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わたしたち、いまさら恋ができますか?  作者: いつきさと
目に見えるものがすべて、ではない。
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 駅までの帰り道は、もう通勤時間が過ぎたのか、歩く人も疎ら。季節もすっかり春、夜風も冷たいと感じるほどではなくなった。


「なかなか良いお店だったでしょう?」

「はい。カレーもすごく美味しかったですけど、特にあのコーヒー……」

「やっぱりそこか。藤本さん、コーヒー好きだもんね」

「私、他のものは何も無くても平気ですけど、コーヒーが無いと生きられない人なんで」


 ふふっと笑って隣を見上げると、山内さんは何を思っているのか遠い目をして微笑んでいる。


「実は今日、あの店に藤本さんを連れていったのは、僕のことを知って欲しかったからなんだ」

「え……?」

「そんな……驚いた顔しないでよ。友だちなんだからお互いのこと知って悪いことはないでしょう? 僕は藤本さんに僕自身を知ってほしいし、藤本さんのことも知りたいって思ってるよ」


 友だちになりたいなんて言葉を、この人の口から聞く日が来ようとは。公私をきっちりと分ける人だとの印象が強かっただけに意外だ。


 元々、山内さんは話が上手で、冗談を言って笑わせられたり揶揄われたり、上手く乗せられて仕事をさせられることもあったけれど、最近の山内さんは、以前とどこか少し違う気がする。


 何か心境の変化でもあったのだろうか。突然距離を詰められているようで困惑してしまう。



 今日も帰ったら俊輔が我が物顔で仕事場に陣取っているかも知れないと思うと、なんとなく真っ直ぐ帰る気分になれない。だから、山内さんと別れた後で向かうは駅前のコンビニ。


 入り口で普段は持たないカゴを手にして、冷蔵庫に入っているお酒の在庫を思い出しながら、スナック菓子やお酒の当てになりそうなナッツ類をぽんぽん放り込む。


 ちょっと買い過ぎだが消費する口はたくさんあるからまあいいかと、大袋をぶら下げタラタラと歩いた。


 玄関の鍵を開け中へ入ると、灯りはまったく付いておらず人の気配も無い。俊輔は残業なのか、それとも、今日は自宅へ帰るのか。


 連絡くらい寄越せばいいのにとボソッと独り言ちたところで、それではまるであいつがここに帰ってくるのが当然と思っているのと同じだと気づく。


「なに考えてるんだか……」


::


 カタログのデータがやってくるであろう日まで後数日の猶予。一旦作業開始となると、打ち合わせ以外の外出はし難くなる。まだ余裕のある今のうちに、気晴らしも兼ねて、生活必需品やついでにちょっとした食料品の買い出しも済ませておこうと、商業施設が多く集まる一駅先の繁華街へやってきた。


 この辺りにはオフィスも多いのだが、さすがに週末とあってビジネスマンふうの人々の往来は少ない。天気は晴れ。気温は暖かくも寒くもなくて、如何にも散策日和だ。歩道近くにまで並べられたカフェテーブルでは、カップルや家族連れがそれぞれの休日を楽しんでいる。


 目的は用足しだったはずなのに、足が向かう先はやはり本屋。いつ如何なる場合でも一旦外出したらまず本屋に立ち寄ってしまうのはもう病気の域。向かう先の棚は当然、アート・デザイン関連。


 山内さんにはストレス発散のために衝動買いをすると言ったが、買うのは専ら本。実はちっとも女の子らしくない。


「どうしよう……。これ買っちゃったら、他の物はもう持てないし……」


 この類の本は一冊でも大きくて重い。しかし、本という物は、出会い頭が勝負。次に立ち寄ったときに必ず会えるとは限らない。今ここで買うか、買うまいか。手に取っては棚に戻すを繰り返し悩んでいるとき、後ろから誰かに声をかけられた気がして振り返った。


「こんにちは」


 一瞬、誰だかわからなかった。

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