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次の日、うさぎ小屋へ向かうとキャイルがいた。
「ララ、やっと来た」
ラビットとバニラはキャイルに懐いている様だった。
「まさか、王子が、私の休みの間、二羽の面倒を見てくれていたんですか?」
「そうだよ、おかしい?」
「い、いえ、すみません」
「そこは、ありがとうって言われたかったのに」
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
キャイルは優しく笑う。
「帰ってみて、どうだった?」
「私の住んでいた屋敷は、別な女性が買い取っていて、きれいに使っていただいてうれしかったです」
「そうか」
「その女性、おかしいんですよ、いわくつきの家でも、全く気にしない、なんて言うんですよ」
「それは、不思議だね、家主、名前は何ていうの?」
「マーガレット・ワイスだって」
「ええ」
「そいつ、ネコミミにした魔女だよ」
「え~!」
ララは心底驚いて、大声を上げた。
「ララ、お手柄だよ、よく、見つけて来てくれたね、こっちが、いくら探しても見つからなかったって言うのに」
「い、いえ」
キャイルがまた、手を握って来たので。
「王子、魔女は、強いですか?」
「ああ、とても……」
「私に考えがあります、魔女を捕まえるのは、私に任せて」
ララはそう、キャイルの耳元でささやいた。
「えっ? ララ本気?」
キャイルは驚いている。
◆ ◆ ◆
キャイルはサグナの元へ向かった。
「サグナ! 魔女の居場所が分かったぞ」
「見つかったのか、よかったですねキャイル様」
「ああ、何と、ララが見つけて来たんだ」
「そうですか、大手柄ですね」
サグナは、そう言って、剣やら弓やらを持ち上げる。
「さあ、魔女退治に行きましょう、その前に、ネコ化は進んでいたりしますか?」
「そういえば、ネコ化は進まないな、結局、ネコミミだけだったな」
「そうですか、約束通りです」
「えっ? 何が?」
「いえ、何でもありません」
サグナは慌ててそう言った。
(変だな?)
少し、サグナに疑問を持った。
「魔女を狩る、チームを結成しましょう」
「いいや、魔女は、どうせ、一対一を強要してくるだろうから、ララだけ連れて行こうと思っている」
「何! 女性を戦場に?」
「いいじゃないか、ララ位連れて行っても、ララが見つけて来たんだし」
「キャイル様が良いと言うなら……」
「そうか、サグナも良いと思うか」
キャイルは喜んで笑った。
◆ ◆ ◆
すぐに、ララも準備して、馬車に乗った。許可は事前に取っておいたのだ。
「カルトアに行くぞ」
「「はい」」
サグナとララが返事した。今度は、森を突っ切って行く。
「サグナもいるし、安全だろ、女の子の一人旅とは違ってさ」
キャイルがそう言う。
「そうね」
ララは笑顔で頷いた。
そのまま、馬車は森を抜けていく、そして、見えたのは、ララの住んでいた屋敷だ。手入れのされた古い洋館に見える。
「立派な屋敷だね」
「そうなの、少し嫌だけど」
前に来た時は、改装の工事をしたのだろうと思っていたが、あまりにもキレイになり過ぎていたので、今更だが、怪しく思えてきた。
(魔女の屋敷なら納得だわ)
ララは心の中でそう思った。
「こちらが入り口です」
『どちら様?』
「前の屋敷の持ち主だった。ララ・メローです」
「はい、お入り」
そう、マーガレット・ワイスが言って、中へ入れてもらった。
「マーガレット・ワイス、話がしたい」
「まあ、王子じゃないの、ネコミミ似合っているわね」
「それよりも、早く術を解け」
「だってさ、サグナ」
マーガレット・ワイスは、サグナの方を見て笑った。
「どう言う事だ! サグナ」
