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ララは、朝食を取りに行っていた。
(今日は、失敗しないぞ!)
気合を入れて列に並ぶ、ところが、足を踏まれてしまう。
「きゃっ!」
「また、あのメイドよ、ララ・メローだわ」
誰かが笑いながら、そう言っていなくなった。足を踏んだのは、わざとだろうと思い振り向いてにらみ付けると。
「ごめんなさい~」
と謝って来た。たぶん、ララと同じ位ドジな女の子なのだろうと思って、許してあげることにした。
今日は、少々のハプニングはあったが、うまく料理を受け取ることが出来て、キャイルの所まで、うまく持って行くことが出来た。
「王子様、朝食お待ちしました」
「ごくろう、おっ、魚だ! うまそう、いただくよ」
「はい」
キャイルとララはしばらく談笑し合い、その後、ララは、洗濯をしに行った。
「お前もやればできるのね」
今日ぶつかって来た女の子を二人のメイドが脅している。
「次は、何してもらおうかな」
「ララ・メロー、鼻につくものね」
二人のメイドが高笑いする中、どんどん小さくなっていく、ぶつかってきた女の子。
(かわいそう)
「ちょっと、そこのメイド、私には、何したっていいけれど、他人を巻きこんでまで、いじめなんかして恥ずかしくないの?」
「はっ? あなたこそ、王子に取り入って恥ずかしくないの?」
「だから、取り入ってなんかいないわ」
「ウソしか言わないのね、うわさ通り」
二人のメイドは意地悪く笑う。
「そこ、何しているの? 早く洗濯しなさい」
上の階級のメイドに怒られる。
「ララ・メローがさぼっていたので、叱っていたのです」
「ララ・メロー本当なの?」
「いいえ」
「あなたは、ウソばかりつくから正直、信頼はできないけど、話を聞いていたら、ただのいじめにしか聞こえなかったからね~」
上の階級のメイドが、そう言って、二人のメイドを怒りだした。
ララは、二人から離れて、自分の持ち場で洗濯を終えて、キャイルの元へ向かった。
「王子様、来ましたよ」
「おう、ララじゃん」
キャイルは仕事をしていた。
「サグナから聞いたのだが、メイド達の中で、いじめが起こっているらしいな、大丈夫か?」
「ああ……えっと……」
「どうせ、巻き込まれているのだろう」
「! なぜ、わかるのです」
「君位しか、いじめの標的になりそうなメイドがいないからかな?」
「……」
ララは少し考えた。
(王子にはウソつけないわね)
何もかも見透かされてそうで、何も隠し事が出来ない。
「ララ、もし、辛いのなら、メイド達と会わないようにもできるけど……それは、メイドを辞めることになるからな」
「メイドを辞めても、私は、行くところが無いのですよ、絶対にやめませんよ」
「そう言うと思った。離れの王宮で、侍女をやるのはどう?」
「王子様、侍女は身分の高い方の仕事です」
「そうだね、だめだよね~」
「……」
ララは、下を向いて考えた。
(私は、後宮に入れる身分じゃ無い物)
例えキャイルが、自分を好きに成ってくれたとしても、二人で幸せになることは出来ない事を知っているから、余計さみしくなる。
「どうした、ララ」
「いえ、何でもないです」
笑顔を作った。
「もしもですよ、もしも、私の父が暗殺者だったらどうしますか?」
「どうもしないよ、君のことじゃない物」
「!」
「それで、今のもウソ? そんなわけない物ね」
「はい」
ララは笑顔で返事した。
「あの、メイド長にいじめの件で呼ばれると思うので、先に行っておきますね」
「いってらっしゃい」
ララは、部屋を出て行った。
「メイド長」
「ララさんですね、あなたをいじめた犯人は、捜すのが困難な様よ、書類をばら撒いた方は、まだ、見つからないもの、でも、今日のいじめの犯人は、しっかりしぼっておいたから」
「ありがとうございます」
「ララさん、私も出来る限りの事はします。でも、たぶん、いじめは絶えないでしょう、だから、がんばってくださいね」
「はい」
あの厳しいメイド長が応援している事を知って、うれしくなって、元気よく返事してしまった。
「ララさんは、根性だけはあるようですね、王子もそこを買ったのでしょうね」
メイド長は、笑いながら続けて。
「でも、なぜあなたが急に王子付きのメイドになったのか、真の理由は全く分からないけどね」
(まさか、ネコミミ隠しとも言えない)
