表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ネコミミ王子と嘘つきメイド  作者: 花言葉
ララの秘密
16/23

2

 ララはうさぎ小屋に向かった。

「ラビットちゃん、レタスでちゅよ~」

 ラビットはぴょんぴょんと近づいて来て、レタスをおいしそうに食べている。

「おいしそうね」

 次にバニラに、にんじんをあげる。

「バニラちゃん、にんじんよ~」

 二羽の鼻のヒクヒクをみていたら、慰められた。

(うん、やっぱり、うさぎはかわいい)

 ララは、ポケットから、キャイルにもらったうさぎのキーホルダーが出ている事に気づいた。

「キャイル王子……」

 名を口にした途端。

「呼んだ?」

「えっ」

「ごめんね、今の見ていたんだ」

「王子こそ、なんでここに!」

 ララは後ずさった。

「そんなに警戒しなくてもいいじゃないか」

「私、あなたの気持ちを知りたくもないし、答えられもしないわ」

 そう言ってしゃがみこんだ。

「ララ」

 キャイルはいたたまれなくなった顔をしている。

「君は、何を隠しているんだ? それを教えてくれ、絶対に解決して見せるから」

「いいえ、無理よ、言えない」

 ララは、まだ、しゃがみ込んでいる。

「どうしてかな、こんなに手に入れたい、そばにいたいって思った女の子初めてかもしれない。君が逃げれば逃げるほどにね、そう思ってしまうんだ」

「だめです。近づかないで下さい、私は、ダメなんです」

 キャイルは、容赦なくどんどんララに近づいて行く。

「嫌がる女の子には、しないつもりだった。でも……」

 キャイルは、ララのあごに手をかけ、唇を奪った。

「王子様……」

 ララはぺたんと床に座り込んでしまった。

「どうして、私の心を鈍らせるような事をするんですか?」

「どうしてかな? したかったんだよ」

 キャイルは真剣な顔でそう言った。

「そばにいてよ、ねえ、ララ」

 そう言って、抱きしめてくる。

「……」

 ララは、泣きながら走った。

(ダメよ、私の心が許しても、私の血が許さないでしょ)

 心の中でそう言う。

「あら、ララさん」

「メイド長……」

「ついに捨てられたのね」

「……」

 少し、相談相手をメイド長にしたことを後悔した。とても、興味津々な顔をしてこちらを見ている。

(この人、ゴシップ集めてるんだった)

「ですから、男に心を許すなと言ったのですよ」

「あの、本当に捨てられたとかじゃなくて……ですね」

「王子と言えども、彼は男です。女の心など、理解できないのですよ」

「そうですよ、こっちが嫌がっているのに、キスするなんて」

「無理強いされたの? 今すぐ王妃に言いつけましょう、いくら王子でも、嫌がる女性の唇を奪ってはいけないのです」

「そういうわけじゃないんですよ」

 メイド長は、男を目の仇にしている。その理由は、別れた元夫のせいだろうけれど……。

「とにかく、男は敵ですよ、ララ・メローさん」

「はい」

「何かあったら、すぐ言いなさい」

「はい」


◆ ◆ ◆


 その日の夜、キャイルの部屋で寝るのが嫌で、メイド長と同じ部屋で眠った。

 次の日、メイドのいじめも落ち着いて来て、ララもいじめられなくなってきた。

(あんな風にふってしまって、会いに行くのは、悪い気がする)

 ぼーとしながら、掃除していた。

「ララさん、しっかりやってください」

「はい」

 さっさとほうきを動かす。

(間違いなく、私は、王子が好きなんだわ、でも、それで、王子を困らせるなんてダメだわ)

 一人で百面相していた。

「おじさん、野菜余っている?」

 掃除が終わり、台所でそう言って、いつも通り、レタスとにんじんをもらって、うさぎ小屋へ向かった。

「ラビットちゃん、バニラちゃん」

 二羽のうさぎは、ぴょんぴょんとはねながら出てきた。

「本当にかわいい」

 二羽を抱きしめて、野菜を食べさせる。

(いつも、王子はこのタイミングで出てくるんだけど……)

「やっ、ララ、無視なんてつれないな~」

(やっぱり、いた)

「すみません、でも、あきらめて下さりましたよね?」

「言わなかった? 逃げれば、逃げるほど欲しくなるって」

「……」

「君を泣かせたことは、後悔している。だけど、それであきらめるのは筋違いだと思うんだよね」

「王子……」

(この人は、何を言ってもダメそう)

「サグナに何か言われませんでしたか?」

「サグナは、なんか、毒について調べるから、刑務所に行くって言っていたけれど? それが何か?」

「それなら、帰って来たら、サグナに訊いてください、ララ・メローがどういう血筋の娘で、どんなことをしてきたか」

「?」

 キャイルは不思議そうな顔をして、部屋へ帰って行った。

「ラビットちゃん、きっとばれちゃうよね」

 涙が頬を伝わる。

「私、もう、王子のそばにいられないのかな?」

 地面に涙が落ちた。

「本当は、私も、はじめて、そばにいて欲しいと思ったんだよ……でも、無理だから……」

 涙があふれてくる。

「無理だから、大好きだった。で終わらせなくちゃ」

 ララは泣き崩れた。


◆ ◆ ◆


 キャイルはサグナの帰りを一人部屋で待っていた。

(ララの秘密か……)

 サグナの行ったところは刑務所、つまり、ララには、犯罪歴があるのだろうと思った。確かに姫になる人には、あってはいけない経歴だ。

(ララをあきらめるしかないのか?)

