと崩れ落ちる。


 即死1、瀕死2と一瞬で狩人から獲物へと陥った最後の狼は動揺からか愚直に突進し、その腹を蹴り上げられて瀕死となって残りの二匹同様に淡々と斬り付けられて粒子へと還った。


「これならまだ軍用犬のほうが怖いかな」


 ふと自身に迫る軍用犬(わんわんお)を思い浮かべながら頭上の通知を確認しては、つまらなそうな表情で背を伸ばすナインが視線を巡らせると、アリスとスプークがゴブリンを返り討ちにし終えた所であった。





 一通り古都巡りを終えた一行は、とりあえず戦闘をしに行こうと街の出口へと向かいながら初期所持品を確認した。


 初心者用のポーションがHPのものとMPのものが10個ずつ、街などのセーフエリアへと帰還する為のアイテムが数個。加えて選択式の武器が1つ。

 これらはレベル10までの、文字通り初心者のための救済アイテムの様だ。そして防具は無く、初期から見た目用として有る洋風の普段着とローブだけ。


 せめて革鎧ぐらいは欲しいと思いながらナインは片手剣を、アリスは細剣、スプークは杖を選択したが少々お古のような見た目に皆の苦笑が漏れ出した。

 とはいえそんなものでもないよりはマシだろうと、ある程度の資金を早く溜めて多少は良い装備を揃えるべきだと一行は判断した。

 こうして古都から出て少しの平原と森の境目で腕試し兼、金策と相成っている訳だ。



「にしても総長、盾持ってから動きがよりキモくなりましたねぃ」

「……その言い方は流石に酷くない?」

「あはは、まあ人外っぽいと言えば……」

「アリスまで……ただ左右のバランスが取れて、動きやすくなっただけなんだけれど」

「重量バランス取れただけで、初心者みたいな動きからアーツ使わずにカウンターとか決める時点で気持ち悪いんですよ、総長」

「えぇ……そんな」


 一区切りついたところで森から出て周囲を見渡せば、ちらほらと他のプレイヤーが移動して居たり戦闘しているのが見える。兎に苦戦しているパーティも居ればサクサクと一人で進んでいる人も居て、ただ視ている分でも楽しいだろう。

 そんな中で、勝利にハイタッチしていた兄妹の片割れに向けて呟くスプークの言葉に苦笑が漏れる。


 最初は片手に握る剣の重みを御せずに振り回されていたナインであったが、二人の助言で多少マシなものとなり、10戦を超えたあたりでようやく一端にモンスターと戦えるようになった。

 そこから二時間ほどで順調にドロップする現金や討伐依頼などで所持金を揃え、各々装備――前衛の二人は革鎧を揃えそれに加え左手用に丸盾をナインは求め、後衛のスプークはローブと腕輪と言った物――を更新しての一戦が先程の戦いという訳だ。


 なお持ち前の反射神経や運動神経でもカウンター等の行動は出来なくもないが、スキルや装備の習熟で取得できる《アーツ》を使う行動を軸とすることが基本で有る訳で……ナインの様に通常攻撃と通常行動だけで戦うプレイヤーは極少数派だ。



