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25/63

25.潮が引いていき凪いだ後は

3/8 誤字修正。



 水中に浮かぶ泡が浮かぶ途中で弾けてしまうように、休息に意識が目覚めた。

 人肌を籠らせて温かい布団の中で身体を伸ばせば、ふと暗すぎる室内の中で枕元の時計を見やる。


 午前5時。

 普段のルーチンよりも早い時間に起きた陽臣は、落ち着かない様子で着替えては頭を掻きながら洗面所へと向かった。


 今日は父母共に出勤しているようで、新聞を取りに玄関へ向かうと昼に一度戻ると書置きが残されていた。

 それから、落ち着かない身体をソファに放り投げコーヒーを啜っていると、愛梨の部屋から物音が聞こえ始めた。



「あ……兄さん、起きていたんですね」

「おはよう、愛梨」

「おはようです」


 軽い足跡の主が姿を現せば陽臣も立ち上がり、キッチンへと向かう。

 今日は……軽いもので済ませたい。しかしちょっと味の濃いものが食べたい所だ。

 そう思って冷蔵庫を見れば、使いかけのスライスチーズが目に留まったのでこれを使う事にする。


「卵、どう焼いたのが食べたい?」

「……そうですね、スクランブルエッグをお願いしても?」

「わかった」


 オーダーが入ったのでメニューは決まった。


 手早く冷蔵庫からチーズとケチャップ、卵と牛乳を取り出しては愛梨の分の食パンをトースターへと入れる。

 自分の分の食パンにケチャップを塗り、チーズをのせてこちらもトースターへ放り込んでは加熱を開始させた。


 続いて卵を割り、溶き、塩胡椒を振って味を調えたら牛乳を加え、油を引いたフライパンへと溶き卵を落していく。

 弱火で火を通しながら、箸で返す様に何度もかき混ぜて行けば……ふわふわと柔らかく仕上がったそれを皿に盛りつける。

 丁度合わせて焼き上がったパンも載せれば、朝食の完成だ。


「ほい、出来たよ」

「ありがとうございます」



 キッチンからリビングに戻って二人で朝食を取り始める。

 特に変わりのない日常のようで、気を抜いてピザトーストを齧っていると、ふと愛梨が何気ない口調で陽臣をからかった。


「兄さん、緊張していますよね?」

「そう見えるのかい?」

「ええ、少しピリピリしているように」

「駄目だなぁ……こうもわかりやすいと」

「……他の人では気付きづらいでしょうけれど」


 はてと小首を傾げられながらの言葉に、妹へ可愛らしいと思いながらもまだまだ感情のコントロールが出来ていない事に溜息が出る。

 しかし、妹だからわかる事と言われれば、まんざらでもない。


 苦笑を交えながら、穏やかな朝食の時間を二人で過ごしていった。





 朝食の片づけが終わりゲーム内、古都の一角でナインは建物の壁に背を預けていた。


 朝の街角では、それぞれの住居から炊事の煙と香ばしい匂いが立ち上り、所によっては子供が駆けている。

 そんなほのぼのとした光景を眺めていれば、ふと視界の外から服の裾をつつかれる。


「……」

「ああ、マージーさん」

「ん、お待たせ」


 昨日と変わらないよく感情の判らない表情の彼女の方へと向き直れば、さっそくウィンドウがナインの元に流される。

 しかしその品目の幾つかが多い事に首を傾げてしまう。


「サーベルに盾、それにナイフと……あれ?防具?」

「素材、余ってたから、ついでに。貴女の装備、店のだから」

「ああ……なるほど」


 ウィンドウには注文した剣と盾、それに短剣の他に胸当てや籠手などの防具も含まれていた。

 なので聞いてみれば、NPCの店買い防具そ装備する位ならと、作ってくれたらしい。


「ありがとうございます、マージーさん」

「ん、こっちが防具の方の≪契約≫」


 その言葉と共に送られたウィンドウに、おかしい内容が無い事を確認して了承を押し……一式と残った素材を返却して貰う。

 特に欲しいアイテムは無かったそうで、交渉などすることなくあっさりと取引は終わった。



「じゃ、早速装備させて貰いますね……?」

「ん」


 彼女に確認を取ってから、渡された鈍色の装備を身に纏っていく。


 確かに昨日話していた通り、重量はそこそこあるものの動きが阻害されるわけではない。

 可動域にはしっかりと革を当て、守る場所には打ち直された古鉄のパーツが身体を守ってくれている。


 ナイフも注文通りの形と重さで、サーベルの方も重心が先端寄りで振りやすく、良い物を作ってくれたと思う。

 ただ個人的に、左手に持つ盾が少々大きさに比べて重いのが辛い所ではある。


「うん、良い具合だと思います」

「いいかんじ?」

「ええ、握りも重心加減も。結構好みです」

「……良かった」


 満足そうに頷くマージーに笑みを返せば、ふと聞き慣れた音では無いアナウンス音が耳に伝わってきた。


――ぴぴっぴぴっ



≪ワールドクエストが発生しました≫


+--------------------------------+


ワールドクエスト ゴブリンの大攻勢


発行者:なし

内容:無数のゴブリンが古都へと攻め入ろうとしている。

   異邦人はこれと立ち向かい撃退せよ!

条件:なし


達成条件:敵性モンスター過半数の討伐、及び無力化


失敗条件:古都城壁の陥落


報酬:1万シルブ

   5スキルポイント

   称号≪????≫


討伐数や与ダメージなどの様々な活躍をしたプレイヤーには特別報酬が別途支払われる。


クエスト開始まで 00:59:45



+--------------------------------+



「わーお、お昼前に始まっちゃうのか……」

「……これが、ナインさんの言っていた?」

「そう、本当は明日明後日……現実の夕方か夜の筈だったんだけど」

「ちなみに、それは、どこで……?」

「冒険者組合」

「無能、ですね」

「そりゃ酷いよ、マージーさん」


 目の前に開いたウィンドウに、二人で顔を見合わせては苦笑しながら内容を確認する。

 大体は事前に仕入れていた情報とは同じだが……敵の数や王と呼ばれる個体の事が記載されていないことが気になる。


 とはいえ、残り1時間で侵攻が始まるのであれば、急いで前準備を整えなくてはならない。

 故に、別れの挨拶をして野暮用を済ませようとしたナインの服の裾がまた引っ張られた。


「……ん?」

「ナインさん」

「どうしました?」

「連れて行ってください」

「……誰を?」

「私を」

「それは――」

「連れて行ってください」

「……ハイ」


 しっかりと掴まれた裾だけでは無く、籠手をしていた手首までがっちりと握られては振り解けそうもない。

 一体自分より小さな彼女とどれだけSTRに差があるのか……冷や汗を垂らしながら、押し問答になりそうなのでナインは彼女を連れていく事にした。




マージーが 仲間になりたそうに こちらを見詰めている!

>はい

 イエス


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