表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/63

19.ビッグトレント戦

3/2 誤字修正。



 エリアボスへと挑もうとする三人を出迎えたのは、森が途切れた小さな広場のような空間の中心に、一本だけぽつんと立つ大木だった。


 その大木へと歩み寄れば森から出た途端、背後が蔦で塞がれてしまう。

 同時に葉が、枝が、幹が震えはじめたかと思えば、丁度人の背程の顔が浮かび上がるように目と口に見える(うろ)が現れた。


「姉さん、スプーク。準備はいい?」

「もちのロン」

Okey(O)dokey(K)!!」


 戦闘開始だ。



 速攻、とばかりにナインがビッグトレントへと駆けて斬り付ける。それに合わせスプークが魔法の詠唱を始め、アリスはカバー出来る位置で詠唱の短い魔法を準備する。


「まずは……ッ」


 ヘイトを集めやすくなる《デュエリング》と《注目》のスキルを有効にしたまま、袈裟斬りを繰り出しては返す刀で片手剣を横薙ぎに振る。

 恐らく微々たるダメージだったとは思うが、ワーズ墓所のボスとは違い樹皮を削る感触に手ごたえを感じる。

 が――


「わ、わっ……と」


 洞が此方を見ているような感覚の次にナインを襲ったのは下方からの気配。

 横っ飛びに躱せば一瞬の後、居た場所に地面を割って鋭く尖った根が幾本も突き出された。


 続く気配は真横、次いで頭上。

 着地する事を諦め地面へと滑り込む事で鞭の様にしなる枝による横薙ぎを空振らせ、真上からの叩きつけは転がる事で回避する。


 三連撃を躱し少し距離を取った所で、背後から氷の矢が飛びビッグトレントへと突き刺さる。


「姉さん、大丈夫です?」

「ちょっと殺意高くない、あの縄跳び」

「……大丈夫ですね」


 援護してくれたアリスに振り向かないまま後ろ手を振れば、背に呆れた声が投げかけられる。


 嗚呼。懐かしい感覚だ。

 などと一瞬だけ感傷に浸ってしまいながら、再び大木へと斬り込む。



 今度は出来るだけ距離を詰め続け、離脱するのは魔法での攻撃の時だけ。

 そう何度か斬りつけては振るわれる枝や刺突する根を避け、弾き、時に斬り返す。


 合間に氷の矢や石の礫を挟んで十数合。

 集中しているナインの耳に後方からの叫びが聞こえる。


「総長ッ!カウント10!」

「カウント10、わかった(Roger)


