18.エリアボスに向けて
ちょっと短めさっぱりと
北の森手前の鬱蒼とした森の奥、木々が屋根の様に巡らせて隠す空が見える場所に、小さな小さな人工物が設置されていた。
三角形のそれが朝日に照らされ始めた頃、一つの面の一部が開くと、ナイン、アリス、そしてスプークの三人が姿を現す。
通常、ゲームからのログアウトには街中や安全地帯などのセーフティエリアでなければ行えない。
しかしこのアイテムを使えば、簡易的なセーフティエリアを限定的ではあるが生成してログアウトすることが出来る。
しかも使い方によっては体力などのリソース回復にも使える為、初心者には高価だが中級者には便利なアイテムだったのだ。
「ん、丁度良い具合に朝だね」
「そうですね、面倒を避けられて何よりです」
「でっすねぃ」
北の森へと向かう為に、倒さねばならないエリアボスの手前。そこで目いっぱい終えた三人は夕食や入浴、リラックスの為に一度ログインしていたという訳だ。
テントの前に残っていた焚き火の後を軽く掻き回したナインは、灰の中から燃え残りを見つけては小さな熱源を作りながら火に当たる。
その種火にアリスが近くに落ちていた枝を折り、スプークが消費の極少ない魔法で乾燥させて放り込めば一行が囲める程度の火になった。
「さてと、最終確認といこう」
「はい」
「はいさー」
視界の悪い森の中の僅かな広場に元気のいい声がこだました。
「私はレベル24、二人は?」
「25になりました」
「うちも24でぇす」
「大体5レベ差まで詰めれたから、何とかなるかな」
「でしょおねぃ」
「ですね」
自信に溢れた言葉が返ってくることが頼もしいとも思うが、それが命取りにならなければとも思う。
そんな内心とは別に手ごろな枝で露出した土に木の絵をナインが描き始めれば――
「随分可愛らしい絵っすね」
「うるさい」
「ッハイ」
「良いと思いますよ、私は」
「いいから。アリス、説明」
「はい、ではざっくりと簡潔に……」
スプークが茶化すので視線で黙らせるが、アリスも口元に手を添えて笑うので気まずい為に説明を急かす。
今回私達が戦おうとしているのは、ビッグトレントだ。
その場から動かないものの、根や枝による殴打や薙ぎ払いに加え、種を撃ってきたり毒などの状態異常を撒いてくるという。
対する私達の布陣は、私ナインが前衛として攻撃を集め、スプークが魔法の攻撃にて火力支援の後衛、アリスは同じく攻撃だが一部の回復魔法も使える為に中衛とした。
「そう言えば、その飛んでくる種ってのはどれ位の速さなのかな」
「え?そうですね……えっと」
「拳銃弾の半分もないっすよ」
「なんだ、それぐらい?」
「それぐらいって……」
ナインの質問に答えたアリスが二人の様子にも呆れるが、実際この二人はそれ以上の速度の雨の中で戦ってきた身だ。
日常茶飯事過ぎる事に、つい呆れた彼女へ苦笑が二つ向けられる。
「じゃ、後は出た所勝負で大丈夫そうだね」
「状態異常の回復アイテムも、今の所有るものは持ちましたしねぃ」
「《錬金》を取ってくれてたスプークに感謝ですね」
ふふん、と自慢そうに解毒薬や麻痺対策の薬を配っていたスプークが胸を張るも、元はと言えば彼女の用事で行くのだ。
その点でふっと笑みを浮かべたナインへきょとんした表情で首を傾げる様が可愛らしかったので、帽子越しにその頭を思いっきり撫で回した。
ひとしきりあうあうとしか言わないスプークで遊んだ後、そろそろ出発しようと焚き火に土を蹴り入れて消しながらふと、テントを収納しているアリスへとナインは声をかけた。
「そうだアリス、使ってないスキルポイントが有るんだけれど……ヘイト?敵の注目を集めるのにおすすめのスキルは有る?」
「ヘイト管理系のものですか?そうですね……姉さんなら単体には《デュエリング》が、複数になら《注目》が良いと思いますよ」
「ん、ありがとう。ちなみにその逆は……?」
「逆ですか……《隠密》とか《消音行動》とかですかね……?」
「なるほどね……」
ちょっとしたアドバイスに従って、ナインは開いたウィンドウからヘイト管理の為のスキルを選択し習得していく。
もちろん逆の効果の物も習得し、on/off出来る様なので効果を切っておく事も忘れない。
「これでよし、と」
「二人とも準備は大丈夫?」
「おけっす」
「こっちも大丈夫」
「ならいざエリアボス戦へ――」
「出発ぅ!」
火の始末もテントの撤去も終わり朝露の湿り気も飛び始めた森の中、ピクニックの行きのヤマへ三人は向かっていった。
ブクマ50越えありがとうございます。