37.祭りに向けて
100ブクマありがとうございます。
なんだかんだ成長してるのかなぁと、しみじみ感じて居たり。
「さて、という訳で私達はイベント前に北に行こうと思う」
日曜日の夜。
唐突にイベントが連続して来週に行われるという運営の通知があった後、古都の北門にナイン達一行は居た。
その各々が外套を用意し、遠出の支度をしている事は一目で判る。
「北の交易都市アルゲンルイム、氷漠都市イェソド、城塞港湾フェンブル。この三つが主な目的地だね」
「生産組としては、アルゲンは外せないっすねぃ」
「ん……」
「私はフェンブルグが、技を鍛えるのにちょうど良いので」
「おう、あそこは軍が構えてるからな」
「うん。そしてイェソドでリフレッシュ……は時間が有ればかな」
ナインの言葉に苦笑する一行だが、実際はイベントである闘技大会の前後にはイェソドには行きたいのであった。
理由は明白。極寒の北方地方において、砂漠のオアシスの如く温泉がある保養地なのだ。
こればかりは女性陣のみならず、ナインとヒューイも同意し、余裕があれば寄りたいとしていた。
「あ、総長。ゴルスクはいいんですかぃ?」
「鉱山都市だよね。今回はアルゲンで金属は集める予定なんだ」
「まっ、その方が時短になるしな」
多くの金属を算出する鉱山都市ゴルスクは、ナインも向かいたいのが山々であったが、流石に時間が足りないと斬り捨てる事にしていた。
その事にヒューイも賛成してくれて、他三人も納得して頷く。
「じゃ、気楽にいこうか」
「はい」
「いざ冬の大地へ~」
「ふふ、楽しみですね」
「さって、ベータとどう違うか楽しみだな?」
各々で思いを馳せながら、一行は北へと向かった。
□
以前に撃破したビッグトレントを再度撃破し、マージーとヒューイも通過できるようにしてから、北の森を抜け更に北へと向かう。
すると、最初は気温が下がり植生がまばらになり、森から林へ、林から草原へ、草原から雪原へと移ろう。
最初はスプークとヒューイが美しい雪に物珍し気に騒いでいたが、数分で寒さに体を冷やされて大人しくなった。
そんな二人を始めとしてマージー手製の防寒具を身に纏い、そこにスプークとナインが炎系のエンチャントで寒さを緩和する。
「いやあ、流石にはしゃぎ過ぎたじゃないの」
「さぶいっすよぉ……」
「全く……雪遊びならイェソドでやった方がいいだろうに」
「そうですよ、まったく仕方のない人達です」
「……ふふ」
防寒具を着てもなお身体を抱いて震える二人には、容赦のない言葉が浴びせられる。
そうこうしている間にも雪が降り始め、一行の頭や肩を白く染めていく。
「さ、行こう。流石に吹雪かれたら不味い」
「ええ、行きましょう」
姉妹で苦笑しながら示し合わせれば、ナインとアリスは一行の前方左右へと別れ、マージーが後方について警戒しながら雪原を進む。
そうして居れば――
「ナイン!右だっ!」
「――ッ!?」
ヒューイの叫び声に咄嗟にナインは左へ跳ぶ。
すると積もった雪の中から鋭い角を持つ兎が飛び掛かってきた。
警戒系のスキルが反応しなかったことにナインが驚いていれば、ヒューイの矢が兎を射抜く。
「すまない。助かったよ」
「おう、こいつら擬態してっから気をつけてな」
「なるほど」
彼の言葉に頷いて、スキルの《看破》を飛ばせば……雪原にぽつぽつと赤い光が見える。
厄介だなと思って居れば、雪を踏みしめる足音の束がこちらへと向かって来た。
「次が来たぞ!」
ナインが叫べば、全員が戦闘態勢に入り直す。
そこからは乱戦に近いモノだった。
一行に接近したのは白い狼が七匹、ホワイトウルフに一頭だけスノウウルフという狼が混ざっていた。
彼らはスプークを狙おうとしたので、四方をそれぞれが固める。
