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26.迫り来る津波の大きさに

いい区切りが思いつかず、2話分をまとめたので長め(当社比)となっております。そしてこの先、調整や表現に悩む事が多いと思いますので、更新が大幅に遅れると思われます。


また、4件の誤字報告ありがとうございます。手動にて訂正させていただきました。


1/27 脱字訂正。



 太陽が傾き地平線へと向かう昼下がり。

 まだ温かさを残す街の空気は、ひんやりと冷気を帯びたように感じる程に静かな喧騒が支配していた。


 大通りを行き交うのは住人では無く騎士や衛兵。

 移動する馬車も商人の物は南へと逃げ、北へは剣や矢を満載したものが城壁へと向かっている。



「やだな、一瞬で戦時下みたいだ」

「……」


 そんな中でナインはと言えば、マージーを連れて古都の北門へと向かっていた。

 なぜ彼女が付いてきたのか、心当たりが無いままになってはいるが……敵ではないのだから良いだろうと思っている。


 しばらく喧噪に流されるように歩いていれば、少しづつ見知った顔と合流出来た。


「姉さん、此処に居ましたか」

「いたいた、見つけたっすよ」

「アリス、スプーク。探させた?」

「そうでもないっすよぃ?」

「早く合流したかっただけです。と、そちらは……?」

「マージー」

「って言って、鍛冶の生産職の人。連れて行ってと言われたから、連れてきた」

「なるほど?姉さん共々、よろしくお願いしますね?」

「ん」


 合流し並んで歩く二人を列に加えれば、お互いに簡単な挨拶を終えれば、じっとりとした視線をアリスに向けられる。

 特に疚しい事をした覚えも、実行した事もない故に苦笑を返すしかない。


「ヒューイは……もう待機場所に着いてるって」

「相変わらず早いですね……」

「お祭り大好きって感じですねぃ」


 もう一人の顔見知りもとナインが思っていたら、パーティ通知と共に現地で待っているとの連絡が送られてきた。

 そのついでに、アリスとスプークもパーティに加入して貰って置く。


 そして知らぬ名を聞いて首を傾げ、裾を引くマージーには「悪友」と教えておく。間違ってはいない筈だ。



「でも、姉さんも装備が揃ったようで良かったです」

「ああ……防具はあのままのつもりだったんだけれど、マージーさんが用意してくれて。ね?」

「……ん」

「総長のイメージに近づいてきてるっすねぃ」


 古都の北門へと差し掛かろうと言うあたりで、ふとアリスに今の防具についての話を振られた。

 なのでお礼を重ねるのもかねてそう告げれば、自慢げにマージーがサムズアップしてくる。


 話題を振ったアリス自身も、月曜日とは違い白と銀を主体に青のアクセントが入った軽装鎧で身を固めていた。

 スプークの方はと言えば、魔女らしい鍔の広い三角帽子に……ローブなどでは無く動きやすそうな軽装を黒く纏めている。


 そして彼女の言葉に、『FwF』での自分のアバターに着せていた装備を思い出し、苦笑が浮かぶ。


「とは言っても、こっちでジャケットにベストは世界観に合わないでしょ」

「え?ベータの時、タキシードや世紀末な悪党もいましたよぅ?」

「うんうん、あと殆ど全裸なんかも……」

「どーなってるのこのゲーム……」


 まさか違う意味でファンタジーを走り回る世紀末な服装や、色々と危ない装備が有るなどと聞きたくはなかった。





 古都の北門を潜り城壁の外側へと出ると、目の前に広がる平野の一部……北北西の方角に木々の緑では無い新たな緑が視認出来た。

 それは蠢きひしめく緑色、ゴブリンであった。


 対するは異邦人(プレイヤー)の集団と、数少ないNPCの戦力……。

