戦闘用ホムンクルス
「これは!?」
アリステラが部隊を率いて異端の村に着いたとき、生きてるものは誰も居なかった。
ただ一人、血に染まった白長髪の幼い少女が立っていた。
「誰だ君は? ギルの仲間なのか?」
「私はご主人様の戦闘用ホムンクルスのヨツバです。あなたは敵ですね」
ヨツバはナイフを構える。
「殲滅します」
ドクンとヨツバの頬の赤い幾何学模様が脈打つ。そして一瞬にしてアリステラに肉薄した。
「速いな。だが君の一撃は軽いぞ」
だが、元であったとしてもアリステラは世界を救った勇者。容易くヨツバの刃を剣で受け止める。
ヨツバはナイフを引き、アリステラの剣を握る手を蹴り上げた。
アリステラの胴ががら空きとなる。ヨツバはすかさず魔法を唱える。
「《火球》!」
「《雷切》!」
アリステラの大上段から振られた稲妻を帯びた剣にヨツバの魔法は爆発して阻まれる。
爆発から逃れたヨツバは退いて態勢を整える。
「!?」
だが黒煙が晴れる前に肉薄してきたアリステラに腕を捕まれる。
「《雷光》!」
「きゃあああ!?」
アリステラの身体に電流が流れ、それがヨツバの身体を焼く。
「ホムンクルスはゴーレムと違って人間に近い身体だ。電撃は効くだろ?」
アリステラは片腕の腕力だけでヨツバを家屋へ投げ飛ばす。
背中から衝突したヨツバの肺から酸素が奪われる。
「かはッ!? けほッ!?」
呼吸をしようとするが上手く出来ない。ただ、地を這うだけ。
「ギルは何処だ、ホムンクルス?」
アリステラはヨツバの腕を掴み、仰向けにさせて喉元に切っ先を向ける。
「答えなければここで殺す」
「お答えできません」
剣呑な瞳に睨まれてもヨツバは答えない。
「《火球》!」
アリステラに掴まれていない方の腕を彼女に向けてヨツバは魔法を唱える。
「《雷光》」
アリステラに流れる電流がまたもヨツバの攻撃を封じ、カウンターとしてヨツバを焼く。
「ご主人……様」
ヨツバが動かなくなった。
「このホムンクルスは捕虜として扱え。我々は敵の大将を討ちに行く」
「その必要はないよ」
アリステラの前に現れたのは全身甲冑のギル。
「来たか、ギル。カルネラは一緒じゃないのか?」
「カルネラは奥で休んでるよ」
面頬から覗くギルの瞳はアリステラに捕らわれたヨツバを捉える。
「生きてるよね?」
「加減はした。だが、君が降伏しなければ、殺す」
「それはないよ」
ギルは鈍重なはずの巨体で駆けた。
「どうして!?」
アリステラはヨツバを投げ飛ばす。
「はあああああッ!!」
ギルが大上段からバスターブレードを振り下ろす。アリステラは剣で攻撃を僅かに逸らす。
地面が抉れ、ギルとアリステラの瞳が交差する。
「あの子は君の仲間だろ? どうして見捨てた!?」
「アリスちゃんを信じてたからだよ」
ギルは兜の下で微笑む。
「君は子供を殺さない」
「子供だと? あれは殺戮兵器だ。実際に多くの人間を殺している」
「それならどうして止めを刺さなかったの? それはアリスちゃんが優しいからだよ」
「違う。殺さなかったんだ。捕虜にすれば君が助けに来るからな」
「でも君は僕の攻撃にヨツバを巻き込まなかった」
「捕虜として役に立たないと判断したからだ!」
アリステラは稲妻を帯びた剣撃をギルに打ち込む。
「!?」
ギルは堪えていた。いや、よろめきもしない。
「雷が効かないのか?」
「効いてるよ」
ギルはアリステラを見下ろす。
「でも、僕の身体は人間じゃない。本気を出さないと負けるのはアリスちゃんだよ?」
「!?」
ギルはバスターブレードでアリステラを薙ぎ払った。
剣で刃を防いだアリステラだったが、ギルの膂力で宙を舞う。
「分かったよ、ギル」
着地したアリステラはギルを見据える。
「少しだけ本気になるよ」