プロローグ
「私を助けてくれた人が、勇者様になるなんてね…」
王女様は驚いたように呟く。俺の手には誰も抜くことができなかった聖剣・クレイモアが、まだ実感できぬ現実の重みとリアル大剣の重みでいっぱいだった。
てか、まだ実感湧かねえんだけど。ラノベみたいに異世界転生なんて信じらんねえよなぁ。しかも、転生した瞬間、目の前で汚いぶにぶにの肉塊に襲われてた王女様を助けて、王城行って、流れで聖剣抜いたら俺が勇者なんて、涙出てくるほど嬉しいし、若干、夢オチの可能性もあるから怖いんだけど。まぁ、今を楽しむって大事だよね!
俺が嬉しさとこれからを考えてニヤニヤしていると、王様から声がかかった。
「おお、娘よ、こんなニヤニヤしてる気持ち悪いのが勇者なんて情けない」
この野郎!ふざけんじゃねぇよ!聖剣抜けちゃったんだから、仕方ないだろ!ていうか、こういうときは『頼んだぞ、真の勇者よ』とか応援メッセージ的なのをかけてくれるのが普通だろ!お前の右穴からしか出てない中途半端な鼻毛の方が、気持ちわりーよ!
俺は怒りを抑え、おでこの左上に浮き出た血管も抑えつつ、不満にオブラートに包み、鼻毛の王様に伝えることにした。
「おい、鼻毛出てるおっさんよぉ〜、ちょっと言い過ぎじゃねぇかぁ、おい?王女様もなんか言ってやってくれよ」
「お父様に激しく同意」
「おいっっ!!」
名人芸ともいうべき俺のフリとツッコミで、王様のボケを成り立たせてあげる優しさ。これが世界を平和にしていく。 ……え?王様のはボケじゃなくてガチ?そんなこと言ってる奴は、ケツの穴から大根突っ込んで、中で大根おろしにしてやるよ。
まぁ、とりあえず勇者になれたんだからテンション上がって上がって上がってるね!これが実は夢オチなんてないよなぁ?ていうか、こういうのは思ったら負けなんだよ。これは夢オチじゃない…夢オチじゃない…夢オチじゃない……。
フラグにならないことを願いながらも、今は勇者になった喜びを大声で叫ぼうと思う。
「まぁ、王様と王女様はあんま協力的じゃないと思うんですけど、これから頑張って勇者するんで、応援よろし----------------------------」
目が覚めると俺の部屋だった。
「夢じゃねえかよおおおおおアアアアアアア!!!!」
フラグ回収早すぎィ!?夢オチとか信じらんねえよおおおお!めっちゃいい感じに進んでたよねえ!王女様も助けたのにいいい!王様の悪口にも耐えて、頑張ったよね?
「夢じゃありません、現実です!」
「夢じゃねえのかよおおおおおおお……え?誰?」
え、なにこの声…?暗いから結構怖いんだけど…。え、誰かいるよね?声したよね?見えないよね?つまり怖いよね?妹?
だんだん暗がりに目が慣れてくると、シルエットがはっきりしてきた。え、女?あら可愛い。可愛い、美しい、綺麗。なんかいかにも、異世界感出てる服装してるんだけど。てか、夢じゃねえの?
「私はこの世界の住民ではありません。違う世界で女神をしています」
「女神様でも、急に来ると怖いんすけど…。でも、あれって夢じゃなかったんですか!」
俺がつい、異世界の話に熱中したのと、女神を名乗る女性の太ももに発情したことで興奮気味に聞くと、女神様は落ち着いて話を続けた。だって、いい脚なんだもん!
「私は色々な世界の人に夢を見させて、私の世界を助けてくれそうな人を選出しています。そしてあなたはその素質があることがわかりました…」
あ、脚閉じちゃった…。バレたな…。でも、このラノベ展開は……!救ってください系だな!
「お願いします!私の世界を救ってください!寝ている間だけ!」
「よ、喜んでお助けしますうううう………ん?寝てる間だけ?」
謎のルールなんだけど。せっかくだから、ずっとあっち連れてってよ…。こうして俺の寝ている時間だけ勇者になる、かなりラノベでかなり俺の精神的にも肉体的にもキツイ、二足のわらじな生活が始まるのであった……。
「お兄ちゃん!一人でうるさいよ!」
「あ、ごめん」
今ので締めさせろよ……。