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 意識が覚醒しつつあるなか、ひんやりとしたシーツの感触に肌寒さを覚えた。


 何気なく伸ばした手の先に有るべきものが無い気がして不安を感じ、うっすら目を開けると、カーテン越しの柔らかい光の中に、ソファに座り何かを熱心に見ている俊輔の姿がある。モゾモゾと動く気配を察したのか、俊輔が顔を上げこちらを見た。


「目が覚めたか」

「うん。なにしてんの?」


 奴の手の中にあるものを見定めようと、寝ぼけ眼を必死で凝らしていると、向こうからそれが差し出された。


「どういうことだ?」


 俊輔の手の中にあるそれは、明らかに私の個人用携帯だ。そんなものどこから、と、思ったところで気づく。奴のすぐ側に私のバッグが口を開けたまま放り出されていることに。


 一瞬の内に頭の中がクルッと一回転して目が覚めた。アレだ。アレを見られたに違いない。


「ちょっと! なんで人の携帯勝手に見てんのよっ!」


 掛け布団で胸を押さえたままベッドから這いだし、布団に躓きつんのめりそうになりながら片手を伸ばして俊輔の手から携帯をもぎ取り背を向け、その目線を遮るように画面を見る。それは思ったとおり、紛うことなくお坊ちゃんからのメールだった。




--昨日は随分雨が降りました。肌寒さも一入でしたね。波瑠さんは佐伯家の跡取りを生む大切な身体です。今の時期は気温の変動も激しく体調を崩しやすいのでくれぐれもあなたの体を厭うようにと、今朝、朝食時に母に言われました。あの日以来、あなたの顔を見ていないのは寂しい限りです。早くあなたに会いたい。



 跡取りを産むだと。何を言ってるんだこの馬鹿は。と、頭に血が上りそうになったが、それどころではなかった。今の問題は俊輔だ。


 読まれてしまった。吉本さんの提案通り、いずれは見合いの件を俊輔に話してお坊ちゃんへの対応を相談しようと考えてはいたが、こんな形で知られてしまうとは。


 迂闊なことを。習慣とはいえ、なぜ、バッグを替えたときにこの携帯を持ってきてしまったのか。せめてロックだけでもかけてあれば。だがそれも、弥生さんと晶ちゃんに外されて以来、そのままにしてしまっていた。


「いい眺めだな……」


 ボソッと呟かれた声に振り返り、私の身体を見下ろしている俊輔のニヤついた顔を見てはたと気づく。マズイ。背面は隙だらけだった。


「馬鹿! 変態! どこ見てんのよっ! あっ……?!」


 慌ててクルッと向きを変え数歩後ずさったところで、布団に足を取られ尻餅をついた。


「なにやってんだ? 大丈夫か?」


 私の目の前に跪いた俊輔が、何処か怪我しなかったかと心配顔で身体に絡みついた布団を剥ごうとする動作に驚き、布団ごと胸を抱き身を固くした。


「ちょっ……なにすんのよ! エッチ!」


 一瞬呆れたように目を見開いた後、クシャッと顔を歪めて笑われた。


「馬鹿。いまさらなに恥ずかしがってんだよ」


 愉快そうにぐしゃぐしゃと頭を強く撫でられ言葉も出ない。確かに、いまさらではある、の、かも知れない。


「その顔なら大丈夫だな。さてっと、飯食いに行くぞ。 せっかく朝食付きにしたのに食いっぱぐれたら大損だからな」


 俊輔はクローゼットから昨日着ていたワンピースを取り出しぽんっとベッドに放り投げると、自分はさっさとバスローブを脱ぎ、服を着始めた。


 曝け出された奴の引き締まった肉体を目の当たりにし、否応なしに昨夜の肌の感触が思い出されて頭がクラクラするが、今はそんな場合ではない。いつまでも裸でいるわけにはいかないのだから、さっさと身支度を整えなければ。


 しかし、まさか泊まりデートとは思っていなかったので着替えが無い。上はいいとしても、昨日着けていた下着を今日もまたというのには抵抗がある。どうにかして調達しなければならないが、方法はひとつしか考えつかない。


「あのさ……頼みがあるんだけど」

「なんだよ?」

「下着の替えが……」

「はぁ? おまえ……何日も風呂入んなくても平気なのに、そーゆーのは気にすんの?」


 それを言われたら返す言葉が無いけれど、ひとつだけ訂正したい。


「何日もじゃないよ。二日が限度だってば!」


 ジャケットを羽織りながらわざとらしくニタリと笑う俊輔を、睨みつけている私の顔はきっと真っ赤だ。


「わかったよ。コンビニ行ってパンツ買ってきてやるって。但し、ブラジャーはさすがに売ってないだろうから諦めろ」


 意地悪を言いながらも平然と女物のパンツを買いに行ける俊輔を頼もしいと思ってしまう。だが、奴が出ていき、パタンと閉まるドアの音を聞いた瞬間、尋常ではない疲労を感じ、盛大に溜め息を吐いてしまった。



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