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30.歪みは揺り直されようと

評価やブックマーク等により、総合評価200ポイント頂きました。

ありがとうございます。


2/9 誤字修正。



 援軍を一撃で吹き飛ばした元凶へと視線を巡らせれば、血走った瞳がこちらをはっきりと見詰めている。

 そして手にした大剣を振り上げて放たれる雄たけびに周囲の若干色が違うゴブリンが約10体、突っ込んできた。


 その姿から、大集団を纏める様なエリートかと思うが正面から突っ込んでくる速度が速い。

 途中、そこそこの戦力を保っている筈のプレイヤーを文字通り瞬殺しながら中央を崩しにかかってくる。



「不味いね。《号令》、奴らを止めるよ!」


 周囲のプレイヤーに指揮系のスキルのバフを飛ばしながら緑の鏃を受け止めに掛かる。

 どうやら他にも腕の立つプレイヤーが受け持ってくれてはいたが――


「アリス!ごめん、三匹抜けた!」

『判りました、包囲して倒します』

「任せ、た……よッ!」


 肩を並べて戦う異邦人側はナインを含め四人、エリートがツーマンセルで当たっている為にフリーの個体は脇を抜けて行ってしまう。

 それを止めようともしたが、案外動きの速いエリート相手ではその余裕がナインにはなかった。

 彼らが持っているのはナイフ故に、リーチではこちらが圧倒的に長い為に牽制を主にして戦う。


 サーベルの剣先をちらつかせ、フェイントに釣られた攻撃は盾を押し付けるように受け流し、もう片方の個体へ斬り付ける。

 流石に雑魚とは違うのか、一撃では倒せないもののそれを四回繰り返した後に立っていたのはナインの方だった。


 しぶとい、それに強かったという事実につい口元が緩んでしまうが、すぐに切り替えて周囲を見れば狩人風のプレイヤーはまだ一匹に絡まれている。

 故にどちらにも気づかれないように真横から突っ込みエリートの首を刎ねる。

 その際、矢が肩に当たりそうになったが射線上に盾を割り込ませて防いだ。


「横槍ごめんね」

「いや、助かった」


 ほんの短く言葉を交わせば、頷き合ってデカブツの方へと向き直る。

 おそらく今回のボスと思われる個体。その取り巻きにもう10体のエリートがこちらへと歩を進めている。

 それを見てナインも余裕を無くし、音声チャットに声を張り上げた。



「アリス、スプーク。優先支援要請!」

『すみません。先程のエリートと両翼の指揮で、手一杯で……ッ』

弾薬(MP)補給中につきぃ、出来ないっすゥ』

「こんな時に!?」


 本能的に此処にいる数名だけでは止められないと察して援護を求むも、ナインの耳に届いたのは不可能との言葉。

 幾人かこちらに向かっているプレイヤーも見えるが、よほどじゃない限り戦力にはならないだろう。


「ねえ弓の人。アレ止めれるかな」

「そうだな剣の人。倒すことを考えなければ、取り巻きは抑えられると思うぞ」

「お?」


 自嘲気味に腕の立つと見込んだプレイヤーに問い掛けてみれば、彼と他のプレイヤーもそれに頷く。

 つまりは三人で10体を縫い付ける自信が有るのだろう、ナインからすれば相性が悪めで二体が精一杯だというのに。


 頼もしい。そう口にしようとしてふと気づく。

 ……ではあの中央のデカブツはどうするのかと。


「ねえ、ってことは、さ……?」

「うん。大きいのは任せたよ?」

「任された!?」


 爽やかな笑顔と共に三方からサムズアップされる。

 騙された、嵌められた!などと肩を震わせるも……見ず知らずの相手との間に苦笑が結ばれる。


 そうこうしている間にも、ボスと取り巻きはもう目の前に迫ろうとしていた。





「ありゃジェネラルだ、グッドラック」


 その言葉と共に先程まで肩を並べていた三人はナインの前に出る。

 キングでは無いのか、と首を傾げながら《看破》を用いれば、両手剣のような大剣を片手で持つジェネラルの近くにゲージが三本も見える。

 金属鎧では無く革鎧で、盾を持っていない所から完全武装では無いのかと一瞬思考が過ぎるが……考えても意味の無い事と脳が思考を打ち切る。


 その間に、挑発のようなヘイト管理スキルやアーツを使ったプレイヤーが取り巻きを引き剥がしてくれた。

 これで、一対一だ。



 周囲に剣戟を始めとした戦争の音が鳴り響く中、ボスであるジェネラルと静かに向かい合う。

 向けられる瞳にはギラついた戦意が塗りたくられていて、野生の動物の強さと理性有る存在の強さを嫌でも感じ取らせてくる。


 そして戦意を織りなしているのは闘志と殺意。

 燃え押し潰してくるような闘志と、油断すれば切れてしまいそうな錯覚を覚える殺意にナインは――


「……あっは」


 剣を抜き盾を構え、穏やかに笑いながら僅かに腰を落し構えた。

