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第1話:メイドと僕

夢を見ていた。

横断歩道の中央で転倒した老人を助けたところ、何と大規模な会社の社長だったのだ。

命の恩人の僕は会社の重役につき収入もうはうは、勝利の人生を約束されたのだ。

そして愛犬ポチとの散歩の途中、いきなり地面に穴が空き真っ逆さまに。

頭から地面と思えない黒い空間に頭を打ち、目を覚ました。


目を開けた先には横になって一部崩壊したベッド。

そして僕を軽蔑の目で見る謎のメイド服の女性。

左手に持ったトレイには紅茶と朝食と判断したものが入っていた。

「……、待て、不法侵入だぞ!?」

うーむ、よく見ると僕は微妙に横たわったベッドの上で壁に頭を向けているのだ。

…この謎のメイド服がベッドを卓袱台返しの如く僕ごと壁に叩きつけたに違いない。

…って絶対それはないだろう。

華奢な体にそこまでの力を出せそうな気はしない。

というよりほっそりしていてお嬢様タイプだ。

凄く薄い紫色のポニーテールは僕にはぐっときた。

…待て、何だあのヘッドドレスの間の白いものは…。

近代の最終兵器、『ネコ耳』ではないか。

以上のことより結論を出す。また夢か。

「…ぐぅ」

「ご主人様、ぶっ飛ばしますよ?」

待てぃ、夢じゃないじゃないか。

「いや、すまない。どうも僕の前にネコ耳メイドという伝説の生命体が見えるのだが」

「私の前にはご主人様という霊長類最悪の生物が見えますね」

「メイドとして主人を霊長類扱いとか酷いと思う。…というより主人って僕?」

「はい、本日を持って貴方に仕える事になりました、名前は…別にいいですよね」

「どうもよろしく。でも名前は知りたいな」

「ご主人様に教える名など持ち合わせてないです。…必要ならば三枝(さえぐさ)と及びください」

「…失礼すぎだと思うけど」

「気のせいです。さっさと食事を食べて居間に来てください。車を用意します」

「着替えは?」

「そこのタンスに入っています。今日は校長との面会ですので相応しいと思う服を選択してください」

タンスを開ける。

そこにはメイド服、チャイナ服他、マニア向けの服が沢山入っていた。

「…これを着ていけと?」

「校長はそっち系の趣味の持ち主ときいて用意しました。三枝を褒めてください」

「…男が着てもキモいだけだよ?」

「私の知ったことじゃないです。…不満ならば右側のタンスを。今までのご主人様の安価でとてもお洒落と縁のなさそうな服が無造作に放り込まれてます」

タンスを開ける。

…これは酷いとしか言えない。

ぐちゃぐちゃというのを通り越して妙な芸術性を醸し出している気持ち悪い服のオブジェ的なものが出来ているのだ。

「…ねぇ三枝さん、これは一体?」

「私の最高傑作の一つ『叫び』です。…どうです?」

自慢げにやたら大きな胸を反らす三枝さん。

勘弁して欲しい。

「…壊しますよ?」

「どうぞ。別に適当に弄くっていただけですし…」

服の塊の中から中学生の時に使っていた制服を取り出す。

…皺だらけでどうしようもない。

制服をベッド(?)の上に置きつつ、僕はトレイの上の朝食を手に取る。

ご飯、味噌汁、焼き鮭、そしてゆで卵三つ。

「…三枝さん、このゆで卵は?」

「一つはノーマル、一つは中に七味唐辛子を、一つは中に山葵を入れました」

「僕、食べないよ?」

「一つだけで良いので食べてください。今日の車の運転手は三枝です。…学校に遅刻、最悪の場合行けなくなりますよ?」

「どうしてそこまで僕を陥れようと…」

「ご主人様が面白いからです」

そう満面の笑みで答えた三枝さんは子供のように無邪気だった。

「そうそう、ご主人様。間違えて予定より二時間早く起こしてしまいました」

「…はい?」

「時間に凄く余裕があるという事です」

「絶対わざとだよね?」

「気のせいです。…さて、ご主人様。三枝は車を用意しておきます。ご主人様は朝食を食べたら適当に寝ていてください。制服にはアイロンをかけておきます」

そう言って三枝さんは部屋を出て行く。

新しくきたこの家には有能で無能なメイドもついているようだ。


まず、鮭と味噌汁をおかずにご飯を完食。

残りは最大の敵、ゆで卵だ。

三つのゆで卵を全て半分に割る。

一つは黄身に赤い粉末、一つは黄身自体変色して微妙に黄緑っぽくなっていた。

「ふ、この勝負は僕の勝ちだ」

勝利を確信し普通そうなゆで卵を口に運ぶ。

途端、舌が焼け付くような痛みを感じた。

抜け目のないメイドはからし入りを用意していたのだ。

くそう、こうなったら不貞寝だ…。

最初は純情なメイドの予定だったのです。

失敗した…。

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