 キャイルは心の中で葛藤していた。

 そこに、サグナが帰ってきた。

「キャイル様、ララ・メローの事で話があります」

「わかった」

 覚悟をしてイスに座った。

「この、一冊の本を探しに行ったのです」

 サグナがそう言って一冊の黒い本を取り出した。

『暗殺貴族名簿』と書いてある。

 暗殺貴族と言うのは、暗殺で収入を得ているお金持ちの事である。

 それは、偉い人になればなるほど、国の重要人物の殺害を依頼されて、高収入を得ている。

 つまり、黒い貴族だ。

「この中に、ララ・メローが書いてあったのか?」

「いいや、書いてあったのは、マティアス・メローだよ」

「……ララの父親か?」

「マティアス・メローは、カランの毒を盛られて死んだと書かれている。ララも、そう言っていたので、間違いないだろう」

「それじゃあ、ララは、本当に暗殺貴族で暗殺者の娘」

「キャイル様の暗殺計画も、マティアス・メローの家からみつかった」

「……」

 ふと、ララの時計の事を思い出した。

(あれは、俺がまだ7才だったころ、城に入り込んだ男の腕についていた物だったような気がする)

 キャイルは冷や汗を流している。

(あれが、ララの父親!)

「どうしました? キャイル様」

「俺、会っているよ、マティアス・メローに、間違いないと思う」

「そうですか、それなら、ララ・メローをいくら気に入っても、手を出してはいけませんよ」

「ああ」

 キャイルは沈んだ気持ちで返事した。

(ララの言った通りだ。ララは俺の隣には立てない)

 悲しい気持ちが込み上げてくる。

(ララの事をあきらめられるか? いや、あきらめるしかないんだ)

 ララは、こうなることをわかっていて、距離をとっていたのか。

 何だか、情けなくなった。

(俺のやっていた事は、ララを困らせるだけだったんだ)

 ララを気に入った時から、ララを試すと自分に言い聞かせながら、色々な事を仕掛けてきた。

 それは、ララを見ていると、無性に触れたくなるのだ。

「ララの手、柔らかくて、触ると安心できるのに……」

 ララを手放す決意をしなければいけないと思った。

「はは、ララを手放す? そんなこと、したくないよ、ずっと、俺のそばに置いておきたいのに……」

 朝、目が覚めて、一番最初にララをみると、心の底から安心する。

「ララ、もう一度、君の手をにぎりたいよ」


◆ ◆ ◆


 ララは、その頃、うさぎ小屋にいた。

「さぼっちゃった」

 泣き顔を見られたら、ゴシップ好きのメイド長の恰好のエサにされそうだし、心配する人もいるかもしれない。

(王子をふったなんて言えない)

 心の中で、本当は真実を知られるのが、嫌な自分がいた。

「あーあ、ばれちゃったよね、全部」

 いつ追い出されてもおかしくない理由になると思った。これから、どうやって暮らして行こうか悩んだ。

(孤児院で先生をやるとか? どこかのお屋敷でメイドをするとか?)

 考えて見たが、少し気が乗らない。

(もう、会えないのかな? 王子に……)

 ララの父は、暗殺者だ。しかも、位は上の方、きっと、王子も殺すターゲットだったと言うこともあるだろうと思った。

(命を狙った男の娘なんて、気持ちも冷めたでしょうね)

 少し、笑った。

 おかしい、私、一体を期待しているんだろう。

 ララは少しだけ、王子が嫌わないでくれるのではないかと考えてしまったのだ。

(だめよ、王子は優しいけど、これだけは、あきらめてもらわないと)

 ラビットが足に絡み付いてくる。

「どうしたの? ラビットちゃん」

 ヒクヒク鼻を動かすその姿は、かわいかった。

「もし、ラビットちゃんが、うさぎを殺すようなうさぎだったら、私、嫌いになっていたかな?」

 考えてみた。

(少し、軽蔑してしまうかも)

 でも、完璧に嫌いになるだろうか? と考えた時。

(きっと、嫌いになれないわ、止める様にしつける事は、するだろうけど……)

