28.大攻勢と状況打破
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基本的に、プレイヤーには明確な指揮系統が無い。
ある事にはあるが、それに従うかは各自の自由でもあるし、そもそも指揮官から末端まで途中にリーダーを二度挟む。
六人程度の通常パーティ、それが四つ束ねられた24人ほどからなるレイドパーティ。
そう組み分けられた者達が己の信じるリーダーに率いられ自由に戦う。
それはつまり、連携など有ったものでもない。
こんな烏合の衆に対し、ゴブリン達は違った。
まず彼らは自らの非力さをよく理解している。
故に役割をこなす事を徹底することで集団として、軍隊と纏まった。
数が多く弱いゴブリンと、どちらもそこそこのホブゴブリン、それを纏めるゴブリンエリート。
それらが一単位として、更に大きな単位を作っていた。
この事実を知らないプレイヤーには、勝ち目が無い事だっただろう。
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時間は若干溯り、カウンターがゼロになった数分後の事。
「数だけだ!ビビらず打って出ようぜ!」
「ゴブリン程度、どうって事あるかよ!!」
などと言って、気の早い連中は真っ先に目的を見失って攻めて行った。
それを諌めるプレイヤーも居たが――
「おい、連携を取って防衛を……」
「ゴリ押しで行けるだろ!」
「攻められる前に倒せってな!!」
不穏な流れは止まることが無く、そもそも連携をしたことが無い連中しか居なかった。
その結果は、各自自由に動いた事による結果的な連携を望むしかない状況だ。
「そうだ!どうせ弱いゴブリン達だ!攻めれば勝つのは目に見えている!!」
その流れに乗るように、ニューはプレイヤー達を煽り打って出る事で、敵に被害を強いる作戦でもない戦法を取る事に決めていた。
しかしながら、今回のこのクエストはあくまで『防衛』だという事が彼の頭から抜け落ちていた。
「返り討ちに合う可能性もある!だがそのリスクと同じだけ勝てる可能性がある!!だから行くぞ!たとえ死に戻っても被害を与え続ければ俺たちの勝ちだ!」
筋は通っている、だがプレイヤーは死に戻るとペナルティーが掛かる。それが有る以上、何度も攻め続けるというのは愚行に過ぎない事をニューを筆頭としたプレイヤーは考え及ばず、突撃し撃破されて戦力にすらならなくなってしまっていた。
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「アリス、状況は?」
「良くないです。左右両方が食い破られつつあります。」
城壁に備えられた階段を駆け上りながらナインはアリスに戦況ウィンドウを見せてもらう。
なるほど確かにおそらく先程見た通り、魔法による攻撃や騎兵突撃によってプレイヤーが蹴散らされているようだった。
「それにしても、なんで今更城壁の上に?」
「すぐにわかるよ」
そう言ってナインが城壁の最上部の通路へと辿り着けば、戦場の様子が一目で解るようになった。
アリスのウィンドウが示す通り、街道上の右翼はゴブリンの範囲魔法が重ねられて一気に崩され、左翼の草原では自由自在に走り回るゴブリンの騎兵がプレイヤーを少数切り取り殲滅するのを繰り返していた。
「これじゃ、たまんないね」
「どうすんの、こっから」
「そうっすよ」
「此処から、一気に戦場のド真ん中に、ね?」
敗北濃厚な戦況に、全員で肩を落とす中でナインは楽しそうに城壁に並んだ弩砲を指差した。
それを見たNPCの兵士も、首を捻り?マークを頭上に浮かべている。
「矢の代わりに私達を打ち出すだけ。簡単でしょ?」
死ぬわ!とその場にいた全員の声がハモるが、ナインはそれを気にせず続ける。
「跳ぶのは私とヒューイ、それとマージーさん。ヒューイは大丈夫として、マージーさんは私が抱えていくから」
「ちょっと待て、なんで俺は大丈夫なんだよ!?」
「風魔法、覚えてるでしょ」
「あ、そっか」
憤慨するヒューイに対して、どうすればいいか匂わせれば、彼は手を叩く。
理解してもらえれば、マージーを抱えたナインはもう二人へと向き直る。
「アリスはここから指揮。スプークは初撃の後はここで備えてて」
「わかりました」
「了解っす……?」
釈然としない様子のスプークをよそに、傍にあるバリスタへとヒューイとナインは足をかける。
