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メイド寮の自分の部屋に入ったララは。
「メイド長、私、休みを取ったんですよ」
鼻歌を歌いながら、旅行カバンに荷物を詰めていく。
「ふ~ん♪ ふ~ん♪」
「楽しそうね、ララ・メロー、そのうちに、王子は別な女に乗り換えているかもしれないわよ」
「ええ~! 王子に限ってありえないですよ」
「その余裕のせいで、後で痛い目に合うのですよ、今すぐ、旅行は止めなさい」
「嫌です」
「まあ、王子に新しい愛人が出来てもいいの」
「違います。王子を信じているんです」
「あっ、ついに尻尾を出したわね、王子との関係、ついに恋人になってしまったのね、捨てられるわよ」
「あの、さっきの話は、願望でして、違います~」
(王子との関係がばれたら大変だわ)
ララは、一人汗をぬぐった。
「旅行楽しみだな~」
メイド長は、面白くない様で、ずっと、こちらをにらんでいる。
(メイド長……)
次の日になって、ララは、キャイルの元へ向かった、とりあえず、一時の別れを告げに向かった。
「王子、行ってきます」
「ララ、もう一度、ギューとさせて、ララが城からいなくなると思うと、本当にさみしいよ」
そう言って、ララを強く抱きしめる。
「王子、痛いです」
「でも、放したら、君は行くでしょ」
「王子! 我慢してください」
「ララ、旅先でナンパされても、付いて行っちゃだめだよ、どんなイケメンに迫られても、付き合っちゃだめだよ」
「……私は、そんなに信頼できませんか?」
詰め寄ると、キャイルは。
「君が、かわいいから、不安なだけだよ、男のさがみたいなものだよ」
「王子ったら……」
キャイルが、あまりにもかわいいので、頭を撫でた。
「私は、どこにもいきません」
「わかったよ」
そう言って、キャイルは、もう一度優しく抱きしめて、額に口付けた。
「また、戻ってきますね~」
「行ってらっしゃい」
歩いて行こうと思っていたのに、屋敷への道には、一台の馬車があった。
「ララ・メロー様ですか? キャイル王子がカトラルまで、乗せていくように言うので、あなたがララ・メローならお乗りください」
「はい」
馬車に乗って、旅が始まった。
「キャイル王子からもらった。袋の中身は何でしょう?」
袋を開けると立派な小さな箱が出てきた。
「何? これ?」
それは、指輪の入っている箱と同じサイズ。
「まさか、本当に指輪!」
恐る恐る開けると、本当に指輪だった。
『これを左手の薬指にしておくと、男が寄らないらしいんだ。ぜひ、してくれないか? キャイル』
と書いてある。
「どうせ、たぬきでしょ、知らないふりして、私と婚約したことにしたいんでしょう? 丸わかりよ、バカ」
そうは言ったが、ララは指輪を付けて嬉しそうにしていた。
カトラルへの道は、長く、馬車は何度も休憩した。
「こんなに遠いなんて思わなかった。地図上では、森を突っ切れば、すぐにつくはずなのに……」
その時、キャイルが、遠回りして、安全な道を行くようにお金をはずんで、御者に頼んだ事に気が付いた。
(確かに森は危険だけど……心配しすぎよ)
少し、うれしくなってしまった。
(王子って、優しいな)
心の中が、じんわり温かくなる。
そうして、長い旅も終わりそうなところまで来ていた。
(カトラルの屋敷)
驚いたことに、屋敷は、きれいに手入れされていて、昔、ララが住んでいた時のままだった。
(どういうこと?)
不思議がっていると。
「どなた?」
女の人に声をかけられた。
「こんな辺ぴな所まで、何の用です?」
「私の実家なんです。ここ!」
「まあ、あなたが持ち主だったのね、誰もいないから、てっきり空家だと思って住んでいましたの」
「そうですか、それより、霊とかでませんか?」
「えっと、いわくつきの家なのかしら? でも、私はそう言うもの大歓迎だから、安心してちょうだい」
「えっ、そうなんですか?」
目の前にいる、二十代後半ぐらいの、優しそうな女の人が言っている事が信じられなかった。
(心の中では、嫌がっているはず……!)
