3.少女と幽霊と
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白亜の空間でのチュートリアルを終えたナインの前に古い街並みと柔らかな日差しが目に入る。
辺りを見回してみれば、私と同じようにぎこちない所作で周囲を見回すプレイヤーらしき人物が無数にいた。
その周囲にはこちらを興味深そうに眺める者、気にせず何処かから何処かへと歩いていく者……露店等で商売している者……。
サービス開始初日という事で多いプレイヤーの他にも、NPCと見られる人影が多く見られる。
人見知りの人の為にか用意されていたローブを纏い、待っていると言っていた愛梨を探す事にする。
まだ若干アバターと現実での身体との体格差に慣れない中でふと目に留まった人混みの方を見ていると、記憶に有る人物の色違いがその中心にいた。
ちらりと隙間から見えただけではあったが、顔つきがそのままであるのと雰囲気が似ていたから人違いでは無いだろうと、人垣を掻き分けて彼女の元へ進んでわざと高い音域での声をかける。
「……囲まれていたみたいだけれど、大丈夫?」
「特に何もありませんよ、姉さん。ちょっと遅かったですね。」
「どこかの誰かのおかげで、チュートリアルに手間取ったからね?」
色素の薄い肌はおおよそそのままに、艶のある黒い長髪を薄い金にしている妹の前まで辿り着けば満面の笑みが返される。
そして、妹が私を「姉」と呼んだのは送られたアバターが原因だ。
若干長めとも言える髪を銀色の長髪に変えられていたのはまだいい。
しかし現実では線が細いとはいえ、一応はれっきとした男性であった私の特徴を出来るだけ失わないように、身体の各部は丸みを帯びたもの――女性の身体のアバターとなっている。
そのおかげで設定の時にデータを消してしまいたい衝動に見舞われもしたが、何か考え有っての事かと思い断行した。
しかもチュートリアルでは男女での若干の骨格の差などから来る違和感に見舞われ、慣れるのに時間がかかってしまったのだ。
「よかった、気に入ってくれたんですね」
「おかしいな?私は理由を聞いているんだけれども」
「ごめんなさい。ただちょっとお姉さんというものに憧れ――」
苦笑と談笑を交わしながら、送られてくるフレンド申請を受諾する。
《 Alice 》。アリスとは安直とは言い難いけれどよくその名前を勝ち取れたなと思うが、名前被りはこのゲームではアリなのだろうか?――などと考えて居る中で耳に届くしょうもない理由に、ついアリスの言葉を遮ってその顔面を鷲掴み持ち上げる。
「くは。面白い事を言うね、アリス?」
「いだっだだだだだぁ!?ごべんばっざい!?」
「そ、総長っ。それ以上は駄目っすよ!」
「ん?その声……」
「ぴ」
我ながら変なテンションが入って居るのだろう。
普通であれば周囲にいた人垣の誰かが、止めに入る人が居てもおかしくない。が、人々のその足が止まってしまう程に私は笑っていた。
家族や悪友でさえ少し怖いと言う私の顔は、女性らしい丸みを帯びてもなお見る相手に怖いと思わせてしまうらしい。
しかしその自覚が無いままに掛けられた声の方……彼女の隣にいつからか居た人物へとその顔を向けると、何やら小動物でも出さないような悲鳴が聞こえたような気がするが、それすらもどこか記憶に引っかかり首を捻ってしまう。
小さめの身体に眼も髪も、頭に生えてる獣耳も真っ黄色。それに日本人としては目鼻がくっきりとしていて、記憶と声が当てはまる人物と噛み合わない。
「あ、今はナインって言うんっすねぃ。幽霊って言えばわかります?」
「……ああユウだったんだね、久しぶり」
「お久しぶりですよぅ総長」
「もう違うよ、もう」
「すみませんねぃ」