すると膠着状態となったので、ナインは皆に頷いてからスノウウルフへと躍り掛かった。
獲物が勝手に飛び出したとあれば、全力をもって狼達はナインへと襲い掛かるが、それを身のこなしや盾でもって致命傷を徹底的に防がれる。
飛び掛かれば寸で躱され、同時に噛みつけばどちらも両の手で払われ、油断すれば腹を蹴り上げられ斬りつけられる。
その動きに狼達が次第にイラついて動きが単調になってくれば、後は四人からの援護でもってあっさりと狼の集団は返り討ちとなった。
「……ん、終わりか」
「大丈夫ですか?」
「うん、援護ありがとう。皆」
「良いって事よ、ありがとよ」
「むしろ助かりましたしねぃ」
「です、ね」
ナインが装備に着いた血を雪で拭いながら苦笑を見せれば、ヒューイが肩を叩きながら笑って見せる。
故に、一緒に笑いながら一行と雪原の踏破を目指していった。
□
そうして雪原を抜け丘を越えた所で、交易都市アルゲンルイムへと一行は至る。
アルゲンルイムは全体的に堅牢なレンガ造りの建物が眼を引く雪風が通りを駆け抜ける雪の都であった。
建造物の屋根はそこそこに傾斜が付けられ、その先に延びた氷柱が眼でも寒さを感じられる。
ざっと見た所プレイヤーの数は非常に少なく、あまり人気が無いように見えたが――
「姉さん、ほら……雪国の方でもないと、この寒さは厳しいもので」
「そういう理由でかぁ」
そっと隣にくっつくアリスの言葉に頷き、寒いのならと防寒具を開いて中へと招きながらナインはプレイヤーの少なさに納得する。
ならば対策をして、というよりもその対策が面倒だからだろうか。
などと考えていれば、マージーやスプークもくっついてきたので適当な酒場へと転がり込む事にした。
そこは打ち合わせ等に丁度良いような、良い具合の寂れた酒場であった。
ゲーム内では昼間という事も有って、NPCも店長らしき老人だけであるのも丁度良いことだ。
「いらっしゃい」
そう呟きながらもこちらを一目も見ない事に、ナインはこの店長に若干の好感を得ていた。
「穴場ですねぃ」
「穴場じゃないの」
「……いい空気」
「こんな時間に済みません、なにか食べるものを注文しても?」
「お酒は……流石にまずいですよね」
それぞれが各々の言葉を口にする中、店長が頷いて奥へと入っていく。
厨房なのだろうか。と考えながらナインはこれからの予定を切り出す。
「さて、ここからは別行動になるね」
「うちとマージーさんは、拠点探して生産活動っすねぃ」
「俺とアリスはフェンブルグで特訓だな」
「姉さんはどうするんですか?」
「そうだね……実はちょっと迷ってるんだ」
四人とも予定が決まっている中で、自らの予定を聞かれてナインは苦笑する。
「実をいうと、クエストが気になってしかたが無いから……それを先に済ませたいんだよね」
「あ、幽霊の奴か」
「そう言えばそんな話も……」
「そういう訳で、私もしばらく此処で情報収集したいんだけれど、いいかな?」
流石に顰蹙を買うのでは、と頬を掻きながら皆の顔を見るが――
「うちは問題ないっすよー」
「私も」
「俺も別に無いかな?」
「ええ、姉さんの好きな事をしてください」
「ん、ありがとう皆」
そんな事は無く、皆各々の表情で快諾してくれたのでナインは頭を下げる。
続いて生産職の二人に目を向け、重ねて頭を下げた。
「そういう訳だから……スプーク、マージー。『みんな』の装備、よろしくね」
「勿論っすよぃ」
「ん、任せて」
などといった感じで、ナインら一行は北方で活動を始めたのであった。
地理的には、大陸中央に古都。
その北方にアルゲンルイム、そこから西の海岸にフェンブルグ、東の山間にイェソドで更に東に行くとゴルスクとなっています。





