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わたしたち、いまさら恋ができますか?  作者: いつきさと
女房とタタミは『古い方』が良い。
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「ねえ、どこ行く気?」

「シートベルト!」

「お……」


 ぶっきらぼうにそう言われ、慣れないシートベルトに苦戦していると、コンソールボックスの中から何かを取り出してぽいっと投げて寄越した。


「これしとけ」

「えっ!」


 慌てて振り向き、かろうじて受け止めたそれは、サングラス。一応気は使ってくれるのかと、ちょっと気を良くしてそれを拝借した。


「あんた、車なんて持ってたの?」

「親父の借りた」

「そーなんだ……」


 好奇心で車の中を見回した。よくよく見ると、ドアポケットに、ミニカーとなんとかレンジャーらしき人形が突き刺さり、後部座席にはチャイルドシートが。


 なるほど、おじさんの車は美咲ちゃん親子仕様になっているのかと感心し、とてもじゃないが女の子乗せてどうこうって雰囲気ではないなと、クスッと笑った。


「なに笑ってんだよ?」

「別に……ねえ、どこ行くの?」

「行けばわかる」

「……ケチ。教えてくれたっていいじゃない」


 澄まし顔で運転している俊輔の横顔を見た。こんなふうにこいつの顔をじっくり見ることってほとんど無いから、なんだか新鮮な感じがする。こいつってこんな顔してたのかと、ぼーっとしていると額をパシッと叩かれ我に返った。車は知らぬ間に信号待ちで停止している。


「なに見てんだよ? キモチワリィ」


 両腕をハンドルに乗せ、こちらを向いて睨んでいる俊輔の頬が薄っすら染まって見えるのは気のせいだろうか。


 なんとなく気まずくなって視線を外し、窓の外を眺めた。


 私は一応免許は持っているが立派なペーパードライバー。外出は専ら徒歩と電車だ。故に、車に乗せられどこへ連れていかれても、今どの辺りを走っているかなんぞ皆目見当もつかない。


 その上今、私を何処かへ連れていこうとしているのは俊輔だ。何か悪巧みでもしているのではないかと、疑わない方がおかしいだろう。外を眺めても無駄なのはわかっているが、何か手掛かりをと、周囲を見回していた。



「着いたぞ」


 その声と同時に正面を見て、わぁと歓声をあげた。


「ここっ! 運動公園?」

「馬鹿かおまえ。今頃わかったのかよ?」



 俊輔が私を連れてきたのは、小学生の頃、みんなでよく遊びに来た、運動公園だった。懐かしい記憶が頭を駆け巡る。


 入場ゲートを見つめる私の目の前に、にゅっと手が差し出された。


「なに?」

「入園料!」


 遅刻現金って……と舌打ちし渋々財布から千円札を取り出しその手に乗せると、俊輔は勝ち誇った顔でにやっと笑いチケット売り場へ向かった。


::


「すっごい懐かしいー」


 入場ゲートの先は、芝生と花の広場だ。昔と何ら変わらない佇まいに、まるで子供に戻ったみたいに気分が高揚して走り出した。


「転ぶなよ」

「余計なお世話!」


 広場の脇に園内の案内板を見つけ、走り寄った。後ろから怠そうに俊輔が着いてくる。人を連れてきておいて、その態度はなんなのだ。


「へえ、ボートもあるし、ねえ見て見て! ミニSLだって! キャンプ場まであるよ? すごいね、何か色んなものができてるねぇ。前は、ドラム缶池と芝生の広場とサイクリングコースとアスレチックと動物ふれあい広場しかなかったのに」

「そりゃ変わるだろ? 何年経ってると思ってんだよ?」

「へへ……」


 俊輔の言うとおり。私たちが最後にここへ来たのは、小学校卒業時のお別れ遠足。あれから……やっぱり数えるのはやめておこう。


「どうする? 先、飯にするか? おまえ、腹減ってんだろ?」

「ん?」


 ふと俊輔の手元を見ると、派手な柄の風呂敷包みと水筒がぶら下がっている。なんだろう。気を利かせて弁当でも持参したのかと、ちょっと嬉しくなった。


「え? もしかしてそれお弁当? すっごーい。気が利くじゃない?」

「……どこで食う?」

「んと……いつもお弁当食べてたとこがいい。どの辺だっけ? 芝生の広場があったでしょ? あそこなら水道あるから手も洗えるし良いんじゃない?」


 こっちだと先に歩く俊輔の後を付いていった。さっきまでかったるそうだったのに今度は早足だ。こいつ、いったい何を考えているのかと背中を見ながら思う。やはり少し挙動不審のような気が。何か疚しいことでもあるのだろうか。



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