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次の日、うさぎ小屋へ向かうと、案の定、王子がいた。
「ラ~ラ!」
「何ですか?」
「ララに会いに来たんだよ、君、昨晩俺が、どれだけ君の事を考えていたか、わかってないだろ」
「わかんないです、私は、ぐっすり寝てましたから」
後ろを向いた途端。
「ララ、ギュッとしていい」
「……はい」
後ろから、優しく抱きしめられる。
「ララの香水って甘い匂いがする」
「ベリーとフラワーの香りを使っているんです。その日の気分で」
「そうなの、ずっとこうしていたいな」
「……」
キャイルに抱きしめられているのを二羽のうさぎに見られている。
(少し、恥ずかしいかも)
「王子、いくらなんでも、ずっとはダメですよ」
「そんな~つれないな~」
手を離してくれた。
「ラビットちゃん、バニラちゃん、今日は、パセリとにんじんでちゅよ~、おいしいでちゅよ~」
二羽にエサをあげているララ。
「俺もうさぎだったらよかったのかな?」
「王子はうさぎみたいなものですよ」
ララが笑ってそう言う。
「? それって、どういう意味なの?」
「内緒です。女の子には秘密も必要なの」
◆ ◆ ◆
鼻歌を歌いながら、掃除に向かった。
「ララ、良いことあったの?」
リサに訊かれたので。
「ちょっとね」
と答えると。
「王子絡みでしょう、幸せそうなの顔に出ているぞ、誰かに気付かれるかもしれないわよ、ばれたら、大変でしょう」
「あっ、そうね、顔がゆるんでいたわ」
顔を叩く。
「よし、気合入った」
「がんばってね~ララ」
掃除は、いつも通り終わった。次に洗濯物を干すことにしたが、水に濡れていた、洗濯物は冷たい。
「寒い~」
(王子に心配かけられないのに~)
そう思って、洗濯ものを干して、メイド寮の暖炉に当たった。
「よっし! 温まった。これで、王子に心配かけないぞ!」
張り切ってキャイルの元へ行くと。
「王子、何か仕事は?」
「外から帰ってきたと言う事は、今日は、洗濯した?」
「ええ、まあ」
「手を出して」
「はい」
「あっ、温かい!」
王子はショックを受けたようにそう言った。
「王子、まさか、心配だとか言っておいて、私とイチャイチャしたかっただけなのですね? どうなんですか」
「い、いや~」
キャイルは慌てている。
「いいじゃないか、君のやわらかい手に触れて、近距離まで近づけるんだ。こんないい事は無いじゃないか」
「王子って、本当は、天然じゃないんでしょ!」
「えっ、言わなかったっけ、したいことして言いたいこと言うって、誰も、天然でやっているなんて一言も言って無いよ」
「たぬきだったのね! すっかりだまされたわ」
「うん、君は、すごくかわいかった」
「ちょっと、怒っていいですか?」
「えっ?」
その後、二分ほど王子を叱りつけた。
「だから、君が勝手に勘違いしたんでしょ」
「騙されている、私を笑っていたんでしょう」
「違うんだ、君が王子だと思っている間に、君のハートを奪っておかなければと思っていたんだ」
「ううっ……私、その作戦にしっかり引っ掛かっているじゃないですか」
「そうだね」
「全部、王子の思惑通り何てしゃくだわ」
「そうでもないよ、まだ、君の事公の場では言っていない、みんなに君に男がいることを教えないと、気が済まない」
「私が、誰かに言い寄られるって事?」
「うん、君ってかわいいから、心配になるよ」
「余計な心配です」
(結局、王子には、逆らえなかった。最後はいつも、大好きになって終わっちゃうんだから)
ララは心の中でそう思っていた。
「あら、ララさん」
王妃が入って来た。
「私に何か仕事をください、王子」
「じゃあ、母上の相手でもしてくれない?」
「え~私が……」
「ララさん、一度ゆっくり話してみたいと思っていたの」
「は、はあ……」
「そんなに気を使わないで、私もあなたの事を気に入っているのよ」
「……」
王妃は悩んだ後。
「あなたは、どこの出身、お父様とお母様は元気?」
「あっ、私は、孤児院の出なので、父も母も知らないんです。あと、どこで生まれたかも知らないんです」
「そうなの、聞いちゃいけなかったかしら?」
「いいですよ、私には、王族になる権利が無いのは、わかっていますから」
「あら、何も孤児だからってそこまで謙遜しなくてもいいのよ、私の国は、第三代国王の花嫁は、孤児院の出身だって、歴史があるもの」
「そうですね」
「あら、あなた、何か隠していない?」
王妃の目つきが変わった。
「いいえ」
「私、わかるのよ、あなたがウソをついている事位」
「えっと、えっと」
「話しづらい事なの? 実はキャイルが気にくわないとか?」
「い、いいえ」
王妃は、半分鋭くて、半分抜けているようだ。
「いいのよ、キャイル強引だから」
「えっ? 強引?」
「キャイルは、何か決めることがあると、大体、相手を無理やり言いくるめちゃうの、王の素質はあるけど、女の子にもあれじゃあ、嫌われちゃうと思って、心配していたの」
「えっ、あの優しいキャイル王子が」
「あらっ、好きな子には優しいの、あの子、わからない子ね」
王妃は楽しそうに笑う。
「母上、もういいでしょう」
「そうね、また来るわ」
王妃は手を振っていなくなった。
「王子、あなたって、本当は、どういう人なの?」
「う~ん、欲しい物や、やりたい事は、どんなことをしてでも手に入れたり、する、タイプかな?」
「じゃあ、私に優しくしていたのは、手に入れるため?」
「う~ん、半分そうだけど、半分違うな、君のそばにいると、妙に心が優しくなるんだ。不思議だね」
キャイルは笑っていた。いつもの優しい笑顔で。
「本当にキャイル様ってたぬき」
「は? 何で?」
「私、明日、一回、お屋敷を見に行こうと思うのですが、休暇をもらえますか?」
「うん、いいよ」
キャイルは、そう言った後。
「さみしくなるな」
「一日だけですよ」
「う~ん、やっぱり、不許可?」
「だめです。良いって言ったんですから」
「仕方ないな~」
キャイルは、書類にハンコを押した。
「では、いってまいります」
ララはうれしそうにそう言って、メイド寮に戻って行った。




