13.食卓
短めの日常ぱーとです。
ワーズ墓所での一戦を終えて、途中ヒューイの背から降りて古都へ戻ったナインは彼に何度も覚悟とは何かと問い詰めるが、のらりくらりと躱されていた。
怪訝な顔をするも向けられるのは愉悦の表情……なので、夕食の時間も近い事もあり早めにログアウトすることにした。
リザルトは、まあ後でも良いだろう。流しながらスクリーンショットを撮ったのでゲーム外からも見れる。
「じゃ、また」
「おう、またな」
上機嫌にニヤついた表情のヒューイに見送られながら、ナインの意識は陽臣へと戻っていった。
□
いつもの見慣れたVRギアの終了表示を覚醒していく意識でぼんやりと眺める。
ただ、常日頃とは違う感触が……嫌な予感と共に向けられている視線をVRギア越しでも感じた。
流石に家には自分以外も居る為に強盗などでな無いと思うが、恐る恐る視界を開きそちらへ顔を向ければ――
「……」
「……愛梨?」
VRゲームをするために寝転んでいるベッドの隣へ向けた視線には、ラフな格好の妹がそこに居た。
じっとりと重みさえ感じそうな視線に、少々どころではなく気まずい思いにさせられる。
「兄さん、私が言いたいことは判っていますよね?」
「……心配させた?」
「……」
「いだだだだだだだ?!」
詰問する様な視線と言葉に、そう言えば迷路で迷っている報告の後になにも知らせていない事を思い出す。
だから、それが気掛かりで有ったのかと思えば……腕を思い切りつねられた。
それもすぐに終るも、震えながら俯く彼女にかける言葉が思いつかずにいると……。
「ワーズ墓所のボス、私がソロして驚かせるつもりだったんですよ!?」
「は?」
「それなのに!なんで!やられて死に戻りしないんですか!そんな兄さんを観たかったのに!」
「はァ!?」
浴びせられる言葉に、一瞬呆けてしまう。
その意味を理解すれば苦笑が浮かび、失笑が漏れ呆れてしまう。
それ以前に、妹がここまで感情を露骨にぶつけて来る事に嬉しさこそ感じてしまうが……。
「愛梨、ごめんね」
「……はう」
とりあえず落ち着かせるために、身体を起こし愛梨を抱き寄せて背をとんとんと軽く撫でておく。
こうすれば安心するのか、怒っていたり取り乱していてもすぐに大人しくなる。
「じゃあ、私は夕食作ってくるから」
「……わかりました」
じっと抗議と嬉しさの狭間で揺れるような表情の愛梨を置いて、夕食を作りに行くことにした。
□
仕込み終えていた食材を調理して居れば、ソファーから物音と唸り声が聞こえ始めていた。
「父さん、起きた?」
「んお、陽臣か。ただいま」
「はは。おかえり、そしておはよう」
「もしかして運んでくれたのか?」
「流石に部屋までは無理だったけど」
火にかけている鍋を見つめアクを取りながら会話して居れば、どうやら本格的に目が覚めたようだ。
キッチンの方へゆっくりと歩いてきたので、片手間にコップに水を入れて脇に置いて置く。
「すまんな」
「いつものこと」
そう、常日頃の事。などと考えている内に愛梨も戻ってきたので、手早く仕上げてしまう事とする。
煮込み終えた野菜に火入れを終えた肉を合わせ、市販のルーを放り込み味を調える。
合間にコーヒーを人数分淹れて置き、皿にご飯を盛って出来上がったカレーを追い打ちに盛り付けて、完成。
面倒だったので少し手抜きをしたが、まあ良い感じになっただろう。
「二人とも、出来たよ」
リビングで片や寝起きでぐったりとしてる父と、片や何故かぼーっとしている妹に声をかけては三人分のカレーの皿とコーヒーを置いていく。
「待ってました、ありがとうな」
「今日はカレーだったんですね」
「そういや母さんの分は?」
「母さんは今頃寝てるだろうから、温めて自分で食べると思う」
「そうか」
自分の部屋から出た後に母の部屋をノックしたが、返事も物音も無く……中を覗くと爆睡していたので起きるのは夜中だろう。
なのでのんびりと、夕食の時間を楽しませて貰う事にする。
先程不機嫌にも見えた愛梨も、上機嫌で食べて居るから手の抜き加減は上手くいったらしい。
が、辛い。
どうやら甘口と中辛のパッケージを間違えた奴が居たようだった。
甘口2に中辛1の割合で混ぜる私ですが、たまに間違えませんか。比率。