「『マーガレット・ワイス』これが、私の名前よ」
「『マーガレット・ワイス』さんですか、ステキな名前ですね」
「さあ、立ち話もなんだから、中へお入り」
「はい」
ララは、よさそうな人で良かったと思い、安心して中へ入った。
「紅茶派? コーヒー派?」
「紅茶派です」
少し緊張した気分で、中へ入って行く。屋敷の中は、金細工や、白色の家具、高級感を漂わせている。
「あなたの家、お金持ちだったのでしょう? 入居して掃除をしたら、あちらこちらから高級品が出てきたわ」
「そうですか、でも、売り払うとたたられますよ、いわくつきの品ですから」
「まあ」
マーガレット・ワイスは笑った。
(そうか、この人、信じてないんだ)
ララはそう思って、マーガレット・ワイスに忠告することにした。
「実は、父と母が、この屋敷で、毒殺されていまして……」
「まあ、本当?」
「本当です!」
「そうなの」
マーガレット・ワイスは、何もためらわずに紅茶を口にした。
(えっ? 驚くところよね?)
「あらっ、それじゃあ、お嬢ちゃんは、一人で暮らしているのかしら? さみしいでしょうね」
「いいえ、仲間もいますし……」
「そう言っているけど、結婚しているのかしら?」
「指輪は、男避けですよ、冗談でつけているんです」
マーガレット・ワイスは、考えた後。
「お金持ちの彼をおとしたのね、その指輪、五百万位はするわ、あなたみたいな一人暮らしの女が、しゃれでつけるような物ではないわ」
「……そうですよね、彼には、無理やり押し付けられちゃって」
「よっぽど、あなたが大事なのでしょうね」
「い、いえ」
急に頬が熱くなり、ごまかすのにとても苦労した。
「マーガレットさんこそ、なぜ、こんな田舎に来たんですか?」
「それは、いえません、女の秘密です」
「そ、そうですか……」
(この人、怪しいのかも?)
少し疑い出した。
「あの、私、お墓参りに行きたいので、この辺で、帰りますね」
「ええ、良い旅を」
「ありがとうございます」
ララは、紅茶を飲み干して、すぐに旅行カバンを持って立ち上がった。
(お父様、お母様)
二人の遺体は、山の上に埋めてある。お金を使わず、石を置いて、名前を彫っただけの墓だ。
(あ、あった)
墓の前で、しゃがみ込み。
(お父様、お母様、私、幸せに成るんですよ)
と伝えた。花を置いて、お菓子を置いた。
「相手は、王子様よ、びっくりでしょう」
ララの涙が頬を伝った。
「何で、私だけ、助かる様にしたの? 本当は、お父様とお母様にも、笑顔で生きて欲しかったんだよ」
ララはそう言って、墓を撫でる。
そうして、しばらく経つと、雨が降って来た。
「あらっ、馬車に戻らないと」
急いで、馬車のいた所へ向かうと、馬車は止まっていた。
「お待たせしました。帰りましょう」
ララがそう言うと、馬車は走り出した。馬車は王都へ向かっているのだが、森は通らず、遠回りした。
(王子にまた会えるわ)
そうしたら、抱きしめられるどころではないだろう、と思っていた。
馬車は時期に王都へ着き。
「王子、ただいま帰りました」
ララがそう言うと、キャイルは、ギュッとララを抱きしめた。
「ララ、さみしかったよ」
「もう、王子ったら」
その後は、三度キスされた。
遅くなるまで、二人で、お茶をしながら過ごした。夜になると、王子は、メイド寮に戻ろうとするララを見て。
「ララ、また、メイド寮に行くの?」
拗ねたようにそう訊いてくる。
「当り前です。私は、メイドですから」
そう言って、旅行カバンを持って立ち上がった。
「ララは真面目だね、俺が、しっかりしなくちゃな」
キャイルは、顔を叩いてそう言った。
◆ ◆ ◆
メイド寮に戻ると、メイド長は、気合を入れて待っていた。
(ああ、絶対、ゴシップ待ちだわ)
そう思わずには、いられなかった。
「さあ、ララ・メローさん、素直にメイド寮に、今まで戻らなかった理由を教えてちょうだい」
「……えっと、一応王子にあいさつをしてきました」
「その時、口付けや、ハグなどの行為はあって?」
「ありません」
「本当? あなた、目が泳いだわよ」
(メイド長めざとい~)
心の中でそう思い焦った。
「本当に何もないです。王子とは、メイドと王子の関係を崩さないようにしてもらっています」
「本当?」
メイド長は、まだ、信じられないのか、何度も訊いてくる。