「キャイル様どうか、お許しください、実は、マーガレット・ワイスと以前戦っておりまして、その時にマーガレット・ワイスが「王子をネコミミにして、結婚できなくさせてやりましょう」と言うので、つい乗ってしましました」
「何で、サグナがそんなことを?」
「王子に妻が出来るなど、許せなかったのです。それも愛した相手ではなく、隣国の姫など……」
「サグナ、そうか、俺のためにやってくれたのか……」
「はい」
「でも、もう、いいだろ、今は、ララって言う、愛する人と一緒になるんだから」
「はい」
マーガレット・ワイスは、つまらなさそうに。
「それじゃあ、魔法を解けばいいの?」
「はい、お願いします」
すると、キャイルのネコミミは、あっという間に無くなった。
「おお、頭が軽い」
キャイルは頭を振って喜ぶ。
「キャイル様、しかし、ララ・メローでも、私は、少し不満があります。実は、暗殺貴族名簿は、旧作を取って置いているんです。それをばら撒けばすぐに別れさせられます」
そう言って、『暗殺貴族名簿』をサグナが取り出す。
「これがある限り、ララ・メローとは結ばれません」
「サグナ、お前、最初から、俺が誰と結婚するのも反対だったな」
「私のキャイル様ですから」
サグナが、そう言った時、ララがサグナの後ろに立っていた。
「本もらい~」
ララは、そう言って、本を持って逃げ出して、火をつけた。
「ああ~燃えちゃった」
「何と言う事を」
「サグナ、ネコミミを解いたのは、私の弱味を握っているから、私だったら、結婚できなくなると思っていたからだったのね」
ララはすごい剣幕でそう言った。
「は、はい」
「サグナ……」
「ネコミミを生やすだけが、魔女との約束だったので、ネコにはならない事は、わかっていたんです。でも、キャイル様が、より、私の事を信頼してくれると思い、ウソをつきました」
「サグナ、お前は、俺が好きだっただけなんだろうけど、しっかり反省してから、俺の補佐を降ろす事にする」
「キャイル様!」
サグナは申し訳なさそうな顔をしてキャイルの名を呼んだ。
「詳しい罪は、王と話し合って決める」
そう言って、サグナも馬車に乗せた。
「マーガレットさん、私の家、大事にして下さいね」
「もちろんよ、王子と仲良く」
「はい」
ララは、マーガレット・ワイスにあいさつして馬車に乗った。
「ネコミミから、解放されたら、やりたいことがあったんだよね~」
「何ですか、王子」
「ヒミツ」
城に着くと、王と王妃が待っていた。
「キャイル~、おかえりなさい! やっと、ネコミミから解放されたのね、本当によかったわ」
王妃は、そう言ってキャイルを抱きしめる。
「よかったな」
王もうれしそうだ。
「ララを社交界で、紹介しようと思うのだが」
「え~社交界~……」
ララが驚くと。
「当り前の事じゃない、あなたは、王族へ嫁ぐ身なのよ」
「王妃様、本気で言ってらっしゃるのですか?」
「ええ、本気よ」
王妃の、屈託のない笑顔をみつめて、本気なのだとやっと理解した。
「でも、王妃様……」
「ララ、もういいよ、俺が、話を付けておいてやるから、ララは、ドレスを作ってもらわないといけないだろ」
「そうよね、私、メイド服ならいっぱい持っていますが、ドレスなんて一着も持ってないものね」
王妃の侍女に、寸法を測ってもらって、ドレスのデザインが決まる。
ドレスは、ベルラインでかわいらしく、薄い青い色で、レースが、ふんだんに使われている。そして、王族の証のサファイアが縫い付けてある。
「こんなに立派な物をいいんですか?」
「あなたは、姫よ、会場で一番目立つべきですわ」
王妃の侍女は、そう言って、ドレスを着せてくる。
「アクセサリーはブリリアントカットのサファイアのみ使いましょう」
「あれ? サファイアって、王族しか付けちゃいけないんでしたよね?」
「あなたは、姫になるのですから、いいのです」
「私が、姫?」
実感がわかなかった。




