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部屋を出て行ったララは、料理の仕度をしているメイド達に声をかけようとして、戸惑っていた。
「あの~王子様が、傷が痛むので、部屋で食事をとりたいと言っていたのだけど……」
「そう、それなら、私が届けようか?」
ベテランのメイドがそう言う。
「いいえ、王子様は私を指名してくれて……」
「また、ウソついているの?」
「ウソじゃない」
「そうやってウソばかりじゃない」
「あらあら、みなさんどうなさったの」
王妃が現れたので、みんな驚いている。
「ララ・メローが、王子に指名されたと言っているんです。でも、ララ・メローはウソばかりつくから、本当な事のわけがないともめていたんです」
「そうですか、ララ・メローさん、こちらを向いて」
「はい」
「……あら、ウソをついている人の目では無いわね」
辺りがざわつく。
「この子に届けさせましょう」
「はい、ありがとうございます。王妃様」
(お金がかかっているんだから、約束を破るわけにもいかないのよね)
心の中でそう思って、料理を運ぶ。
「王子様、持ってきましたよ~」
「ご苦労だった」
「大変だったんですよ」
「そうだろうとは思っていたんだよ、君は落ちこぼれだから、王子が指名したなんて言っても誰も信じないだろう、てね」
「私を試したんですか?」
「うん、それで君は合格、それとね、君が、俺付きのメイドになった事、みんなに伝えておくからね」
「えっと、お願いします」
ララは頭を下げて部屋を出て行った。
◆ ◆ ◆
ララは、メイド寮で相部屋のリサと部屋にいた。
「私、王子付きのメイドにさせられたんだけど……」
「また、ウソを言っているの?」
「本当よ、だって、明日人事異動があるじゃない」
「そうね、急に人事異動が決まった時には、驚いたわ、ララはメイドのランク、下にならないといいね」
「リサは昇格しそうだね、相部屋の相手も変わるのかしら?」
「そうね、何だかんだいって、ウソはつくけど、ララは、とてもいい人だったと思っているからね」
「ありがとうリサ」
二人で抱き合った後、リサは、すぐに黒くて長い髪の毛をとかして、鏡の前に座っている。鏡には、リサの東洋系の美しい顔がうつっている。
「リサの髪はサラサラだね」
「どうせ、ララの事だから、何の努力もしていないと思っているんでしょう? 私は、髪に効く食べ物を出来るだけとるようにしているのよ」
「へ~それで、サラサラなのか」
「髪は女の命よ、ララもきれいにしなさい」
リサにそう言われて、鏡の前に座らされる。
「こんなに伸ばしちゃって、少し切ろうかしら?」
「少しだけにしてね、ばっさり切っちゃうと、似合わないから」
「わかった、わかった」
リサは、髪の毛にはさみを入れていく。
「あっ!」
「何?」
「何でもないわ」
そして、仕上がりは、ロングからミディアム位まで切られた。ララの金色の髪は、ララの容姿に似合っているので、文句はなかった。
「リサ、ありがとう」
「いいえ」
散らばった髪の毛をほうきで片づけて、リサは、ベッドの上で寝だした。
「今日も疲れたわ」
「大丈夫、リサ?」
「ええ、大丈夫よ」
ララも眠ることにして、ベッドに入った。
「明かり消して……」
「はい」
ララは、わざわざ明かりを消しに起き上がった。
「おやすみ」
「うん、おやすみ」
◆ ◆ ◆
そして、次の日、人事異動では。
『王子付きメイド ララ・メロー』
と書かれていた。
「ララ、昨日言っていた事、本当だったのね、大出世おめでとう、私も、少しランクが上がったわ」
リサはそう言って、いなくなった。
「部屋割りは……」
『メイド長 カリーナ・ロハス
王子付きメイド ララ・メロー』
の文字が書いてあった。
(ひ、ひえ~、メイド長と同じ部屋なの~! 毎日、ビシビシ指導されちゃいそう、怖いわ……)
頭がボーとして、つつーと涙が流れた。