ネームは《 Sp00k 》。幽霊とはまた此処でもステルスプレイヤーになるのかと、懐かしさも有って自然と頬が緩む。
彼もまた私と同じVRMMOFPS『Freedom War Frontier』にて、同じクランの一員だったプレイヤーの一人。
ただなぜこの『Stranger Online』に、しかも妹と一緒に居るのかが疑問だった。
□
若干の時間が過ぎ予想にしない知人との出会いとフレンド申請の送り合いと妹への制裁を終えて、場所を変えようと誰からでもなく自然と歩き始めて数分。
頭を抑えるアリスと数歩先を歩くスプークと共に古都の街並みを楽しみながら、様々な施設の位置を巡っていた。
リスポーン地点となる先程居た街中央の噴水、解呪やイベントの有るらしい教会に冒険者の登録をする組合。そのほか武器防具の店舗を巡った後はゆっくりと観光を始めていた。
「……流されていたけれど、アリスとスプーク。どういう関係なのかな」
「あ、やっぱり気になります?」
「疚しい仲ではないっすよ?」
「じゃあ教えてくれるって事だよね」
「ええ、単にクラスメイトと言うだけですから」
「総長を誘った妹ちゃんを誘った感じですねぃ」
欧風のレンガや石造りの街並みを歩きながら、ふと二人へナインが浮かんだ疑問を投げかける。
どちらも良く知る人間であってもその接点が解らずモヤモヤしていた彼だが、すぐにそれは解けた。
自分を心配していたのは家族だけで無かったことに眉が下がってしまう。その気持ちを誤魔化す様に顔を逸らしていると疑問を投げかけられる。
「じゃーうちからも。なんでナインなんすか?」
「名前のもじりではないですよね?」
「それはその場の思いつき。適当だよ」
「嘘ですね」
「嘘っすね」
信じてくれていないことが辛い。
実際幾つかの候補が浮かんだりはした。ただしっくりくるものが《 Nein 》だっただけなのにこうも斬り捨てられるのは心に来るものがある。
などと若干心を窪ませていると、勝手知って苦笑いを浮かべるスプークと少し鼻息荒くしているアリスが隣へと歩みを揃えてきた。
「それでそれで、総長はどういうキャラにするんです?」
「……ファンタジーっぽいから、取り合えず剣と盾でもって考えてるよ」
「うっわ、無難。無難オブ無難っ」
「うるさい。そういう二人はどうするの?」
「私は細剣などの軽量剣と魔法を半々ぐらいに」
「うちは魔法おんりーっす」
アリスはどうやら魔法剣士というものだろうか。スプークは魔法に特化し、両者とも私が中遠距離を選ぶだろうと近中距離を戦いやすいようにしたらしい。
しかし無難と言われても、流石にこの世界に長銃や散弾銃は無いだろうから扱いやすそうなものを、と思っただけだ。
なお、チュートリアルで弓や魔法を試してみはしたが、どうも上手く扱えそうにも無かったためにスタンダートそうな剣と盾を選ぶこととなった。
「じゃあ前衛二人にうちが後衛になるんすかねぃ」
「一応バランスは取れている、とは思いますよ?」
「というか、そういう事なら最初に話しを通してくれればよかったんじゃない?」
「「…………ぁ」」
今更気付いたという様な反応を見せる二人だが、きっとサプライズしようという思いがこういった盲点を生んでいたのだろう。
なので思考停止から若干固まっている二人の肩を軽く叩いて前に出、振り返る。
そうすれば、驚いた表情が眼に入る。
「でも、心配してくれていたんでしょう。ありがとう、二人とも」
「えへへ……」
「どーも、っすよぉ」
各々の思惑や雑念が有ったとはいえ、滅入っていた自分を元気付けようとしてくれた気持ちは伝わった。故に出来る限りの親しみを籠めて、時期を逸する前に感謝の言葉を伝えておく。
かたや恥じらい混じりの照れ笑いの声、かたや悪戯に成功した悪く笑う声が頭を下げたナインの耳へと届けられた。





