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27.藁を束にしようとも



 彼らは悲嘆していた。


 兆候は数日も前から確認されてはいたが、実際にそれを脅威だと頭で理解していてもまだ大丈夫だろうという楽観が彼らの判断を鈍らせていた。

 その結果が、この前倒しとなる暴力の来襲。それも戦力として当てにしていた異邦人達の少ない日を狙ったような襲撃である。


 城壁の見張り台の者も呆気にとられ、警鐘を鳴らすのが遅れたがそれは些細な事だろう。

 気付けば古都全体が通夜の様に沈み澱んだ空気に満たされていた。


 それでも、逃げる気力のある者たちは手を取り合って南へと身を寄せ、戦えるものは北へと赴いた。



 古都北部の城壁へと向かった衛兵や騎士達はそれぞれ剣を槍を携え、弓矢を用意し防衛の為の弩砲の覆いを外す。

 着々と防衛の準備を短時間でもなんとか用意し間に合わせようとする彼らが、城壁の外を漸く見る余裕ができると、ひどく落胆する事になる。


 迎え撃つ異邦人達は皆、小さすぎる集団で纏まり、それも所々穴が空いているような頼りない陣形だったからだ。

 そして彼らは、鳴り響く音に酷く怯えてしまっているように見える。


 その音は陽の光を背に森や茂みから姿を現し、向かう先の全てを怯えさせた。

 原始的な太鼓の音、それが何十も重なり合い、また行進する足音と合わさり莫大な威圧感を敵に放つ。



 彼らは悲嘆していた。





「……それで総長、どうするんですかねぃ?」

「ナイン、呑気にしてるがこれ、負けイベじゃねえの?」

「通常パーティが約600、それを四つ纏めたのレイドパーティが15個前後……うん?」

「姉さん……」


 一方、ナイン達はというと城壁の傍まで後退していた。

 そして現在参加している異邦人(プレイヤー)達の大まかな役割(ロール)を頭に叩き込んでいる最中だった。


 その様子を見て、呆れる一行だったが――


「これ、勝てる……?」

「そうだね。ヒューイとマージーさんの戦線維持能力と、スプークの火力支援の腕によるかな?」

「勝つ気かよ……」


 マージーの呟きに答えたナインの言葉に、更に呆れてしまうのだった。


「姉さん、私は……?」

「アリスは、大まかでいいから指揮を頼みたいんだけれども」

「そんな、難しい事は……」

「前進、後退。引き際や攻め時を見て、この二つだけでも出来れば助かるよ」

「あ、それ位なら……」


 小さく手を上げるアリスにも役割を振れば、ナインの手元のウィンドウが皆に見えるように拡がった。

 そのウィンドウを観ようと、小さく更に一行は纏まる。


「じゃあ改めて……さっきの、なんだっけ?彼のお手並み拝見と行こう」

「サドいなぁ」

「総長はサドっすよ」

「なるほど……?」

「そうですかね?」



 すっかり観戦モードとなった一行の中で、ふとヒューイが思い出したようにナインへ問い掛ける。


「……そう言えばよ、なんであいつに指揮権渡したんだ?それ位ならお前が総隊の指揮取ればよかったじゃないの」

「ああ、ソレ?だってああいうの出てくると思ったから、面倒でしょ。で、そういう奴を黙らせるには痛い目見てもらうのが早いから」

「えっげつねぇ……」





「……ねえスプーク」

「どうしたっすか、総長」

「……50口径(キャリバー)作れない?」

「唐突っすねぃ……」


 クエストのカウントがゼロになって、異邦人とゴブリンが衝突して数分。

 徐々に双方が様子見しつつ数を減らして行くのを眺めながらナインは絞り出す様に呟いた。


「有っても精々マスケットぐらいじゃないっすかねぃ?」

「せめて単発の大口径は欲しいな……?」

「マージーさん、後でお話しましょー」


 などと会話している間にも、徐々に異邦人の側が押され始め劣勢に転じ始めた。


 ナイン達が構えている付近がこのイベント中の復活場所らしい。

 死に戻りする異邦人(プレイヤー)が穴を埋めようとするが、どうも全体を見ることが出来ず……自分を倒した相手に固執し、死に戻るという事を繰り返す者も居る始末だ。

 ざっと見た所、街道上の右翼はゴブリンメイジの魔法の的になっているようで、左翼は何やら狼や猪に乗った騎兵隊の様なゴブリンライダーの狩場となっているようだ。

 その点、中央は持ち堪えているようだが……おそらくは、臨時指揮官(ニュー)が自分の安全の為に強いプレイヤーで固めているのだろう。


 そんな事をすれば……押された両翼に置いて行かれ、包囲殲滅されるのは目に見えている。



「……アリス、そろそろかな」

「もうですか?」

「もう、分水嶺だよ」


 おそらくはもって十分強。過ぎてしまえば中央が圧殺され、古都を守る為の硬い盾が砕け散る事となる。

 故に、ここが勝敗の分岐点を決めるタイムリミットだ。


「どうするかは、アリスが決めていい。私に全部任せるか、私を駒として使うか、ニュー(アレ)に続けさせるか」

「……」

「五分で決めて」


 受け取り方によっては、突き放すような冷たい言葉でアリスへとナインは回答を迫る。

 その言葉に、俯く彼女を放っておいてインベントリから幾つかのアイテムを取り出し、何かの準備を始めた。


 そしてアリスが答えを出した(顔を上げた)のは、ナインが準備を終えた数秒後だった。



「姉さん、力を貸してください」

「OK、頼まれたよ」


 自分(ナイン)に全て任せる様な回答では無い事に、満面の笑みを浮かべては三人へと振り返る。

 各々が緊張など何処かへ捨てたような表情に安心しては、言葉を紡ぐ。


「さ、これからとてもキツいだろうよ。でもこういうイベントなのだから、勝ちたいよね。だから勝とう」

「……ん」

「っはっはは、簡単に言いやがるじゃないの」

「やっぱ総長は総長っすねぃ」


 三者三様の言葉と共に頷いてくれたのを確認して、改めてナインはアリスへと提案する。


「アリス、まずは立て直す時間が必要だよ。だから三人で突っ込んで掻き乱してくる」

「判りました、とりあえず……ニューさんから姉さんに臨時の指揮権限は移しますね」

「総長ーうちはー?」

「さっきも言ったけれど火力支援。あと、開幕に大きな花火を頼みたいけれど」

「おっけぃっす」


「ヒューイ、マージーさん。とりあえず死に戻るまでの撃破数(キルレ)500をめざそっか」

「っはぁ!?」

「わかった」

「勿論私も突っ込むから、競争しよう?」

「じゃ、昼に弁当一週間!」

「……後で、考える」

「なーんで私が負けた場合のだけなのかな??」


 アリスとスプーク、そしてヒューイとマージーと笑い合いながら、各々の方針が一気に決まる。

 それ故に、前線へ向かおうとした全員をナインは止めた。



「何処行くの、私達はこっち」


 そういうナインは、戦場とは真逆の城壁を上る階段を指差して示した。




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