24.さざ波に消えた波紋
ハハッ、12時に予約投稿してると思ったら寝落ちてました。スミマセン……
1/26 タイトルミス修正。
「と、言う訳で。昨日メールした通り、明日に大規模戦闘が起こると思うので各自調整をしておきたいかな」
金曜日の夜。アリスおすすめの喫茶店にてナイン、アリス、スプーク、ヒューイの四人が同じ卓を囲んでいた。
そして顔ぶれが揃い注文が終るや否や、ナインが本題を切り出す。
「調整っていってもよ、ナイン。やる事と言ったら装備の準備位なんじゃねえの?」
「ですよねぃ……どっかから私兵でも引っ張って来れませんしぃ」
「私兵って……」
「ま、そうなんだけれどね」
当たり前の様に正論を返されて、ナインは肩を竦めて苦笑するしかない。
実際にこの四人で万にも届く敵を一掃できる訳でもない。
「その装備のことで、私は間に合いそうだけれど皆は?」
「私はベータからお付き合いのある方に頼みましたので」
「俺も大丈夫だぜ」
「んー思い残しはないっすねぃ」
「じゃあ後はレベルは……私まだカンストしてないんだ」
「カンスト済みです」
「後少しってところですねぃ」
「とっくにカンストだなぁ」
装備の問題は、本実装開始組のナインでも実はどうにかなったのだ。
あの木工生産職のルークに尋ねてみれば、鍛冶をやっているプレイヤーを紹介して貰えた為にナインは剣や盾の工面が可能になっていた。
装備が大丈夫なら、後はレベルと思ったが自分以外の三人は問題なかったようだ。
このゲーム、現在はレベルキャップが30に設定されている為、せめてそこまで上げておきたい所だが……今日中にはカンスト出来るだろうと踏んでいる。
「あとは……戦力の差、だよね」
「戦力差ぁ?どれ位になんの」
「確か……休日の同時接続者数は4~5000人ぐらいでしたよね」
「そう、二倍『も』有る」
「総長?流石にプレイヤーとモンスターの、PvEっすよ?」
「スプーク。旧式銃で武装した準軍事組織に、装備だけは最新の民兵が勝てると思う?」
「ぁー……無理っすね」
「どういうこった?」
「5000人参加したと仮定して、その全員がカンストしてる訳でもないでしょ?なら……」
「戦力としてみると更に弱く見積もる必要があり連携も微妙、しかし相手は統率が取れている……」
「うっわ、劣勢じゃないの」
「救いは、プレイヤーならリスポンできる事かな?」
ナインが問題視しているのは数の差だけではなく質の差でもある。
少なからず人の居住地を襲おうとしているなら、ゴブリン達は最低限の訓練を積んでいるだろう。
逆に迎え撃つプレイヤーはパーティ単位での戦闘は出来ても、大人数での統率など取れようもない。
一応リスポーンが可能であるものの、デスペナルティや復帰時間等を考慮すれば怪しい所でもある。
「流石に注意喚起するしかないよなぁ、ナインはもうしたんだろ?」
「掲示板でね。ただ皆のノリは悪いかな」
「私もしては見たのですけれど……」
「そもそも、生産職の方がやる気持て余してるんですよねぃ」
ここにいる四人も、掲示板や伝手でこの事実を広めようとはしているが、結果は芳しくない。
心配する事はないと楽観する者や、そもそもそんなイベント自体が起こらないだろうという者まで居る。
しかし生産職のプレイヤーたちは別のようで、古都が襲撃を受ければ流通するアイテムにも影響が出ると踏んでいるらしい。
それ故に、回復アイテムや装備について色々と彼らは工面してくれている。
「じゃあ、もうなるようにしかならない、か」
ナインが絞り出す様に呟けば、溜息が場を支配した。
□
「やあナイン、また会えて嬉しいよ」
「ルーク。今回は無理を言って済まない」
「いいさいいさ、君が素材を卸してくれて助かってるんだ」
「そう、なら良いのだけれども」
あの後、ナインは喫茶店で軽い雑談と共に紅茶を楽しみ、別行動となってから古都の一角でルークと待ち合わせをしていた。
すると数日前と変わらない出で立ちの彼の隣に、小柄で耳や尻尾が可愛らしいが表情の乏しさで若干寂しさも感じる少女が居る。
「それでこの子が……?」
「ああ、鍛冶師のマージーだ」
「……」
ぺこりと紹介された《Margie》が頭を下げた。
ざっと装備を見れば、要所を金属系の胸当て等を当てた革装備を身に纏い、背には両手斧を背負っている。
重戦士タイプ。そう思える風体の彼女にナインは頭を下げる。
「今回はよろしくお願いします、マージーさん」
「ん」
頷いてくれる事に安心しつつも、コミュニケーションが取り辛いななどと考えつつ……ナインはウィンドウを開き彼女へと流す。
「今回は剣と盾、それとナイフを数振りお願いしたくて……」
「……古鉄?」
「ワーズ墓所で手に入ったので、これで作れないか、と」
「重くなるよ……?」
「……STR50位じゃ無理です?」
「なら大丈夫」
以前ワーズ墓所で手に入れたボスドロップの古鉄と、北の森で幾つか拾えた鉄鉱石。
また柄などにも使うだろうと、幾つかの木材やビッグトレントの素材もナインは提示した。
そのリストを見て、マージーはいくつか質問を始める。
「剣は?」
「サーベルで」
「盾は?」
「小型で頑丈なものを」
「短剣は?」
「刃渡り30cmまで、1kg以内でお願いします」
「ん、わかった」
途中、要求するナイフが鉈かよ、などとルークがボヤいていたが気にしない。
大体の擦り合わせが終れば、彼女が粘土のようなものを渡してきたので、握りやすい形で跡を付けて返せば一通りの注文は終わった。
「じゃ、《契約》」
「そんなスキルが?」
「互いの条件と報酬を決めて作る誓約書みたいなモンだよ。利用者生産者両方の不正を防ぐシステムになるな」
「へえ……」
実際にこういった対人関係ではトラブルが多かったのだろう。
未然にそれらを防止する為に、良いシステムだとは思う。『FwF』でも欲しかったものだ。
そしてマージーから流されたウィンドウを見て……ナインは頷き、了承のボタンを押した。
「完成は明日の朝、引き渡しはそれ以降。余った素材は買い取りと返却で交渉……と」
「ん」
「任せますね、マージーさん」
「任された」
取引が完了し、インベントリにあった無数の素材を受け渡すと……小さくサムズアップしてくれる彼女に、ナインは笑みを誘われた。