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29.波を切る大番狂わせ



「さて、アリス、スプーク。後退したプレイヤーの再編は任せたよ」

『任されました、姉さん』

『うーいっ』


 爆心地でナインが遥か後方へとパーティ用の音声チャットを飛ばせば、生真面目な声と気の抜けた声が返ってくる。

 その事に苦笑しながら、今度は傍らの二人を見やりながら声をかける。


「ヒューイ、左の騎兵を。トップを謳うならあれぐらい獲れるでしょ?」

「おうよ。あと勝負の事も忘れんなよ?」

「はいはい。マージー、一時的に呼び捨てるのを許してね。右の魔法使いを頼んでもいいかな?」

「解りました……支えれば、いいんですね」

「そういう事、それで私は中央。じゃあお仕事と行こうか、二人とも」


 とても気楽な調子で語りかけては居るが、内心ナインもあまり余裕が有る訳では無かった。

 左右から圧をかける騎兵と魔法使いはおおよそ1000は居る。

 そして何とか後退したプレイヤーは、今立て直しを図っている為に支援は殆ど受けられない。


 それでもナインは目を閉じて長く、長く細く息を吐いて集中を深め、感情の波を平坦に均す。

 そして目を開き眼に映る目標の優先順位を決める。


「さ、テルモピレーへ散歩だ。一分一秒でも稼ぐよ」





「とは言った物の、無茶言うよなあ陽臣の奴!お前みたいにAIM(エイム)良くねえんだこっちは!」


 左翼へと駆け出したヒューイは数本の矢を持ち、次々とつがえ放ちながら一人愚痴る。

 敵は動物に騎乗したゴブリンライダー。それも狼や猪といった種族の違いで微妙に動きが異なっていた。


 猪は殆ど直線的な動きだがとにかく早く、狼はその逆で眼で追える速度だがとにかくフェイントをかけてくる。

 しかしながら彼はゴブリンや狼の脳天を射抜き、時には接近して来る相手を剣で返り討ちにする。


「……まてよ?でもこれって一騎当千ってヤツか?ってこたぁ格好いいじゃないの!!」


 彼の周囲が赤色と青色で塗りたくられる中、唐突に変な思考のスイッチが入ると機嫌よくゴブリンライダーを翻弄していく。

 だがそれにも限界が有り、真後ろから飛び掛かった狼の攻撃が――


「うわっと!?」

「遅れてすまない、援護に入るぞ!!」


 ヒューイを害する前に、飛来した矢で撃ち落とされる。

 彼が一瞬背後を見れば、復帰したプレイヤー達がぽつぽつと前線へと駆けつけて両翼へと参加し始めていた。


「助かる!反対側はどうなってる!?」

「右翼か?右翼の方は――」





「ふ、っは……!」


 魔法を使うゴブリン達の中央へと、マージーは吶喊していた。

 もちろんゴブリン達も彼女へと魔法を雨の様に浴びせては居たのだが――


「甘い、です、よ?」


 彼女が纏っているのは自作の防具。それも重戦士系の魔法防御の低さを補う属性耐性の装備。

 故に直撃でもしない限りはかすり傷しか負わず、故に大胆に切り込んで行っていた。


 魔法があまり効かず、こちらが振り回される斧へと引っかかろうものならミンチにされる事態に、ゴブリンメイジ達は恐慌状態に陥っていた。

 そしてそこへとさらに追撃が加えられる。


「俺たちも続くぞ!」


 応援に駆け付けたのは見た所、レベルや装備が心許ないプレイヤ―達だが……この状況では十分な戦力になるだろう。

 マージーはそう判断するが、直後に思った事は全く逆の事だった。


「……取り分が、減る」


 その言葉が聞こえたプレイヤーは苦笑しながら彼女を援護し、ゴブリン達へと喰いついていった。





「八番パーティ、回復が終わったら右翼にお願いします。11番パーティ、左翼から重傷者が下がってきます、対応願います」

「いやぁ、サマになってきたっすねぃ」


 城壁の上では、いくつかのウィンドウを目の前に並べて戦場を何とかしようとする指揮官の若葉(アリス)がプレイヤー達に指示を飛ばしていた。

 最初は不平不満などが有ったが、誠意込めた要請と彼女の言葉が皆を動かしていた。


「『私達が負ければ、背後の古都の住人達。私達と何ら変わらない感情を持つ人々の生活が脅かされます』っすかぁ」

「ちょ、怜。今は余裕がないので止めてください!」

「っへへぇ、ごめんなさいっすよぉ」


 茶化すスプークは、暇そうに城壁の欄干に座り足をぶらぶらとさせていた。

 そしていつも見せないような真面目な声で、アリスを褒め始めた。


「でも、クサいけれど人を動かす情熱が有った良い演説だったと思うっすよ」