 プレイヤーの平均よりも練度や実力に勝ってはいるがゴブリンの来襲が突然過ぎた為に、また平時であるために治安維持に適した軍備しかされていなかったようだ。


 そして緑の集団が古都からおよそ二キロ程の所まで雑然と大地を揺らしながら行進してくる。

 集まったプレイヤー達は、クエストのカウントがゼロになると戦闘が始まるのかと慌てふためくが、そうではなかった。


 発行されたワールドクエストに表示されたカウントがゼロになると、新たなアナウンスが聞こえた。



《ワールドクエストの参加募集を完了致します》


《異邦人参加人数……3691名》


《パーティの編成、割り当て……完了》


《部隊の編成……完了》


《役職の申請……開始》



 軽装の傭兵のような出で立ちのヒューイと合流した所で、一旦アナウンスが止むと様々な所で声が上がったことから……おそらく部隊長などが選ばれているのだろう。

 アナウンスの内容などを踏まえると……これは戦争だ。そう確信する。


 などと思って居れば、ナインの目の前に『総隊司令官への申請 《Yes / No》』という表示が目の前に見える。

 数秒考えた後、『No』をタッチして断ると隣にいたアリスが驚いた様子で何かウィンドウを操作し始めた。


「姉さん!?」

「なぁに、どうしたのアリス」

「総隊司令官の、断りましたね!?」

「うん」

「うん、じゃないですよ!なぜ!?」

「なぜ?面倒そうだから」

「だとしても!姉さんの方が――」

「ほら、お客さんがおいでだよ」


 ウィンドウの操作が終わったアリスが憤慨しながら詰め寄るのをヒューイが腹を抱え笑う中、ナインが指差した方から数名のプレイヤーがこちらに向かってきていた。



 まだRPG初心者とも言えるナインの目にも、現状で最善を目指したと判る装備を身に纏った一行。

 その割には足取りに統制は取れていない……だが連携するのに慣れていると、足の運び方を見てそう印象を受けた。


 そしてリーダーらしき青年が前に出て、アリスへと一礼して話しかける。


「やあ、アリスさん」

「どうも、ニューさん」


「あれは?」

「トッププレイヤーのパーティで《旋風》ですねぃ」


 傍らで一行を片目に装備やアイテムの点検を行いつつ、スプークへと尋ねれば彼らはトッププレイヤーらしい。

 その割には……装備だけは立派、という印象を受けるが――


「あ、一応腕もそこそこ見たいですけどぉ、お察しの通り上の下ってヤツですよぅ」

「……値切り、鬱陶しい」


 彼女の一言に補遺するマージーの言葉につい苦笑を漏らしながら、少しでも慰めになればとナインは小さな頭をぽふりと撫でる。

 などと気を取られていると視線を向けられるのを感じて、アリスとニューの方へと向き直った。


「それで、そこのお姉さんが司令官を蹴ったと」

「ええ、それで私に」

「懸命だと思いますよ?ズブの素人に任せては勝てるものも……」

「じゃあ、貴方達なら勝てると?」

「無論」


 話を聞いていれば首を傾げさせられる。


 こいつらは戦力差を判っているのだろうかと。

 ざっと見ただけでも判る双方の士気の違いを理解しているのかと。


 呆れながらもナインはアリスの方を向き、肩を竦めて見せる。


「アリス、そこまで彼が言うなら一時的に任せて見ればいいよ」

「え?あ……判りました」

「一時的?なぜそんな事を……」

「分水嶺までトッププレイヤーさんのお手並み、拝見させて貰いましょう」

「お前……何様のつもりだ?」


 こんな奴が総指揮を握る位なら、いっそ蹴らず自分が受けていればと後悔しながらアリスに一時の指揮権の委譲を提案する。

 それにニューが憤慨して見せるも、恐れを感じる事も無くむしろ滑稽なものに見えてナインは嗤った。


「言葉通りですよ、Newbie(ニューさん)