 ララは、自分はこう考えるけど、王子はどうなんだろうと、気になりだしていた。

 ララは、父が暗殺している事を知った時、ララに対しては、優しくて、いい父親だった父を嫌いになれなかった。

「私って、変わっているのかしら?」

 バニラに向かってそう訊くが、ヒクヒク鼻を動かしているだけだった。

「はー」

 ため息が出た。

 そこにキャイルが走って来た。

「サグナから話は全て聞いた」

「……」

(ほらね、別れを言いに来たのよ)

「今まで、君を困らせていたことは、謝る。でも、もう一度だけ、君の手を握ってもいいかな?」

「冷たいですよ」

「じゃあ、温めてあげるよ」

 そう言って、キャイルは、ララの手を握った。

「君の手は、やっぱり落ち着く」

 額をララの手と自分の手の間にくっつける。

「あの、私は、いつ、この城を立てばいいんですか?」

「えっ? なんのこと」

「お別れを言いに来たのではないのですか?」

「お別れ? そうか、暗殺貴族の娘は城に置けないのか!」

 キャイルは今さら気づいたようにそう言った。

「しっかりしてください」

「個人的には、追い出すつもりは無いから、後、俺は王子だから、もみ消せるだけもみ消すよ」

「えっ?」

「暗殺貴族の人って、うまく生きているから、刑務所に入ってもばれているのは、大体、サグナ級の偉い人だけだし、今まで、だれも、君を暗殺貴族と特定できなかったのは、君のお父さんの生き方がうまかったからだね」

「そうですよね、普通ばれますよね、あんな風に言ったら」

「だから、もみ消せるだけ、消してみるから、もう少しそばにいてよ、ララが迷惑じゃなければだけど」

「あの、実は、私、暗殺貴族の出だから、時々、気配を消していたの気付いていましたか?」

「えっ? そんなことできるの?」

「父から教わった唯一の事なので……」

 キャイルは、笑って。

「何かに役に立つといいね」

「そうね」

「目が真っ赤だよ、うさぎみたいだね」

 キャイルは無邪気にそう言う。

「いいえ、うさぎの目の方が丸くてかわいいです」

「そうかな? 俺は、ララの目好きだよ」

「!」

(好きだよって……告白?)

「サグナの目も好きだな、ごつい体なのに、目は普通に光るんだよ」

「そ、そう」

(ちょっとだけ期待した私がバカだった。王子は天然だったんだわ)

「でもさ、ララは迂闊だよ、自分が暗殺貴族だって事、平気で言っちゃうんだもの、ウソだと思われなかったら、危なかったのに……」

「い、いやー実は、メイドになったばかりのころは、父が貴族って事しか知らなくて、貴族は、人殺しする物だと思っていたから、自慢のつもりで、貴族の出なのって言っていたの」

「でも、つい、こないだまで言っていたよね?」

「ウソと思われているから、いいやと思って、ほら、女同士ってこういうキャラだよって言うのが必要なのよ」

「つまり、うそつきキャラを演じていたんだ」

「そうなの、メイドの仲間の中では、定着していたから」

「ララも大変だね」

「えへへ」

 恥ずかしいので、照れてそう言った。

 ララは、虚言癖でもなければ、うそつきでもない、うそつきキャラだったと言う事がばれてしまったので、下を向いている。

「辛くなかった?」

「えっ?」

「ウソついていないのに、うそつきって呼ばれて」

 キャイルは優しい目でそう訊いてきた。

『辛くなかった?』

「辛かったのかもしれない、私、平気だと思っていたけど」

「ララ」

 キャイルはララを抱きしめた。

「よく耐えたね、俺がほめてやる」

 頭を撫でられて、心がポカポカしてくる。

「王子……」

 キャイルの頭をなでる手つきは、優しくて、心の底から、うれしさが溢れて来そうになる。

(落ち着け、私)

 ララは、ぐっとこらえた。

「いつまで、撫でているんですか、私は子供じゃありません」

「ごめん」

 頬が熱い、きっと顔は赤くなっているだろうとは思った。

「ララって、本当にかわいいな」

 キャイルは、笑顔でそう言いながら、笑いをこらえているようだった。

「王子~、バカにしないでください」

「ごめん、ごめん、今回は、本当にかわいすぎて笑いが出た」

 また、頬が熱くなる。

「あんまり、かわいいって言わないで」

「なんで、かわいいのに」

 キャイルは、楽しそうにそういう。

「もう、お別れしないんですから、持ち場に戻りましょう、私、メイド長にこってり絞られてきます」

「そうだね、俺が、引きとめたって言ったら、あのメイド長だ、「ついに王子が私のメイドに手を出したのよ」とか言いそう」

「そうだね」

 王子のものまねが、面白すぎて、大笑いした。

「サグナの手伝いをしていたことにしたら、怒られないんじゃないか?」

「あっ、そうか、でも、いいの」

「今回は、俺のせいだ。俺の部下に口封じしておくよ」

「ありがとう」

 キャイルの頬に軽くキスした。

「えっ、今のって、もしかして――」

「お礼よ、お礼」

 ララはそう言って、頬を抑えて走って行った。

(はずかしい~)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