そう思って、軽く笑った。
◆ ◆ ◆
その夜、ララはキャイルの部屋で寝ていた。
「王子様、おやすみなさい」
「おやすみ」
ララはすぐ眠ってしまった。キャイルもすぐに眠りについた。
そして、朝になった。
「今日は、起こさないわ」
そう言って、メイド服を着る。
「ララ、おはよう」
キャイルは、ゆっくり起きて来た。
「ララ、今日も早いね、そういえば、ララって、時々いなくなるって聞くけど、どこ行っているの?」
「……ヒミツです」
「そのヒミツ、俺だけに教えてくれない?」
「嫌です」
ララは、キャイルも突っぱねた。
「今から、ちょっと用事があるので、行かせてもらいます」
「? いってらっしゃい」
ララは鼻歌を歌いながら、裏庭に向かった。
「やあ、ララ」
裏庭には、キャイルがいた。
「急にいなくなると聞いて、ここだと思ってね、急にいなくなっても、すぐに戻ってこれて、誰も行かない場所は、裏庭だけだと思ったんだ」
「王子様には、バレバレでしたか……」
「何をしているかも当てててほしい?」
「いえ、見せますよ」
そう言って、裏庭の奥に入って行く。
「こんな奥にいるのか?」
ララの手元をちらっと見て、キャイルがそう言う。
「見てください、かわいいでしょう」
そこにいたのは、うさぎだった。
「君が、パセリとにんじんを持っている時点で気付いていたよ、うさぎを飼っている事をね」
「そうですか」
「名前は、何ていうの?」
「ラビットとバニラ」
「そのままだね」
キャイルがラビットの方を持ち上げると、ラビットは全く抵抗せず、大人しく触られている。
「こっちの子の名前は、何ていうの?」
「ラビットよ、かわいいでしょ」
「うん、かわいい」
キャイルは微笑んだ。その笑顔に少しドキッとした。
(気のせいよ、気のせい)
ララは心に言い聞かせた。
「これで、二人だけの秘密が出来ちゃったね」
「えっ? あっ、そうですね」
「また、ここに来てもいいかな? 君のうさぎに会いたいと思ってね、何て言ったってかわいいから」
「はい、いいですよ、うさぎはさみしいと死ぬらしいですから、にぎやかな方が良いと思います」
「そうだね」
キャイルは優しい顔をしている。
「あの~ありがとう」
「何が?」
「内緒にしてくれるのでしょう、メイド寮はペット禁止って言われているのですから」
「う~ん、俺が思うに、俺は君を利用しているんだ。だから、君の秘密を守るのは、当たり前なんだ」
「そ、そうよね」
キャイルが自分を利用している事をララは思い出した。
(ちょっと、心を許しすぎたかな?)
キャイルを見ると、うさぎにエサをやっている。
「おいしそうに食べるな」
「さあ、バニラちゃん、ラビットちゃん、ご飯でしゅよ」
「ふふふ」
キャイルが笑い出しそうになってふるえている。
「!」
「君、うさぎには、そんなしゃべりかたをするんだね、かわいくていいじゃないか、ははは」
「完全にバカにしていますよね~」
「そんなことないよ」
キャイルは、笑いが止まらないようだ。
「もう! やっぱり、バカにしているわ!」
「ごめん、ごめん、あまりにもかわいいから、いつもの君じゃないみたいで、笑いが止まらなくなってしまった」
「か、かわいい」
少し恥ずかしくなってきた。
「顔、真っ赤だよ」
「……」
何も言えなかった。
「とりあえず、ここに来たら、君に会えるってことでいいかな?」
「は、はい、でも、部屋に呼びつけて下されば、いつだって王子様のところに行きますけど?」
「そう言うのじゃなくて、会えるか、会えないかのドキドキを味わいたいのだよ、わかるかい?」
「? よくわかりかねます」
「男のロマンだよ」
「……どうなんでしょうか? 私は女ですからわかりませんが……」
ララは少し引いてそう言った。
「女には、わかってもらえなくても良いよ」
「そうですか」
ララが時計を見ると、もう一〇時を指していた。
「いっけなーい、仕事があったのよね、今からでは、メイドの先輩達に怒られてしまうわね」
「ちょっと、その時計、どこかで見たことあるな?」
茶色のベルトに、文字盤の文字が歪んでいる模様の時計をキャイルに見せる。
「父の形見ですけど」
「そうか」
キャイルは声を落としてそう言った。
(何かあったのかしら?)
ララは不思議に思う事しか出来なかった。
「仕事、遅れるよ」
「は、はい!」
ララは、走ってメイドの仕事場へ向かった。