「きっさまァ……!?」

「ほら、地を出す暇が有ったら戦力把握を済ませたらどうです?」

「く……覚えてろ!」


 煽るように口の端の片方を吊り上げた笑みに憤る彼に対して、更に煽りながらも最低限の事をして貰おうとクエストのウィンドウを指差す。

 既に開始時刻は十数分後に迫っており、三千を超えるプレイヤーの大まかな把握をするにはギリギリだろう。


 その様子さえも、千を超える数同士の闘いを理解していないと見える。

 慌て仲間と打ち合わせ始める彼らを置いて、ナイン達は城壁の傍へと下がった。


 一応、アリスが総隊司令官であるので安全の確保の為だ。



「にしても、ナインに噛みつくには小物過ぎたな、アイツ」

「そうっすねぃ。というか今のうちに後ろ弾しておきましょー?」

「するまでも無いよ。まあ目立ちたがりの代償は払って貰うけれど」

「代償……?」

「にぃ、姉さん……?」

「ま、後のお楽しみだね」


 前方で異邦人(プレイヤー)が合戦の準備をし、背後の城壁の上ではNPCが防衛の準備を固めて居る中、ナインやアリスの周りだけは柔らかい空気が漂っていた。

 そしてそこへ、ナインだけは見覚えの有る白いネームの騎士(NPC)が走り寄ってくる。


「失礼します。異邦人の方のまとめ役はこちらですか?」

「ああ、はい。私ですけれど……今はあそこにいる彼が実権を」

「そうでしたか、防衛隊の割り当てをどうするか相談したかったのですが……」


 息をきらせて辿り着いた彼がニュー達の方を見るが、余裕なく怒声を飛ばしてる様子に困り果てていた。

 なので、ありがたく口を挟ませて貰う事にする。



「駐留してるのも含めて、異邦人じゃない騎士や衛兵は城壁の防衛、及び古都内部の見回りで。ゴルトさん」

「え、あ、嬢ちゃん!?」

「お久しぶりです。後、冒険者については、出来れば住民の保護などを第一にお願いしておいてくれますか?」

「俺たちは良いのか?君たちが矢面に立つことになるが……」

「私達異邦人は死にませんから。負けるとしても出来るだけアレを削りますよ」


 正直言うと彼らNPCは一度死んでしまえばそれで終わりだ。

 となれば、リスポーン出来る(死なない)プレイヤーがまず戦うべきであるのは当然とも言える。


 それと同じく、街を守るため鍛錬を積んだ彼らや戦闘を生業としている冒険者は打って出たくはなると思うが、万一の為……そしてもう一つの理由の為に最後方の防衛線を頼みたいのがナインの本音だ。

 私の考えに皆異論はないらしく、顔を巡らせれば各々が頷いてくれる。


「そういう事なので、最後の砦となってください。ゴルトさん」

「……おう。任せたぞ、嬢ちゃん達」


 頭を下げ、踵を返す彼を見送りながら、ナインは仲間達へと振り返る。


「で、勝算がゴミの様に打ち捨てられてるこの状況で、負けられない訳だけど」

「流石のお前でも無理じゃないの?」

「ですよね、姉さん……?」

「無理ゲーっすねぃ」

「……」

「はは、そうだよね。うん」


 喜劇の様に肩を竦めてふざければ、同意しつつも何かを願うような視線を皆から感じる。

 ならばナインは、期待に応えなければならないだろう。


 深く、深く息を吸って、戦場の空気を身体に取り入れる。

 平時の頭を、戦時の頭へと切り替える。



「じゃああの野郎(ニュー)が分水嶺を超える手前まで、高みの見物と行こうか」


 普段の柔和な笑みを、獰猛な笑みに塗り替え変貌した目付きを見せたナインは、虚を突かれた仲間達へと笑いかけた。




ニュー達は中堅組も軽く下せる程度には強いんです。

ただ性格がアレなのと、もっと上には上が居るだけで……。

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