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15.反省と勉強



 ヤボ用を済ませてから『Stranger Online』にログインしたナインはまず、フレンドリストからアリスのログインを確認して空メールを飛ばした。

 すぐに「大通りに面した喫茶店で待っています」と返信が送られたので、噴水前の広場から大きな通りへと足を向ける。


 広場から通じる古く良い年月の経過を感じる大通りを歩いていけば、時折NPCの馬車を織り交ぜたまばらな往来が適度に流れている。

 流れを崩さず、乱さないように乗って進みながら左右へ視線を巡らせて喫茶店を探せば……すぐに見つかった。



「ごめんね、アリス。少し懐かしさに浸ってて」

「いえ。だと思いましたので、のんびりと待っていましたよ。」


 こじんまりとして隠れ家にも見え、看板が無ければやり過ごしてしまいそうな建物の中へと入れば探していた姿はすぐに目に入る。

 なので向かいへと座りながら謝るナインへ、アリスの苦笑が向けられた。


 ふと見れば何かの本を読みながら待っていたようで、彼女の傍らにはいい香りの紅茶が半分ほど入ったカップが置かれている。


「ん、ありがとう。じゃあ……同じの、それとアリスのお代わりを」

「あっ、もう……」


 メニューを見るのもと思い、適当に奥に居た店員らしいNPCに声をかければ本の表紙越しに頬を膨らませた視線を向けられて、苦笑し返す。

 待たせたのならこれ位、と緩ませた視線で妹を黙らせて本題を切り出す事にした。



「それで、アリスはどこまで?私はさっき20になった所」

「こちらは18まで。意外と稼げたのですね、姉さん」

「その分疲れたけれども、ね」

「でしょうね」


 穏やかな笑みを交わしながら現状確認をするが……今朝の段階でナインが12、そこから昼間には16、夕方には20と結構ハイスピードなレベルアップをしてきたと思う。

 しかしながら、妹は昼過ぎから夕方までのログインで11から18まで稼いだという。


 効率と言う意味では勝てないなと内心で思いながら、ナインはウィンドウを開いてアリスへと流す。


「それでβプレイヤーさんから見て、コレはどう思う?」

「うっ……何処でそれを」

「なんとなく」

「カマかけでしたか……ううん、古鉄の破片ですか」


 店員がナインの分のカップを置いて二人へ紅茶を注ぐ傍らで、意地の悪い表情を見せればアリスが驚いた顔を見せた。

 実際はヒューイに裏を取った訳だが、これはこれで面白い反応を見れたので黙っておく事にする。

 そして彼女に見せているのはワーズ墓所でのボス戦で手に入ったアイテム――主にあの鎧や盾の破片や一部が主だった戦利品だった。


「装備品の素材になるかと思ったけれど、どれ位のレベルのものになるかの目安を知りたくって」

「そうですね……お店での鉄製装備が15レベルからですし、ボスの推奨から考えても20から……30位まで、でしょうかね?」

「そっか。ならそこそこ付き合う事になりそうだね」

「黒鉄などの素材もあるみたいですけれど、それらはまだ先になりそうですからね」


 大体の所感を耳にすれば、インベントリから破片の一つを手に取って窓から差し込む陽に翳してみる。

 あの重々しく見えた色も、陽の元では程よい光沢から良い具合に感じられた。


 数秒の間、古鉄の破片を眺めていてふと、まだ話す事がある事を思い出せば懐にしまい別のウィンドウを開く。


「そうだ、後はこの称号。これってただの蒐集要素なのかな」

「ええっと……ああ、これはフレーバーのみたいですけれど、中にはパッシプの効果を持つものも有るようですよ?」

「ふむん」


 アリスへと見せたのは《ワーズ墓所攻略者》という称号で、《ラストスタンド》の方は少し黙って置く事とした。

 おそらく最後のボスの大剣での一撃で入手したか、瀕死の状態での一撃でもって倒したことでの入手であろうから……何かしらあると踏んでいたが、彼女の言を信じるならば何かありそうで楽しみだ。


「なら大体は、もうリザルトで確認したい事は終わりかな」

「あれ、もうですか?」

「ああ、それほどめぼしいようなユニークなアイテムなどを拾った訳じゃあないからね」

「そうでしたか……」

「……で、本題はここからなんだけど」


 しゅん、とこの喫茶店で待ち合わせた理由が終ってしまったと知って、一回り小さくなったように見えるアリス。

 その様子に笑みを誘われては、紅茶に口を付けて一息ついてから言葉を続ける。


「私におすすめの魔法は有る?」

「魔法、ですか?」

「そう、魔法。今の私のスタイルを壊さずにとなると、事象系だとは思うのだけれど」



 今日、夕食後にこの喫茶店でアリスと待ち合わせたのはリザルトの疑問の他にもう一つ相談があったからだ。

 ボスとの戦闘で判った通り、剣と投擲だけではなく他にもいくつかの攻撃手段が必要だとナインは考えていた。

 それに必要なのは、投げる為の別の物品と魔法の習得。そう結論付いたのだ。


 『Stranger Online』での魔法はよくある地水火風と雷と氷、それらが事象系と具現系に分かれている。

 MPの消費が少なく展開が早いが効果時間も短い事象系の火、風、雷。反対に消費が重めで長続きするものの多い具現系の地、水、氷。

 光と闇も有るそうだが、現状まだ関係無いようなものなので今回の話では除外される。


 なので少なくとも自分よりはこの世界で実践を積んでいる妹に尋ねようとしたのだが――


「確かに姉さんの戦い方になら事象系とは思いますが……」

「でしょう?だから――」

「でも私は、具現系の方を進んでいるので……」

「あっ」

「……すみません」

「大丈夫。なら素直に、冒険者組合の方で聞いてみるよ」


 そう上手く事は進む事はなく、どうやらあてが外れたようだ。

 ならば図書館でも探して、情報を集めた後で……などと考えて居るとアリスから助け舟が出された。


「それなら訓練場を利用すると良いと思いますよ」

「訓練場?」

「はい。チュートリアルをもっと詰めた内容を学んだり、練習できる場所です」

「なるほどね、ありがとう。そういう事なら……ちょっと行ってみようかな」


 丁度お誂え向きの施設が有るようなので、妹の助言でもある為にそこに行ってみる事に決めた。

 一応チュートリアルでも魔法に関して触れられたものの、急いでいた事も有って軽く流していた事だから丁度いいだろう。


「姉さん」

「うん?」

「頑張ってください、私も頑張りますから」

「……ん」


 感謝して残った紅茶を飲んだ後に、二人分の代金をインベントリからナインが取り出して居れば意味深な言葉がアリスから掛けられる。

 その意味に首を傾げながら頷いてから店員に軽く声をかけて喫茶店を後にした。





 思い立ってすぐに行動に移す為に喫茶店を後にしたナインを、見送ったアリスは一息ついて紅茶を味わっていた。

 あの様子だと、ちゃんと味わう余裕がなかっただろう。それは残念だから、また()を誘いたいものだと、彼女は思う。


「随分と慌ただしい方でしたね」

「ふふ、でも私の自慢の姉ですから」

「あの方が?そうなんですか」

「はい。そして超えたいと思う目標なんです。」


 ふと空いたカップにNPCの店員がお代わりを注ぎながら話しかけてきたので、朗らかにアリスが笑う。

 ただ口元は笑みの形でも目元は笑っておらず、()と同じ光を湛えていた。




ちょっと最近駆け抜けていたので、少し減速していきます。

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