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ネコミミ王子と嘘つきメイド  作者: 花言葉
ララの秘密
17/23

3

 メイド長の元へ向かうと。

「大遅刻ですわね、もう午後一時ですよ!」

「はい、サグナ様のお手伝いをしていました」

「とかなんとか言って、王子かサグナ様と何かあったでしょう?」

(なんでわかるのよ)

 心の中で、冷や汗が流れる。

「その泣き後を見て、わからないようじゃ、メイド長は、やってられませんのよ、それで、どうなの」

「何もありません」

「ウソね、目が泳いでいるわ、捨てられたのね」

「いえ……」

(むしろ拾われた)

「あら、違うみたいね」

 メイド長は、つまらなさそうにそう言って、サグナに直接訊きに行った。

「さて、そうじをするか」

 ほうきを持って、ホールを掃除しに行く。

「ララ、今日どうしたの? 泣きはらしちゃって」

 リサが声をかけて来た。

「リサにだけは、後で話すね」

 そう言って、まず、ホールの掃除を終わらせた。

「ララ、泣いた後、良い事があったでしょう」

「リサ、何でわかるの」

「当然、女のカンよ」

 リサとメイド寮の個室へ入った。

「絶対、王子がらみでしょう。告白されたとか? プロポーズされたとか、それとも、キスした?」

「大体、全部されたかも」

「え~」

 リサは大声を出した。

「だって、君を手に入れたいとか、そばにいて欲しいとか、王子は、どんなつもりで言ったのかと思うと……」

「完全にクロだわ、ララ」

「えっ」

「王子はララにべた惚れしているのよ、男の口から、そんな甘だるい言葉が出て来るのは、よっぽどのたらしか、天然よ」

「王子は、たらしではないと思うので、後者で」

「は~、いいな、次期王妃か~、ララがね~」

「それは、わかんないよ、色々な理由で、降ろされるかもしれないし……」

「そうね、キャイル王子、近くの国の姫達からたくさん求婚されているらしいから、すごく力のある国の姫とかと結婚しそうだものね」

「えっそうなの」

「知らなかったの? じゃあ、なんで降ろされるのよ、メイドだから?」

「私は、孤児だからよ」

「ふ~ん」

 リサは納得しているのか、していないのか、わからないような口調で返事した。

「いずれにしても、ララは雲の上の人になるのね」

「リサってば、今まで通りだよ、私は」

「どうかしら」

 リサは、そう言って、持っていたコーヒーを飲む。ちなみにララはコーヒーが好きではないので、ココアをもらった。

「それにしても寒いよね」

「キャイル王子にでも、温めてもらえば」

「……」

「あっ、赤くなった、前科者だな、王子に温めてもらった過去ありね!」

「手をね、握ってくれたの」

「本当に、それだけ~?」

「リサ! 本当にそれだけだから」

 大声で言うと、扉が開いて。

「大声を出さないの、ララ・メロー、ゴシップなら聞かせなさいよ」

「「出た! メイド長!」」

「出たとは何よ」

 王子のゴシップをどうしても取りたいメイド長との戦いは、まだまだ続きそうだと思った。


◆ ◆ ◆


 キャイルの部屋に向かうと、サグナと話していた。

「それで、ララ・メローの過去をもみ消す方法を探しているだと!」

「ああ、ララを城に置いておきたいんだ」

「しかし、マティアス・メローの犯罪歴を見ましたか? 五〇人も殺していて、ばれていないものも含めば、一〇〇人を超えると言われる、暗殺貴族だぞ」

「それ、本当?」

 ララが立っていた事に、今まで、サグナすら気づかなかった。

「本当だ」

「一〇〇人もの人の未来を奪ったのね、お父様」

 ララは泣き崩れた。

 暗殺貴族、ここで気付いておけばよかった。暗殺で生計を立てるほど、殺すと言う事がどう言う事なのか。

「ララ」

「王子、いいんです。私の父のしたこと、すべて教えてください」