「そういえばなんだっけ、レベルの……上限だっけ?はまだいいの?」

「適正レベルですね。これ位だと、もう少し大丈夫だと思いますよ」

「いちおーさっきのでレベル8まで来たからねぃ」


 初心者帯という事も有って、さくさくとレベルが上がっていくのは妙な心地良さと高揚感が感じられる。

 時に凶暴な兎を、時に森から飛び出してくる狼やゴブリンを掃討していくうちに、自然と初心者の脱却に一歩ずつ近づいて行っていた。

 そして兎や狼は倒した際にドロップするアイテムが多く、ゴブリンは数が多いからか厄獣として討伐数で褒章が出る事と経験値が美味しいものであった。



「森に入る手前でもこれなら、森の中はどうなってるんだろうね」

「10は軽く超えそうですね」

「まあ初心者が奥まで入るものじゃないっすよねぃ」

「……?」


 ふとした疑問を口にするナインが二人を見やれば、苦虫を噛み潰したような表情で顔を逸らされる。

 何かあったのだろうかと心配になるが、どういう事か判らず首を傾げるしかなかった。


「とりあえず狩場としてもう少し踏み込んでみても大丈夫なら、レベル10まで行ってしまう?」

「それが良いかと思います」

「賛成賛成ーっ」


 二人へ確認を取れば快諾を得られた故に、効率を求めていく事にする。

 RPGというのも、丁度良い経験値の所で戦う方が……などと聞いた覚えがある事は、MMORPGでも共通しているようだ。





「二人とも、一つ試してみてもいいかい」

「何をっす?」

「どうしたんです、何か思いつきました?」


 狼やゴブリンを数体倒したところで、三人の頭上にレベルアップの表示浮かび上がる。

 それによって生じたポイントをステータスへ手早く割り振る中でナインがメニュー画面を操作しながら二人へと声をかける。


「装備を変えてやってみる。いい?」

「?……わかりました、姉さん」

「了解ですよぃっと」


 首を傾げていたアリスが頷き、スプークがこれから何が起こるのかを楽しみにして笑う。

 とはいえ試行してみるのはただの確認のようなもののため、そこまで期待されても困るのだが。


 疑問に思っていたのはスキルのある武器攻撃と無い武器攻撃、その違いについてだ。

 メニューに表示される文言を見る限りでは、スキルの熟練度が上がればそれについての行動に補正が掛かるとある。

 また武器であればアーツ、魔法であれば属性魔法などの習得とも書かれているのを見る限り、どちらの意味でも重要なのだろうが……


「補正ってなんなんだろうね」


 まだ弓や魔法なら判るものの、例えば剣や槍での補正とはどういう意味なのか。

 ただ威力に関する補正なのか、それとも振り下ろす剣の軌跡をアシストでもしてくれるのかが、気になってしまったのだ。



 そんな事を考えていると丁度良く四匹のゴブリンの集団に出くわし、二人が流れる様に一体ずつ倒していく間にナインは片手剣では無く短剣を手に、残る二体が逃げないように立ち回っていた。

 錆びた包丁のような短刀の攻撃を躱し、盾で捌き、逃げようとすれば適度に攻めの姿勢を見せて逃がさない。しかし一方的に仲間が半数倒されたことを知れば一目散に逃げ出し始める。


「よ……っと、《装備変更》」


 逃げ出すゴブリンのうなじへとナインが持っていた短剣が突き刺さる。

 隣で一緒に逃げていた同胞が突然死んでしまった事に、最後のゴブリンは怯えから一瞬足を止めてしまい……彼が次に目にしたのは、自らの喉から迸る鮮血だけであった。


「「お見事」っす」

「ヘッドショットとナイフキル、とはいえ鈍ったね……」

「あれで、ですか?」

「あれで、なんすよねぃ」


 ナインがやったことは至極単純。装備していた短剣を投げ付けては《装備変更》のスキルで素早く別の短剣を装備し、呆気に取られて動けなかったゴブリンの首を掻き切っただけだ。

 小さく拍手するアリスと肩を竦めるスプークの前で、どうもしっくりこない感覚に首を傾げる。


「うん。違和感は掴めたかな」

「何を探ってたんですか?」

「スキルの補正について。投げた時に少し違和感が有ったけど、首をやった時は何もなかった」

「ぁーアジャスト関連?」

「そう言えば姉さんは下調べをしていなかったんでしたよね」

「誰かさんのおかげでね?」


 あははと苦笑いするアリスを薄く睨み付けながら短剣を投げた手を何度か握り具合を確かめる。もしかしてこういった仕様については公式で説明が有ったのかとスプークを見やれば、彼もまた目を逸らす。

 溜息をついて後で調べておこうと心に決めつつ、メニューを開き二人を前に肩を落とし一息つく。



「そろそろ、20時といった所だね」

「もうそれ程でしたか」

「早いっすねぃ、楽しかったからかな?」

「このペースなら、22時までにはレベル10には届くね」

「じゃあ達したらお開き、ですか?」

「夜更かしも良くないっすから、丁度いいすねぃ」

「明日から土日だから、スタートダッシュにはなったんじゃないかな?」

「じゃ、ぱぱっとレベル10まで行っちゃいますか」

「おー!」


 森の中の開けた場所で話し合いながら、見知った顔同士でパーティを組んだとはいえ初日で初心者脱却とは……中々飛ばしていたのではないかと思う。

 そして明日から土日という事で、やろうと思えば一日中ゲームをプレイすることが出来る。

 明日から更に増えるであろうプレイヤーに揉まれる事無くこの『Stranger Online』をプレイすることが出来るのであれば、無理に徹夜する事も無いだろう。


 そんな事を考えながら上機嫌な二人とモンスターを撃破し続け森を歩き続けていれば、予定より早く一時間は早くレベル10へと至ることが出来ていた。




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