 くつくつと喉が渇き音を立てるのも構わず、昂った心のままに彼女は叫ぶ。


「来なよ、私を殺して見せろ!」

「ゴァッ!」


 次の瞬間、巨体と痩躯がぶつかり合った。



「(遅い)」


 大上段から振り下ろされる一撃を、横に一歩跳んで外させてはその手を三度斬り付ける。

 それに対しジェネラルは振り下ろしたまま横薙ぎに腕を振るい、直後足元を踏み抜く様に地面を揺らす。


 ナインは更に接近し肘の内側に入る事で横薙ぎを躱し、革鎧の隙間を数度斬りつけては胸板を蹴って宙へと逃げる。

 距離を取ったと思えば、着地と同時にナイフを投げ付け首を狙った。

 しかしそれは大剣を手にしていない方の腕に弾かれてしまう。


「いける、ね」


 力と体格では負けているが、速さと小回りの良さではナインが勝っている。

 しかも大ぶりな攻撃は《ワーズ墓所》のボスで目が慣れている。


 与えたダメージが極小でも、この調子ならいけると彼女は踏み出す。



 様子見は終わったとジェネラルが一歩強く踏みしめれば、いきなり突進をナインへと繰り出した。

 その巨躯を武器とした攻撃は、避け様が無いように見えたが――


「よっと」


 集中が深まっていくナインは左右に避ければ追撃が来ると踏み、活路を前に見出した。

 身体を傾け、スライディングでジェネラルの股下を潜り抜ける。


 行きかけの駄賃とばかりに足を斬り付ければ奴が怯んだので、無防備な背を斬り付ける。

 ……が、すぐに立ち直ったのか横薙ぎの大剣が迫ったので、跳んでこれを躱す。

 その先で、大剣を両手持ちで斬りかかってくるジェネラルの攻撃を左手の盾で受け流す、が衝撃の強さに左腕が上がらなくなる。


「がッ!?」

「グゥオッ!」


 ぷらりと片腕が動かないと見れば、ジェネラルはナインの右から攻め続ける。

 左腕を使えない以上、飛び道具のナイフの攻撃も無ければ、受け身を取る事も出来ないからだ。


 故に幾度、十幾度の剣戟の応酬の果てに――ナインは肩を引っ掛けられて盛大に血を撒き散らした。



 斬られた右肩が熱い。

 だが腕を動かすことに支障はない。


 ナインはそうすぐに判断しながら、ようやく指の感覚が戻った左手でナイフを投げ牽制しながら距離を取った。

 しかし――


「……は?」

「グゥオアッ!!」

「ぬぅ……ッ!?」


 飛び上がったジェネラルが一瞬で距離を詰めるのを見て、呆けた声をナインは上げながらも一瞬跳んで宙へとストンプを回避する。

 そこへ追撃に回転斬りが繰り出され、慌てて走り高跳びの要領で大剣を躱し、ダメ押しの切り下ろしを右腕の腕力で跳んで躱す。


 よく見れば、いつの間にかHPゲージが既に残り一本となっていた。

 どういうことかと一瞬視線を巡らせてみれば、周囲からジェネラルへと向けて魔法や矢が撃ち込まれている。

 放っている中には先程のプレイヤーも見えた事から、大方残りのめぼしい敵はジェネラルなのだろう。


 流石に横槍が鬱陶しいと感じたのだろう。

 ジェネラルが吼えながら別のプレイヤーへと向かおうとするが――


「背中を見せるなッ!」


 《デュエリング》、そして《注目》でジェネラルの相手をナインは自分へと引き戻す。


 途中、盾を持ったタンクが変わろうとしたのか割り込んでくれて短時間だが休息を取れたが、すぐに吹き飛ばされてナインが延々とジェネラルを引き留め続けた。

 もう集中が続かない、そう思い始めた頃……ジェネラルが膝を付き、どうと地に伏して粒子へと消えた。



《ゴブリンジェネラルが討伐されました》


《ゴブリン軍の戦力が過半数を割りました》


《ワールドクエストの評価を判定中……》



 やっと終わった。

 そう理解出来た頃には傷だらけの身体をナインは地面に投げ出した。


 まだまだ、反省点は多数思い浮かんでは消えていく。

 集中力に欠いている事も、身体を自在に動かせていない事も、漠然と悔やみながら目を閉じる。



《総隊司令官死亡回数…………0回》

《部隊長死亡回数……………18回》

《分隊長死亡回数…………126回》

《異邦人死亡回数………9631回》

《古都城壁の被害………………0%》

《古都住民の被害………………0%》



 聞こえるアナウンスが心地良い。

 おそらく聞こえている通りの内容の評価なのだろう。



《クリア評価…………Aランク!》

《城壁に被害なく守り切った為、報酬にボーナスが追加されます》

《住民に被害なく守り切った為、報酬にボーナスが追加されます》

《無傷にて守り切った為、NPCからの異邦人への評価が上昇しました》



 そんなアナウンスを耳にしながら、ナインの意識は溶けるように泥の中へと沈んで行った。




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