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1.プロローグ

どうも、渡硝子です。


毎日~や毎週~の投稿では無く、区切りの良い所までを放出していく形で更新していくつもりです。

色々と作りの荒い所や突っ込み所が多々あるかもしれませんが、マイペースに更新していくのでどうぞ気長に見て行ってやってください。


1/27 誤字修正。


 金曜日の午後。


「どうしたものかな」

 春が終り夏の変わりつつある曇り空の下、屋上で柵に背を預け空を仰ぎ雲を眺めながらふと独り言つ影が一つ。



 西暦が2000番台となってから発展の兆しを見せた二つの技術は国際的な緊張から発展し、必要性が薄れた事で人々へスピンオフされ一般へと普及していった。

 一つはAI技術。最初は決められた内容での反応しか出来なかった人工知能も、判断能力の補助や拡張の為に用いられていた実績を経て、今では人間と比べ遜色が無く違和感の少ない対応が出来るようになった。

 次にVR技術。元はビデオゲームから始まり、よりリアルな環境での模擬戦闘において様々な状況を再現する事は訓練にはうってつけとも言えるものであったらしい。

 それら二つの技術が様々な界隈に革新を呼び起こした中で最も恩恵を受けたのはゲーム、特にVRMMOというジャンルを確立するほどに未曾有の賑わいを齎す事になった。



 しかしながら始まりが有れば終わりが有る様に、技術の発展の中で優れた後発作品に押されサービス終了を迎えるゲームも少なくはない。

 此処で呆けている彼もまた、プレイしていたゲームのサービスが終了したショックから立ち直れないでいた一人である。



「おうい、今日もまたシケた面してるな。陽臣」

「……ああ、早坂か。わざわざ屋上までどうした?」

「どうしたって……そりゃねえよな。まあいい景色を見に来たついでに、悪友の様子見」


 校内に通じる扉が開けられる音に次いで話しかけられた方に彼――熊城陽臣が笑みと視線を向けると歩み寄る言葉の主――早坂圭は呆れながらも隣で柵にもたれながら話しかけ始める。

 悪友とは言うがそれは陽臣のほうのセリフだ。前々から同級生と言う事で宿題や試験前の詰めを何度手伝わされたか判りもしない。


「で。まだ『FwF』を引き摺ってんの」

「少なからず。あれほど全力で打ち込んだ物がそうないからさ」

「こいつは重傷じゃないの、おい」

「本当に。虚脱感と言う奴かな?……ちなみに部には戻らないよ」

「げっ、先手打たれちまったか……」


 他愛ない掛け合いで笑い合っていれば、陽臣の脳裏に先月まで楽しんでいたVR世界の光景が蘇る。



 最低限の操作説明しか行わない硬派で王道とも言えるVRMMOFPS『Freedom War Frontier』

 一兵卒として仮想された戦場へ繰り出すほか銃器のみならず多くの兵器を扱う事もでき、果ては戦場の指揮官などとしても楽しめる事で有名となっていた。

 そんな血と鉄と硝煙の世界も、運営会社の倒産というアクシデントには抗う事は出来ず幕を閉じる事となる。

 ただ一つ幸いだった事は、サービス終了が通知される少し前に彼はその戦場から距離を置いていた事だ。


「本当に、心底楽しかったよ」

「あんな狂気のぶつかり合いがか?」

「だから良いんじゃないのか?非日常というものが」

「っは、違いねえわ」


 思い出し笑いを浮かべ惜しむ言葉を漏らせば圭が呆れるが、彼もまたMMORPGの世界にどっぷりと聞く。

 電子の海の中の別々の場で返り血を浴び続けてきた同士。故に圭も人の事は強く言えない筈だ。

 互いに理解しあっていると判っているからこそ、屈託のない笑いが二人の間に交わされる。



「でもよ。そろそろ立ち直らないと、妹ちゃんも心配すっぞ?」

「解ってはいる。要は切り替える切っ掛けが、ね」

「バスケ部、戻ってくる?」

「それはない」


 ひとしきり笑い疲れた後、鞄から取り出した紙パックに手を付け始めた悪友が陽臣を横目に再度話を切り出した。


 家族は半ば放心し続けているような状態の陽臣を心配してくれている。出来る範囲で協力するからと近付き過ぎないようにして気にかけてくれていたし、そんな中両親とは違い妹は何やら奔走して居るようだが、何をしているのか彼に教えてはくれないでいた。

 バスケ部は入学から数か月は打ち込んでみたものの性に合わない事や『FwF』に興味を惹かれた事で頭を下げたきりであって、今の腑抜けた状態で戻ると言うのも陽臣には後ろめたい物が有る。


 鈍く響く下校を促すのチャイムの音に、片や飛び付き駆け始め、片やゆったりと起き上がり二人は校内へと戻り始める。

 ふと気付けば暗い雲のカーテンが晴れたと思えば居る筈の陽はすでに傾いていて、夜の宵闇が下り始めていた。



「切っ掛けで思い出したわ。今日、『Stranger Online』って面白そうな奴が始まるんだってよ?」

「――?……わかった、調べるだけ調べては見るよ」

「おう。もしやる気になったら連絡くれよ?お前のPSなら大歓迎だからさ」


 廊下を先に駆ける圭からAR端末のアプリに送られたのはファンタジーなパッケージ画像。王道とも言える中世の光景かと思えば、所々に近代に見える物が散りばめられている。

 RPG好きの彼が勧めると言う事は、私のような偏屈な人間にも受けがいいと言うものだろうか……などと若干琴線を逆撫でられて考察し、記憶とAR端末の視界の片隅に陽臣は覚え留めて置いて帰路へと向かった。