 声に背後へも気を回せば、昼に差し掛かり降り注ぐ陽よりも明るい後方に気付き、ぴったり10秒後にビッグトレントの傍から離脱する。

 離れるナインの代わりの様に、大きな火球が大木へと叩き付けられれば盛大な音を立てると共に、恨めしい悲鳴が聞こえてくる。


「……あちち」

「姉さん!?」

「あっぶなァ……」


 スプークが炎の系統を使う事は予想出来ていたが、ここまでの火力だとは思わなかったナインは若干背中を焦げさせていた。

 慌ててアリスが回復魔法を使うのを見ながら、視線はキャンプファイヤーの様な火柱に包まれるボスへと注いでいた。


「ありがと、アリス。……あれ、もう終わりだなんて……言わないよね?」

「どういたしまして。でしょう、姉さんと削った分で二割ぐらいでしょうか」

「雑魚の方なら、終わってたと思いますけれどねぃ……」

「……散開ッ!」


 三者三様に燃えている様子を眺めていれば、嫌な予感から皆を散らせれば火のついた葉が飛ばされる。

 ナインとアリスは横に避け、スプークは射程外へと退避する。


 その後すぐに火が収まり、枝の一部を炭化させただけで深手を負っているようには見えないビッグトレントの姿が露わになる。


「確かに、まだまだ始まったばかり見たいだね」


 呆気ない終わりなど認めないと、頷くナインが再び斬りつけに向かう。





 ボスのHPを二割ほど削り取った一連の流れをもう一度行った後、これで三度目だと斬り込もうとナインが駆けた。


「姉さん!」

「総長!」

「「種がくる」っす」


 その直後に叫ぶ二人の声に、ビッグトレントを見やれば……洞がこちらを向いている。

 真正面から危ない気配を感じるも、既に彼我距離が五メートル程まで距離を詰めてしまっていた。


 洞から種が発射されるのを目にしながら、ゆっくりと引き伸ばされて感じる時間の中で回避は不可能だと判断が出来る。

 それならば、と左手を振り上げて射線上に盾を斜に挟み込む。同時に頭を屈め盾で隠し、腹部は剣と右手でカバーした。


――ガインッ


 直後に左腕への衝撃が伝わり、左に逸れた種が地面を抉るのが見えた。

 しかし勢いのまま攻撃とは出来ず、殺された勢いで突っ込む事を諦めて一度離脱する。



「っつう。意外と重いね」


 若干痺れた感触が残る左腕の具合を確かめながら、視界の片隅にある自分のHPゲージが数割持っていかれている事に苦笑が漏れる。

 アリスはまだしも、スプークが当たっては危険だ。


「アリス、牽制はいいから回復とスプークのカバーを」

「え、あ。っはい!」


 再度剣を振りかぶりながら、後ろのアリスへと頼みつつ突っ込む。

 すると再び種が撃ち出されるが、躱しても問題ないモノだったのでサイドステップで避け、斬りかかる。


 接近した状態でも洞から種が来ることは有ったが、その時は基本アリスやスプーク狙いだったので……幹を蹴り飛ばす事で狙いを外させる。

 数度それを繰り返して居れば――


「お待たせですよぅ!」


 待ちかねた言葉に飛び退けば、爆炎が大木を包み込んだ。





 現状、戦闘は有利に進められていた。しかしあっさりと勝利を収めさせてくれるのならエリアボスではないだろう。

 都合三度ボスのHPを二割削る行動を重ねた後、残りのHPが1/3ほどまで削っていた頃だろうか。

 案の定、ビッグトレントの行動パターンが変化した。


「ん」


 幾度と繰り返された足元からの根による刺突。

 連続でも数度だったそれが、いつまでもナインを追いかけるように絶え間なく突き上げ続けてきた。


 貫かんと襲い掛かる根に鬱陶しさを感じ、回避の動作に織り交ぜて剣を振れば……簡単に切断することが出来た。

 しかし根を斬り続ける途中、途端に視界がブレたような感覚に襲われる。それだけでは無く身体の反応も若干鈍い。


「……ああ、毒、か」


 おそらく麻痺毒、その類のものが散布されたのだろう。

 回復薬を飲む暇が無い程のボスの攻撃を捌いていれば、背中に何か飛来する物の気配。

 それを避けるのではなく、自ら当たりに行けば――


――ぱりん


 容器が砕ける音と共に倦怠感にも似た痺れが薄れていく。

 背後にちらと首を巡らせれば、襲い掛かる根をアリスに任せつつサムズアップするスプークの姿が目に入る。


 その様子に、小さな笑みを浮かべほんの少し手を振っては、後衛にも攻撃が回っている事態に舌を打つ。

 早く怯ませるなどして、攻撃を止めさせなければ二人が安心できないだろう。

 そう思い、若干の焦りを握りながら振られる蔦や枝を、飛び出す根を負けじと斬り飛ばして居れば……チャンスが訪れた。



「っそこォ!」


 至近距離で戦うナインでは無く二人の方へ向いた洞が、若干縮んだと思った瞬間……思い切り蹴りを口と思しき箇所へと叩き込み、発射前のエネルギーをそのまま暴発させることを狙った。

 その試みは正しかったようで、すぐにボフッとくぐもった音が聞こえたかと思えばビッグトレントの攻撃が止んだ。


「二人は大丈夫!?」

「な、なんとか……」

「死んでまぁーすぅ」


 気絶しているのか、しばらくは時間が稼げたことに安堵しポーションを呷りながら背後へ振り向いて声をかける。

 すると、ラッシュが辛かったのか飛び出たままの根にもたれかかるアリスと、器用に手足の隙間を根で縫われているスプークの姿が目に入る。

「じゃ、トドメ刺しちゃおうか」

「賛成、です……」

「うーい」


 つい笑ってしまいながら、二人へ助力を願いつつ大木を斬り付ける。

 動き始める様子は無いから、気兼ねなく三人で攻撃していけば……


――ぴろぴろぴろん


 連続する通知音を背景に、大木の根元が崩れ横倒しとなっていった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もし気に入って貰えたようでしたらブックマーク評価感想を頂けると励みになります。

小説家になろう 勝手にランキング

小説家になろうSNSシェアツール
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