 キャイルは首を横に振って、言わないようにサグナに言った。

「王子、私は、知らなければいけないんです。そして、私は、その罪を受けます」

 キャイルは、ララの強い瞳を見て、観念したように頷いた。

「マティアス・メローは、三人の大臣を殺して、二五人の貴族を殺したとされている。しかし、毒殺、自殺などのケースでも、手を引いた可能性がある事件、八〇件」

「そんなに……私のドレス一着にどれだけの人の命があったのでしょうか、おいしいご飯は、誰の命の上にあったの……」

「ララ、君は、知らなかったんだろ」

「知っていたら、いらなかったわ、あんな立派なドレスも、おいしい食事も、でも、それは、いいわけか……」

「ララ、いいんだよ、君は笑っていれば、ララの父も、ララに暗殺を強要しなかったんだろ」

「でも!」

「君の父は、知ってほしくなかったんだよ、君の笑顔を守りたくてやった事なのかもしれないから。もちろん、人を殺して、君を笑顔にしたところで、君の父は、許されない。でも、ララには、この罪を被って欲しくないと思っているのはわかる」

「そんなの、勝手よ、お父様」

「確かに、血はつながっているかもしれない、でも、ララの手は血を浴びてない、全く罪が無いわけじゃないけど、幸せに成る権利位あるはずさ」

「王子、いいのですか」

「俺は、最初から決めていた、何があってもララを守るって」

「えっ? 最初っていつ?」

「言わない」

 その日から、暗殺貴族のデータを更新する作業をサグナが行い、マティアス・メローと書かれた書物は、すべて灰になった。

「やりますね、王子」

「王子か、キャイルって呼んでよ、ララ」

「ダメです」

「なんで?」

「王子との関係は、まだ秘密にしておきたいの、ばれちゃうでしょう、特にメイド長にばれると面倒よ」

「そうだね」

 キャイルも納得したようにうなずいた。

 すべてうまく行っているはずだった。

「でも、王子、ネコミミどうするんですか?」

「そういえば、生えてたんだよな~、ララの事で頭がいっぱいでどうかしていたよ」

「もしかして、もう、戻らないんでしょうか?」

「だったら、困るな~」

「私は、困りませんよ。いつまでも、王子のメイドでいられますからね……」

 ララはうれしそうにそう言う。

「今度、お墓参りに行くの、お父様とお母様に久しぶりに会いに行くの」

「ララは、お母様も死んじゃったのか」

「お母様も、毒を盛られて死んだらしいわ、人伝えにそう訊いた。昔住んでいた屋敷にも行こうと思うの、死んだ人の供養に」

「そうか」

 ララも一歩前に進んだ。

「よし、俺も、ネコミミを隠してなんかいられないな」

「言うんですか?」

「ああ、母上と父上には、言っておかないと」

「そうですよね」

 ララは少し残念そうだ。

「ヒミツが減っちゃいます」

「減っても大丈夫、俺達には、大きな秘密があっただろ」

「お父様の事?」

「違うよ」

(うさぎの事だよ)

 ララは、キャイルが顔を寄せて来て、耳元でそう言ったので、何でもない事だが、頬が熱くなってしまった。

「そうでしたね」

「かわいいな、ララ」

 頭を撫でられる。

「子ども扱いですか、私は、王子と二つしか違いませんよ」

「充分、年下だよ、ララ」

 キャイルは余裕そうに笑う。

「王子にふさわしい女性には、見えませんよね?」

「どこが、年下だって、ララは、かわいいから、ふさわしいと思うけどな~?」

「王子には、私がかわいく見えているようですが、みんなが認めるほど、かわいくは無いですよ」

「そうかな~」

 キャイルは、笑顔を浮かべてそう言う。

「じゃあ、サグナと相談して、ネコミミの事を話すタイミングを決めるよ」

「がんばってください」

 ララは部屋を出て行った。

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