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わたしたち、いまさら恋ができますか?  作者: いつきさと
あなたは、わたしの何ですか?
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06

 並べただけの惣菜を囲み、打ち合わせの成果報告と新規の仕事を缶ビールで祝う。忙しいのは辛いが安定して仕事があるのはありがたい。とはいえ、のんびり談笑している時間も無いので三十分ほどで食事会はおしまい。皆、さっさと自分のマシンに戻り、作業を再開した。


 私は、俊輔の話を思い出し、メールをチェック。やはり、あいつが何通も出したと言っていたメールは、メールボックス内には見当たらない。もしやと思い、迷惑メールフォルダを開いてみると、リストいっぱいの怪しげなメールに紛れて、やはりいかにも怪しげな、『俊輔』というタイトルのメールが点在していた。


 普段、メールフォルダはこまめな整理を心がけているのだが、ここしばらく仕事が立て込んでいたため、放置していた。そのため、自動的に迷惑メールフォルダに振り分けられてしまったあいつのメールに、全く気づかなかったのだ。


 古いものから順を追って、開いてみる。一番最初のメールはほぼ三週間前のものだ。


--連絡遅くてごめん。今、忙しくて毎日残業。週末も接待があって時間が取れそうにない。おまえは大丈夫か? いつ寝てるかわかんないから電話しないけど、メールくらいよこせよ。あんまり無理すんな。またメールする。

--ごめん。木曜から出張。戻りは日曜の夜。今週も無理だな。土産欲しいか? 欲しかったら連絡しろ。またメールする。


 ここからは、もう先週のもの。


--生きてるか? 週末は大丈夫そうだ。夜なら平気だから電話していいぞ。

--なんで返事が無いんだ? 忙しくたってメールくらい出せるだろ? 返事くらいしてこいよ。

--おい! いい加減にしろよ。無視することないだろ?

--怒ってるのか?

--おーい、波瑠!

--おまえ何様? ふざけんな!

--おまえなんか知らねえ!

--もういい

--<本文なし>


 はじめの一通二通はまだ普通だが、先週になってからのこれは、正に迷惑メールそのものではないか。最後の一通を開いたときには、腹が捩れるほどに笑い転げてしまった。


「波瑠、どうしたの? なに笑ってるの?」


 弥生さんが不思議そうに私のモニタを覗き込んでくるが、開いているのは最後の一通<本文なし>のみ。誰が見ても何の変哲も無い迷惑メールだ。彼女は笑いを止められないでいる私の顔を不思議そうに見て、意味わかんない、と呟き、自席へ戻って行った。


::


 早々に揃えると言われていた資料が届いたのは、金曜日の昼だった。まだ金曜、しかも半分も残っている。金曜の夜遅くにバイク便がやってきて、分厚い紙の資料を渡され月曜朝一よろしくね、なんて言われるのはよくあること。それから比べれば、十分素晴らしい速さだ。泣きたいが。


 週末は弥生さんと晶ちゃんはお休み。だが所詮、リーフレット二枚だ。二日徹夜すれば、私ひとりでも十分間に合うだろう。ただ、問題は俊輔だ。あいつとの食事は断るしかあるまい。あのメールと電話の様子ではすでに相当怒っている。その上デートも中止とくれば、怒りのメーターが振り切れるかも知れない。それならそれで結構。いっそのことこのまま自然消滅でもしてくれれば、願ったり叶ったりだ。


 晶ちゃんと手分けして紙の資料をデータに起こす作業が終わったのは夜の九時。週末はいつももっと早く帰宅してもらっているのに、結局、こんな時間まで付き合わせてしまった。


 夕飯すらまだ食べていない。彼女が何か買ってきましょうかと気を使って言ってくれたが、これ以上引き止めるわけにもいかず、大丈夫、適当に食べるからと断って帰宅させた。


 ここから先はひとり。何かお腹に入れて作業を開始しようと、ほぼ飲み物しか入っていない冷蔵庫を物色していると、ドアホンが鳴った。晶ちゃんが忘れ物でも取りに戻ってきたのかと、急ぎドアを開けると、不機嫌そうな顔をした俊輔が立っていた。



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