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38.妹の心と兄の思惑



 雪が舞い散る雪原を西進する影が二つあった。


「にしてもさ、妹ちゃん。あのバトルジャンキーが闘技大会に出ないってのも珍しくないか?」

「そうでもないですよ?あれで姉さんは、闘いを選びますから」


 アリスとヒューイは、城塞港湾フェンブルグを目指して雪原を歩いていた。

 途中、二人を邪魔する敵がいくつか現れるが……ヒューイの矢とアリスのレイピアの元、ねじ伏せられていた。


 この地域の推奨レベルに及ばないまでもPSによって彼らは道中を駆け抜けていた。

 その最中でのヒューイの言葉に、アリスは肩を竦めながら答える。


「自分も相手も、万全の状態で戦いたいという思いが強いのだと思います」

「だから、今回は見送ったってクチか……へえ」


 関心とも嘲笑ともとれる彼の笑みにアリスは苦笑しつつも忍び寄る雪兎を刺し穿ち、斬り捨てる。

 そんな中で流れるアナウンスが二人の脳裏に響いた。


《プレイヤーの二割がレベルキャップであるレベル30に達しました》

《レベルキャップがレベル45に解放されます》


「お、中々憎いタイミングでの解放だな」

「少し遅いとは思いますがね」


 『StOn』では、レベルキャップはアナウンスの通り、プレイヤー全体の二割が到達しないと解除されないシステムだ。

 だが、先の防衛線でプレイヤー全体のレベルが上がったとアリスは思っていたが……実際はそうではなかったようであった。


 その事に唇を曲げていると、大きな手が彼女の頭を撫でる。


「ま、どちらにせよ、だ。適当なタイミングでナイン(あいつ)に決闘でも申し込めばいい」

「そうですね……そうします」


 兄とは違う乱雑な撫で方に、アリスは不満に思いながらも気づかいに感謝していた。





「さて、そんな訳で」


 一方でナインはまだアルゲンルイムの酒場で出された食事を摘んでいた。

 同じ卓にはマージーとスプークも座っていて、何やら悪だくみをしているような布陣である。


「例の物は作れそう?」

「そうっすね、錬金の方(こっち)はもうちょっと質を上げれれば……」

鍛冶()は、大丈夫。だけれど、耐久力が、心配」

「そっか、じゃあ出来る範囲で詰めていってくれると助かるよ」

「了解っす」

「ん」


 主語を共有しているが故に、それを口にしない会話を終えてナインは手を振る。

 そして愛想なく手を振るマージーとニヤついたスプークの二人と別れ、食事の代金を払い寒空の下へと繰り出した。


「さっぶ……」


 防寒着を着込んでもなお寒い寒気に身を震わせながら、足早にこの町の冒険者組合へと向かった。


 組合の建物は珍しく木造で、ログハウスのようで中には大きな暖炉が備え付けられている。

 そして食堂が併設されて居ると思えば、酒を飲んでいるものも見えることから……食堂では無く酒場かとナインは苦笑を浮かべながら受付嬢へと話しかけた。。


「すみません、この町の図書館の場所と、ゴルスク行きの依頼は有りませんか?」

「図書館は少し歩いたところに、依頼の方は……一件ございますね」

「どうも」


 尋ねればどちらもあっさりと情報が手に入ったので、適当な席にかけて依頼書へと目を通す。



+--------------------------------+


クエスト 雑貨の搬送


発行者:マルコ

内容:アルゲンルイムからゴルスクへと雑貨を運べ

条件:インベントリの空きが20枠以上


報酬:42,000シルブ

   中級HP回復薬x3


受注しますか?


《Yes / No》



+--------------------------------+



 なるほど、とナインは頷く。

 どうやらレベルなどではなく純粋に荷物運びのクエストの様だった。


 ならばと依頼を受諾した所で……彼女の視界が暗くなる。

 ふと灯りを遮ったものは何かと振り向けば、一人の獣人がそこに居た。


「嬢ちゃん、ゴルスクに行く気かい?」

「ええ、ちょっと用事が有るので」

「なら今はやめておいた方が良い、アイスウルフが出てる」

「アイス?スノウウルフと違うんですか?」

「強さという意味でなら、段違いだぜ」

「……ふむ。御忠告、ありがとうございます」

「いいんだよ、お節介だからな」


 親切な獣人に立ち上がって頭を下げれば、照れたような遠慮されたような反応を返される。

 なのでふと彼が持つジョッキの飲み物を見て覚え、同じものを二つ注文して彼の元へナインは戻る。


「ではお節介のお礼を」

「ん、なんだ気にする事は無かったのに……」

「お節介されたので、お節介です」

「はは、そう言われちゃ何も言えねえ」


 和やかに談笑する雰囲気の中で、ナインは率直に本題を切り出す。



「それで、そのアイスウルフはどれ位強いんですか?」

「なんだ嬢ちゃん、やる気か?」

「いえ、出来れば回避します。今後の後学の為ですよ」

「そうか。あいつはまず強めの魔法を使う事と、何より身体能力がずば抜けている」

「……ふむ」

「それなのに、雪原や森の中で出会うからな。こっちからすれば足場が最悪ってわけだ」

「なるほど、厄介ですね……」

「ああ。そうだな……大体レベル40位は必要だな」

「そうですか。私は30なので、大人しく逃げますね」

「それがいいさ」

「わざわざ、ありがとうございます」

「おう、こちらこそ奢ってもらって悪いな!」


 大体欲しい情報を聞き取れたナインは獣人と別れ、ニヤついた笑みで冒険者組合を後にした。




妹の心兄知らず。

兄の心妹知らず。

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