 陽臣が帰宅しキッチンで夕食の準備をしていると、リビングのドアが開けられる音と軽い足音が耳へと届く。


 なぜ彼が料理をしているのかと言えば、熊城家の事情とも言える。

 両親が共に働いているためで有る事と、その双方の調理の腕が悪い為である。それ故に彼が自分と両親と妹の食事を作る……作らねば精神衛生上よくないからだ。


 それはさておき、足音の主へと顔を向ければ予想通り人生で三番目によく見る人物がこちらを向いていた。


「ただいまです、兄さん」

「おかえり、愛梨」


 頭一つ分は優に低い所からの視線がこちらを向いている。正確には彼女の眼は閉じられているので視線と言うのは語弊があるかもしれない。

 陽臣の妹、熊城愛梨。色素の薄い髪をしたこの大人しそうな少女は、先天的に視力がとても弱い。しかしながらAR技術によって視力を補助しているため、日常生活には不便がないらしい。

 兄妹としては仲は良好。お互いに活発的とは言い難い落ち着いた二人、といった周囲の評価に違わない。


「兄さん、後でお話よろしいですか?」

「帰って来るなり唐突な……わかった」

「では、後で」


 律儀にもぺこりと頭を下げた愛梨が自室へと向かうのを見送り、陽臣は料理の支度を始める。



 本日のメニューはオムライス。

 冷蔵庫の中にある卵の消費期限が近かった覚えがあるので、いっそ在庫を使い切ってしまおうという訳だ。


 小さく刻んだ鶏もも肉、みじん切りにした玉ねぎを炒め、火が通る手前辺りで塩胡椒、顆粒出汁を加え焼き色を付ける。

 全体に馴染んだ所で炊いて置いた白米を加え、焦がさないよう混ぜつつケチャップを回していく。

 ケチャップの酸味が粗方飛んだら、チキンライスは完成。先に皿へと盛り付けて……


「兄さん、はい」

「ん、ありがとう」


 食器棚へ向かおうとした陽臣の隣に皿が差し出される。

 陽臣がその元を見れば、中学の制服から私服へと着替えている愛梨が隣に立っていた。


「あと、父さんから連絡が」

「徹夜か?」

「みたいです」


 半ば想像出来た事ゆえに、苦笑し合いながら連絡事項を確認しながらチキンライスを皿に盛る。

 きっとあの父親の事だ。妙なテンションでもって職場を掻き回したのだろう。


「じゃあ、すぐに作ってしまうからな」

「お願いします」


 気を取り直し、溶いた全卵に塩を振りフライパンで焼いていく。

 父親が帰宅しないために若干量増えた卵へ、程々の熱を通し形を整え……チキンライスへと乗せる。


「ほい、母さんの分」

「わかりました、持って行きますね」

「ああ。戻る時には二人分は終わる」


 出来立ての一皿目を自室に詰めている母親の元へ運ぶ妹を見送り、陽臣は二皿目と三皿目を手早く仕上げて行った。





「で、だ。話って何だったんだい。愛梨」

「覚えていてくれたんですね」

「忘れてた方がよかったかい?」

「まさか」


 なんの変哲もない夕食後、食器を洗いながらソファへと身を沈める愛梨に陽臣が声をかける。

 これで彼女は嫉妬深い。何も知らなければ寡黙で華憐な少女、そういった印象で落ち着くだろうが約束を忘れようものなら怖いというのを陽臣は良く知っている。それこそその身を以って。


「兄さんに渡したいものがありまして。ギアをお借りしても?」

「VRギア?なんだってそんなもの……」

「お・借・り・し・て・も?」

「お、おう……」


 質問の意味が解らず、聞き返す彼を愛梨の気迫が押し通す。



 VRギア。


 バイザーの様に目と耳を覆うそのVR機器は、現在主流になっている医療機器を元に発展させた没入型のものだ。

 ゲームのプレイ中や映画の観賞時には脳の電気信号の一部を遮断し、身体を動かないようにするそれは一個の機械として完成していたが為に、世界中に普及したものだ。

 無論のこと、陽臣もVRギアを所有している。


「一応確認だが、変な事する気じゃないんだよね」

「ええ。贈り物をしたいだけですので」

「贈り物……?」


 ますます意味が解らない陽臣が振り向けば、微笑む愛梨の顔が眼に入る。

 とはいえ、彼女がそう突飛な事をしないだろうと判断した彼は、首を捻り困惑したまま了承することになる。


「私の部屋の、ベッド脇の棚に置いてある。好きにしてくれ」

「……!はい。存分に!」


 満面の笑みを浮かべ自分の部屋へと向かう妹に、兄は苦笑を漏らすしかなかった。



 その後、陽臣が入浴の支度に部屋へ戻った時には部屋に彼のVRギアは無く、入浴を終えると元の位置へと戻されていた。


「……何のつもりだったんだろうな、愛梨は」


 妹の思う所に心当たりがない故に溜息をつきながらギアを手にすると、インストールされたデータを確かめる為に頭に着けてベッドで横になり、電源に触れて電子の世界へと意識を移すことにした。




AR端末は、ナンバリングが6のハザードなバイオの端末を思い浮かべて貰えれば。

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