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根なし草の旅商人

作者: 蟹の殻

ある日、石を拾った。

尖った、不思議な形の石だ。

特に何か価値があるわけでもないが。

商人としては些か可笑しいとも思うがこれも私の悪い癖だ。

自嘲気味に笑いつつ、しっかりと内ポケットに石を仕舞った。



初老の大工に出会った。

どうやら針金を結ぶ為の道具を忘れて来たらしい。

そういえば―――

大工に石を売った。

人生とは解らないものだ。

代わりに鉄製のパイプを買った。

もう吸うのを止めてしまったらしい。



ふらりと立ち寄った街で知り合いの詩人に出会った。

話を聞くと、どうやら彼はもう歌いたくないらしい。

ならば、と思い、パイプを売った。

彼は煙を大きく吸い込むと酷く噎せ返っていた。

しかし、そのお陰で歌は歌えなくなったようだ。

代わりに私は彼から声を買った。

もう使うこともないだろう―――

と、彼は私に筆談で伝えてくる。

彼の歌声がもう二度と聞けないことを、少し寂しく感じた。



街道を歩いていると、声を失った少年に出会った。

少年は必死に私に何かを伝えようとしていた。

どうやら声が欲しいらしい。

恋人と話がどうしてもしたいそうだ。

少年に声を売った。

少年は満面の笑みを浮かべて恋人と話していた。

私は少年に聞いた。


―――何か売れるものはないかね?


すると少年が言った。


―――なら、この瞳を売ろう。


声に釣り合う物は少年は瞳しか持っていなかったようだ。

恋は盲目、とは少し笑えないな。



船の上で鳥に出会った。

どうやら彼は仲間のなかで最も目が悪いらしい。

そのせいで獲物を捕まえられず馬鹿にされたそうだ。

私はいつもしているように瞳を売った。

けれど目が良くなっても鳥は獲物を捕らえられなかった。

そもそも翼に問題があったようだ。

心が折れたらしく、もう飛ばないそうだ。

私はなにも言わずに翼を買い取った。



――私は商人。

扱う商品も相手も選ばない。


貰い受ける物はいつも一つだけだ。




……




「おい、知ってるか気味の悪い商人の話」

「ああ、あの……」

「そう、買ったやつが全員死ぬとか言う、あれだ」

「だが、望むものは何でも揃ってるらしい」

「本当か?」

「ああ。 女、武器、地位。 更には時間とか、とにかく何でもある」

「そんなもの、あるわけないだろう。 くだらない」

「ああ。 ただ……」

「ただ?」

「……そいつは死神なんだそうだ」



……



大工は屋根から足を滑らせた。

詩人は首を吊った。

少年は恋人の浮気に耐えられず身を投げた。

鳥はその身を土の上で朽ちらせる。


さて、今日はどれくらい買い取れるだろうか。


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