「ああっ、もう後にしてくださいってば!」


 その言葉も、始めての大人数の指揮に忙殺されているアリスへは届いていないようだった。

 むしろ、そうと解っているから褒めたのかもしれないが。



「……さて、そろそろっすねぃ」


 おもむろに何かを察したスプークが欄干の上へと立ち上がれば、魔法の詠唱を始める。


「20、19、18、17……」

『スプーク!支援要請!煙の場所に――』

「『カウント10!』」


 だいたいの詠唱完了までの秒読みに割り込む様にナインからの支援の要請が入る。

 そこに、求められたタイミングぴったりに合わせられたことに彼女の頬が歓喜に緩む。


「いやー、まだまだ鈍ってないっすねぃ!」





「畜生!誰か私に5.56mm(ライフル)頂戴!散弾(ショットガン)でもいいから!」


 一方で、中央で特に特徴のないゴブリン達の相手をしていたナインは泣き言を叫んでいた。

 彼女が対面しているゴブリンはごく普通のものだ。だがそれだけに数が多い。


 ライダーやメイジといった特殊なものが1500程ずつであり、残りの7000程の内5000は通常のゴブリン、残りは弓兵であった。

 そして今、中央にはナインしかいない。


 アリスがナインを信頼してくれているのかは判らないが、ヒューイやマージーの居る両翼に増援が向かっているのが見えるが、中央の此方には誰一人来ようとしてくれていない。

 その為に、出来るだけ消耗しないように敵を怪我させ後退させる遅延戦闘に務めていた。



「あぁもう鬱陶しい!」


 定期的に降り注ぐ矢の雨を斬り捨てたホブゴブリンを遮蔽物として躱し、轟音が止めば走りながら短剣を手ごろな敵へと投げ付ける。

 一本、時に二本投げては柄に括りつけたロープを盾を持つ左手でもって回収していく。

 そして進行方向のゴブリンを走りながら斬り伏せ、またホブを狙って矢の雨を凌ぐ。


「スプーク!支援要請!煙の場所にぶちかませ!カウント10!」


 いい加減埒が明かない為に、額に青筋を浮かべながらスプークの魔法(爆撃)を音声チャットで要請しながら、適当な火魔法で不完全燃焼させた火球を弓兵の方へと打ち込む。


 急な反撃にゴブリンの弓兵は驚くが、すぐに威力がないと判れば隠れているナインへ指を差し下品な笑いを浴びせた。

 しかしそれに激高しながらもナインは背を見せて距離を取り始める。

 一部のゴブリンは彼女と戦うどころか一緒になって逃げ始めた。



 そんな様子に首を傾げ顔を見合わせ合うゴブリンが次に見たのは……自分達へと迫り来る特大の火球だった。

 直後、再び爆発が起こり周囲に熱風が吹き荒れる。


「だぁぁぁあ!同士打ち(BlueOnBlue)だ、Blue!on!blueぅ!」

『ちゃんと逃げないとあぶないっすよー総長?』

「一々火力が過剰なんだってば!?」


 身体を投げ出し、ついてきたゴブリン共々這い蹲っていた地面から身体を起こしながら遥か遠くの友人へと文句を吐き出す。

 無論、そうする間にも隣にいたゴブリンが起き上がる途中で斬り伏せた。


「……でも、これで何とか立て直されたかな……?」


 近くに敵が居なくなった為に、ふと両翼の方へと目をやればそれぞれに援軍としてプレイヤー達が前線へ復帰しているのが見える。

 また、自分の方へも十数名単位で向かってきている集団も有る為、大丈夫だろうとタカを括る。


「アリス、状況は?」

『姉さん?今どこですか?』

「中央、第二爆心地の手前だね」

『!?今すぐ下がってください!デカいのが来てます!』

「デカいの?」


 一旦下がり後続のプレイヤーとバトンタッチしながら、妹へとチャットを飛ばせば焦った様な声が返ってくる。

 一体何が、と前線の方を振り返ると……先程交代したはずのプレイヤーが吹き飛ばされてきた。


 その奥にはゴブリンとしては巨大な体躯。ホブも大きいと思うがオーガとかオークとやらじゃないのかと思う程、隣に見えるゴブリンより大きく見えた。


「わーお……」


 どうやら、振り上げたらしい大剣を下ろした様子から、馬鹿げたことをしたのはあいつらしい。


 そしてデカいゴブリン(そいつ)と目が合った。




ちょっと用事から金曜夕方の投稿は厳しいかもしれません。

あと2~3話程度でようやく一章の終わりです。


ユニークPV2000越え、ありがとうございます。やったぜ……。

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