それを見守り、引き金を引かされるNPCも相当に緊張しているようだった。
「じゃあ、Rogueしに行こうか、野郎共」
その言葉に隣のバリスタで構えるヒューイと、腹部に抱き着いてるマージーからのサムズアップを見て、ナインは心底楽しそうに哂った。
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「不味い、まずいぞこれ!?」
ちょうどナイン達が突撃体勢に入った頃、ニュー達の居る中央は包囲されつつあった。
その数およそ1500名程。丁度前からだけでなく左右からも攻撃を受け、殲滅されかけている。
しかも、魔法の爆撃を受けながら騎兵に摘み取られていく最悪の状況下に晒されて効率よく戦力を削られていた。
「なんでゴブリンがこんな組織的なんだよぉ!?」
彼も所詮はゴブリンだと慢心して居なければ、こんな結果にはならなかっただろう。
その上彼にとって追い打ちとなる通知が耳に入る。
≪指揮権の委譲が解除されました≫
「……は?」
ある意味で、彼の自信の源であるそれが奪われては、もはや彼もまた磨り潰されるプレイヤーの一人でしかなかった。
「クソッ、クソぉ!?なんだってこんな……こと、に……?」
必死の形相で彼もまたゴブリンに襲われて剣を振る中で、ふと耳に入った風切り音に首を傾げた。
それはゴブリンも同じだったようで、敵味方共に嫌な予感を感じては闘いを止め周囲を見渡していた。
すると――
「上!上だ!逃げろ!!」
誰が叫んだのかもわからない。
双方が上空を指差す者が居て視線を上に向ければ……特大の火球が落ちてくる所だった。
こうなったら敵味方も関係無い。
降り注ぐ火球の着弾地点から這う這うの体で逃げ出せば、爆風に地面へと縫い付けられる。
その様子を遥か後方から眺めて居た二人は、片や呆れ片や満足気であった。
「ん~良い火力っすねぃ」
「……なんで届くの?一キロ近く有りますよね?」
「見ての通り、高い所から放物線で飛ばしたからっすよぅ」
あの火の玉を戦場のド真ん中へと放ったのは、誰でもなくこのスプークだった。
最大火力の火属性魔法を圧縮し、それを城壁の上から全力で飛ばす……ある意味で砲台として有能である事を証明した彼女は誇らしげだ。
「それに、無意味に吹っ飛ばした訳でもないっすよ?」
「……?」
ついでの様に呟いた彼女の言葉にアリスは首を傾げるしかなかった。
『バカぁ!誰が気化爆弾落とせって言ったぁ!あっちい!!』
「あ、焦げてるっすね」
音声チャットで送られてきたナインの言葉に、首を傾げていたアリスは漸く理解が及び頭を抱える事となった。
□
「……あっつつ。マージーさん、大丈夫?」
「ん。髪が、少し焦げた、だけ」
「ナーイーンー。俺の心配はー?」
「よし、皆大丈夫だね」
ところ変わって最前線。 爆心地にはナイン達三人が立っていた。
先程スプークが落とした火球は何も戦場のリセットだけが目的ではなく、風魔法の補助を加えたバリスタによる長距離跳躍の際、着地の衝撃を軽減するためのものでも有った。
ヒューイは風のバリアで、ナインは大きな布をパラシュート代わりにして上手く着地していたが……想定より高い火力に若干炙られてしまっていた。
「ま、それでも良い感じにリセット出来たかな」
「だな」
「……ん」
三人が辺りを見回せば、中央である此処に敵であるゴブリンも味方のプレイヤーも会していたようだ。
そして、皆が一時的に戦意を失っている。
「じゃ、まずは……《号令》総員撤退!」
ナインが高く声を張り上げる。
スキルを含んだ声に、頷いて下がり始めるプレイヤーの速度が向上する。
それを見て、動けなかったり渋っていたプレイヤーも次々とゴブリンから距離を取り始めた。
これも《指揮》や《号令》といったスキルを保険で取っておいた価値が有るというものだ。
「……さ、お楽しみはここからだね」
「おう、暴れてやるか」
「任せて、叩き潰す」
ナインが剣と短剣を、ヒューイが弓を、マージーが斧を構え、笑い合う。
そして三方へと散ってゴブリンへと攻め始めた。
ちょっと忘れそうな各員の戦い方
ナイン→片手剣と盾 or 短剣 or 格闘 or 魔法
アリス→片手剣 or 魔法
ヒューイ→片手剣 or 弓 or 魔法
スプーク→魔法 or 短剣
マージー→斧 or 短剣
片手剣ばっかりに見える不思議!