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わたしたち、いまさら恋ができますか?  作者: いつきさと
蓼食う虫も好き?好き。
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 かなりフラついた足取りのくせに酔っていないから大丈夫と豪語するご機嫌の吉本さんをタクシーの後部座席に押し込んで見送った後、私たちは終電間際の地下鉄で帰路に着いた。


 私が誘ったお詫びの飲み会だったのに、お支払い役は山内さんに取られてしまった。女の子に支払いなんてさせられないし、どうせ経費で落ちるから大丈夫とは言っていたが、こんな飲み会が経費で落とせるのか、甚だ疑問ではある。


 その上、夜道のひとり歩きは危ないからと、仕事場まで送られてしまっては、もう立つ瀬がない。とはいえ、それなりに酔っているのも事実。時折フラつく脚元に不安を感じた山内さんにがっしりと肩を抱かれて、フラフラと仕事場への道を歩いた。


「藤本さん、この間訊いたときには、いないって言ってたのに、いたんだね、彼氏」


 遠くを見ながらボソッと呟かれた山内さんのその口調が、少し責めているように聞こえた。


「すみません。決して嘘をついたわけではなくて、あのときはまだ……」


 これはどう言いわけしても嘘をついたとしか思えないだろう。しかし、最近彼氏ができたんですとこの人に釈明するのも変な話ではある。


「ふーん。あのときはまだいなかったんだ? じゃあ、ごく最近ってこと?」

「……まぁ」

「なにその腑抜けた返事。どうしたの? 彼と上手くいってないの?」

「そういうわけではないんですけど……よくわからないっていうか」

「なんだよ、歯切れ悪い。藤本さんらしくないなぁ」

「なんですかそれ? じゃあ、私らしいってどういうのですか?」

「うーん。そうだな。白黒ハッキリしてるっていうか、決断力があるっていうか……男らしい感じ?」


 あははと笑いながら私の顔を覗き込むその瞳に、吸い込まれそうだ。最近の山内さんの、時折見せる少年のような顔にはいつもドキッとさせられる。


「……それ、なんか酷くないですか?」

「そう? 褒めてるつもりなんだけどな」

「やっぱり褒められてる気がしないんですけど……」


 口を尖らせ苦情を言いつつも、彼とのこういうやり取りはなぜかホッとする。


「ははは。まあいいじゃない。僕はそんな藤本さんが好きだよ」

「……えっ?!」

「嫌だな。そんなに驚かなくてもいいでしょう? でも、もう遅いんだよねぇ……。残念。狙ってたのにな、藤本さんのこと」

「…………」


 呆然として立ち止まった私の顔をしばらく真顔で見つめた後、山内さんはぷっと吹き出した。


「冗談だってば。 ホント、面白いよね、藤本さんは。揶揄い甲斐がある」

「ひっ、ひっどーい!」

「おっと! 危ない」


 山内さんの胸を突き飛ばす勢いで叩こうとして避けられ、見事によろけたところを抱き止められた。その勢いで彼の胸に埋まった顔が熱くなり、ドキドキと鼓動が激しくなる。必死で鎮めようとしている私の頭上で、山内さんの小さな声が聞こえた。


「あれ……お迎えじゃないの?」

「え?」


 数メートル先、マンションの入り口横に立つ人影が見えた。顔は暗くてよく見えないが、あれは間違いなく俊輔だ。


「僕の役目は終わりだね。じゃ、また連絡するよ」


 私の肩をポンポンと二度叩き、彼氏に殴られる前に逃げるよと耳元で囁いて、帰って行く山内さんの背中をぼーっと見送っていると、いつの間にか側にいた俊輔にぐいっと腕を捩じ上げられた。



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